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北朝鮮がミサイル発射準備 損得を考えない国はどう動く?(辺 真一)

北朝鮮のミサイル、発射するのか、しないのか!?

北朝鮮が長距離弾道ミサイル(北朝鮮は「衛星」と主張)発射の準備をしているとの情報が急速に広まっている。

この情報は(1)4月の発射失敗後、エンジン噴射実験が少なくとも2度行われていた、(2)今月初旬に平壌市山陰洞にある兵器工場から、ミサイルの部品が東倉里のミサイル発射場の組み立て棟に運ばれていた、(3)発射場周辺で燃料関連に関する作業が始まっていることなどが、偵察衛星によって確認されたことに起因している。

日米韓3か国は、北朝鮮の代表が先月と今月の2度、国連総会の場で「実用衛星を打ち上げる」と表明していることから、その可能性を想定して情報の収集を急いでいる。

仮に、北朝鮮が今年2度目となる発射を計画しているとすれば、考えられる動機は、二つだ。

一つは、来月(12月)17日の金正日総書記死去一周忌に向けての「弔砲」との位置付けだ。

北朝鮮にとって「衛星」の打ち上げは、金正日総書記の肝いりで、1998年、2006年、2009年と3度試みたものの、いずれも成功しなかった。金正日死去から4か月後の今年4月、金日成主席生誕100周年の記念行事の「目玉」として再度挑戦したが、これまた失敗に終わった。

後継者の金正恩第一書記としては、父親の屋号である「光明星」という名の「衛星」を自身の屋号でもある「銀河」と名付けたロケットで打ち上げ、成功させることで、父親の一周忌に孝行したいとの強い思いがあるのかもしれない。

まして、一周忌から二週間後の12月30日は父親の後を継ぎ、最高司令官に就任した日でもある。衛星打ち上げに成功すれば、就任一周年の「祝砲」ともなり、最高司令官としての威厳も保持できる。4月の失敗で失墜した国威の発揚にもなる。さらに付け加えるならば、来年1月8日は正恩氏の30歳の誕生日でもある。それに向けての「祝砲」ということにもなる。

もう一つは、韓国が今月29日に人工衛星「羅老号」の打ち上げを予定していることと密接に関連しているのかもしれない。

北朝鮮は国際社会が、北朝鮮の衛星発射に反対し制裁を科す一方で、韓国の衛星発射を容認していることについて再三にわたって「二重基準」と国連、国際社会を批判してきた。

今年5月にエジプトのカイロで行われた非同盟閣僚級会議で、北朝鮮の朴義春外相は国連の二重基準を批判したうえで、北朝鮮の衛星発射は「宇宙の平和的利用に関する普遍的な国際法に基づく、自主的で合法的な権利の行使である」と演説したばかりだ。

国際社会の「ダブルスタンダード」を印象付け、自らの主張の正当性をアピールするには、発射のタイミングを韓国の衛星発射後に定めているのかもしれない。

それにしても、発射を強行した場合、常識に考えて、北朝鮮にとってあまりにもデメリットが多すぎる。

第一に、解除を求めている国連の制裁が逆に強化され、外交的孤立と経済苦境という二重苦がさらに加重されることになる。

第二に、来年1月に二期目を迎えるオバマ政権が態度を硬化させれば、北朝鮮が期待している米朝交渉や6か国協議の早期開催も困難となり、悲願の米朝関係正常化も、平和協定の締結も遠のくことになる。

第三に、交渉が再開されたばかりの日朝政府間協議も吹っ飛び、北朝鮮が待望している日本独自の制裁緩和も不可能となる。それどころか、仮に安部政権が誕生すれば、人とモノの全面禁止などさらなる制裁強化を招くことになる。

第四に 発射を強行すれば、「北の脅威」が叫ばれ、来月19日に投票が行われる韓国大統領選挙で、対北融和派の野党候補への「北風」(逆風)となり、最も嫌っている与党候補を利することになる。

第五に、中国の反発を買う恐れがある。

中国の梁光烈国防長官は今年7月に訪中した韓国予備役将軍代表団との会談の席で「中国は今後、北朝鮮のいかなる挑発も容認しない」と言明したうえで「金正恩時代は、金正日時代に比べて、中国の助言に耳を傾けるだろう」と語っていた。

仮に、金正恩新体制が中国の意向を無視し、発射を強行した場合、現在推進中の経済協力にブレーキがかかるどころか、初の金正恩訪中も台無しになるかもしれない。そうなれば、金正恩第一書記が力を入れている経済の再建もおぼつかなくなる。

発射することの損得を考えた場合、今回はやらず、北朝鮮との直接交渉に応じようとしないオバマ政権への揺さぶり、牽制の可能性のほうが高い。4月のミサイル発射失敗の後、核実験は確実と囁かれたたものの、そうした素振りを見せただけで実際にはやらなかったこと、さらには韓国に対して「特別行動(軍事攻撃)を間もなく開始する」と脅したものの、結局はやらなかったことがその裏付けとなっている。

従って、今回も単なるデモンストレーションに過ぎないのではとの見方を取っているが、油断ならないのは、北朝鮮は損得を考えて行動をする国ではないことだ。

失敗した4月13日の発射は、6か国協議再開の道筋を付け、さらに米国から食糧支援を取り付けた米朝合意直後に行われたことだ。合意が破棄されるのを覚悟した上での決定だった。

北朝鮮は「衛星発射」は「民族の尊厳と国の自主権に属する問題である」(金正恩第一書記)とみなしていることや、この開発にこれまで莫大な費用を投じていることから開発、発射を断念することはない。仮に今回は見送られたとしても来年か、再来年には必ず決行するだろう。

伝えられるところでは、ミサイルはまだ発射台には載ってないようだ。発射台に載せ、燃料を注入し、打ち上げるには最低で3週間はかかる。また、発射を計画しているなら、航空機や船舶が周辺空域や海域内に立ち入らないよう事前に国際民間航空機関や国際海事機構などに事前通告しなければならないが、今のところそうした通告も出されてない。

過去のケースを参照すると、1998年8月に三陸沖に飛来してきたテポドン1号は偵察衛星発射準備を察知してから24日後に発射されている。また、2009年4月のテポドン2号は、北朝鮮の打ち上げ発表から41日目、そして、今年4月のテポドン3号は、26日目に発射されている。

北朝鮮が本当に年内に発射するなら、今月下旬には正式発表があるはずだ。

やるのか、やらないのか、あと一週間でわかる。

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