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北朝鮮のミサイル発射 その真の狙いは?(辺 真一)

「人工衛星」と称する北朝鮮の長距離ミサイルの発射はいよいよカウントダウンに入る。燃料注入が始まれば、1~2日以内に打ち上げられる。

発射失敗(4月13日)から1年もしない短期間での再発射は、何が何でも17日の金正日総書記の命日(一周忌)にまで間に合わせなければならないとの切羽詰まった事情によるものか、それとも、よほどの自信があるのか、どちらかだろう。

所管の朝鮮宇宙空間技術委員会は「我々の科学者、技術者は、去る4月に行った衛星の打ち上げ時の欠点を分析し、衛星を打ち上げる準備を終えた」からだと説明しているが、信じられないことに平壌から聞こえてくる話では「失敗から一週間で原因を究明した」とのことだ。

同委員会は「今回の衛星打ち上げは、強盛国家建設を推し進めているわが人民を鼓舞することになる」とまたもや前宣伝しているが、4月の鳴り物入りの発射が失敗し、赤っ恥を掻いただけに今度こそは、絶対に失敗が許されないだろう。

しかし、問題は、なにを基準に成功、失敗と判断するかだ。

よくよく考えてみると、北朝鮮による「衛星発射」はかつて一度でも成功したためしがない。

北朝鮮が「衛星」と称する発射は公式的にはこれまでに過去3度あった。1998年8月31日と、2009年4月5日、今年の4月13日の3度だ。

最初の1998年の時は、事前通告なく、日本列島に向かって発射された。日本ではテポドンミサイルが飛んできたと大騒ぎとなったが、北朝鮮は発射から4日後唐突に「人工衛星の打ち上げに成功した」と発表した。

北朝鮮は衛星発射に不可欠な宇宙条約にも加盟しておらず、国際民間航空機機関(ICAO)や国際海事機関(IMO)にも事前通告してなかったから誰もが驚いた。

当時の発表によると、1段目は発射から1分15秒後に日本海(253km)公海上の地点に落下、2段目は4分26 秒後に発射地点から1646km離れた三陸沖合(620km)に落下し、最終的に衛星は「発射から4分53秒後に軌道に乗った」ことになっている。

北朝鮮は「軌道に上がった衛星からモールス通信を通じて『金日成将軍』の歌が電送されている」とか、「衛星が地球を回っているのを肉眼で確認できる」と、国民に伝え、さらに国民が上空を見上げているシーンをテレビで放映していたが、不思議なことに隣国の日本、中国、韓国を含め北朝鮮以外のどの国も衛星も、モールス通信も確認できなかった。

米国防総省も韓国国防部も「10kg程度の物体を軌道に乗せようとしたようだが、軌道に乗る必要な速度に達せず、失敗した」との公式見解を出した。北朝鮮の同盟国でもある中国も友好国のロシアも北朝鮮の主張には組しなかった。

二度目の2009年の時は、国際民間航空機機関(ICAO)や国際海事機関(IMO)に通告した上で、打ち上げた。

1段目は発射地点から650km(秋田沖130km)に、2段目は発射地点から3,600km(銚子沖2,150km)に落下し、前回同様に衛星は無事軌道に上がり、打ち上げられた試験用通信衛星からは「金日成将軍の歌」と共に「金正日将軍の歌」も流れていると伝えた。これまた前回同様に中露含めて他の国々には傍受できなかった。

北朝鮮は、どうやら30kgぐらいの物体を軌道に乗せようとしたようだが、軌道に上がらなかったというのが正解のようだ。失敗の原因は、発射体の3段階目が正常に分離されなかったのが原因と指摘されたが、それでも北朝鮮は4日後に開幕した最高人民会議の場で「人工衛星の打ち上げに成功した」と発表した。

そして、3度目の今年の4月は、外国から報道陣を招き、公開で行われが、発射から1~2分程度で空中爆発し、北朝鮮も失敗を認めざるを得なかった。

再発射される「衛星」には通信機材の他に高感度のカメラも設置されているようだが、ならば将軍様の歌の他に解明度の高い衛星写真も電送されるはずである。これが確認されるかどうかが、成否を占うバロメーターとなるだろう。

仮に発射の狙いが衛星の打ち上げでなく、大陸間弾道ミサイル(ICBM)、核ミサイルの開発にあるならば、成否の基準は異なる。

何よりも、発射推進体(ロケット)の飛距離は確実に伸びている。

米国防総省は98年のテポドン1号について「3段式で、射程距離は約5,000kmと推定される」(98年9月15日)と発表し、米CIAも「(先端の物体)は4,000~6,000kmは出た」と推定していた。ラムズフェルド元国防長官にいたってはこの時点で「これはICBMに匹敵する」とコメントしていた。

また、テポドン2号については先端部分は捕捉できなかったものの、2段目については、これまで考えられていた3,200kmより600kmほど長い、舞水端里の発射場から3,846km離れた地点に落下したことが確認されている。

さらに「衛星」と称する先端の物体も10kgから30kg,そして今度は100kgと搭載量も確実に増している。

北朝鮮の発射の狙いが、米国が憂慮する将来の小型核弾頭の搭載にあるならば、二度目の2009年4月5日の発射については米国の航空専門誌「スペース・フライト・ナウ」(4月11日付のインターネット版)がレーダー追跡と米国防空司令部の支援プログラムである警報衛星資料を参考に「三段目は大気圏に墜落直前に一時的に宇宙に進入した」とみなしていることから後一歩のところまで来ているのは間違いないようだ。

北朝鮮がいつの日にか核ミサイルの発射に成功すれば、理論的にミサイル防御(MD)システムの核心でもある米国の精密打撃能力を支援する米国の軍事衛星を破壊することも可能となる。ブルキングス研究所のマイケル・オーヘンラン専任研究員は米下院軍事委員会で「理論的に北朝鮮がミサイルに核兵器を装着し、宇宙空間で核兵器を爆破させれば、衛星は破壊される」と証言している。

ゲーツ前国防長官は昨年1月、訪問先の中国で北朝鮮のミサイル開発について「5年以内に北朝鮮が大陸弾道弾ミサイル(ICBM)を配備するかもしれない。そうなれば、米国の安全保障にとって極めて脅威」と発言していた。

今回の発射基地のある東倉里を起点にすると米本土西海岸まで距離にして12,000km、ハワイは7,800km、アラスカは7,600km、まだ北朝鮮のミサイルは届かない。

米国としては衛星であれ、ミサイルであれ、何としてでも阻止したいところだろうが、現状は、傍観するほかないようだ。

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