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ダライ・ラマと中国共産党大会(相馬勝)

チベット仏教の指導者ダライ・ラマ14世が11月、2週間ほど日本に滞在し、横浜や東京、金沢、そして沖縄を訪問して、それぞれ法話や講演を行った。私はダライ・ラマの横浜での記者会見や沖縄での講演を取材し、さらに単独会見も行うことができた。この結果については、後日詳しく雑誌などで発表することになる。

[caption id="attachment_5198" align="aligncenter" width="480"] (沖縄で単独会見に応じるダライ・ラマ=筆者撮影)[/caption]

ダライ・ラマは昨年すでに政治的には引退しており、政治的なことはハーバード大学のロースクールを出たロブサン・センゲセンゲ氏が責任を持っているので、いまは宗教的な指導者としての活動に専念している。そこで、彼は行く先々で、まるで前置きのようにダライ・ラマ自身の「3つの使命」を強調していた。このブログでは、これを書いてみたい。
その第一として、ダライ・ラマは「1人の人間、70億人の人類のひとりとして、よりよい社会の土台を作ること」を挙げていた。つまり、幸せの土台とは人間性を高めることであり、あらゆることに責任を負っていくことだ。とくに大事なことは宗教を通じて、今後の世界を担う若い世代に、人生にとって大事なことは何か、良き人生とは、究極の幸せを創造するにはどうしたらよいか―ということを話しているという。
ダライ・ラマが言うには「幸せな人生とはお金やモノが抱負にあると言うことではなくて、人間の内面性を豊にすることであり、それは人を思いやる温かい心から出てくるものだ。私も自分の心を依り平穏にして、幸せに暮らすことができている」と語っていた。

[caption id="attachment_5197" align="aligncenter" width="480"] (沖縄で植樹に臨むダライ・ラマ=同上)[/caption]

次は、「異なった宗教間の理解を実現すること。これを自分自身の大きな使命にしている」と指摘していた。世界では宗教の違いや考え方の違いで、暴力が発生し、殺し合いまで起こることがある。そういう宗教の悲劇を繰り返さないためにも、ダライ・ラマは世界中を回って、異なった宗教の指導者らと話し合い、相互に理解し、調和を促進していくことを、ダライ・ラマが「死に至るまでの使命にしている」と述べていた。
第3は「チベット人として、世界の人々が生きていて幸せだと実感できる社会を築くこと」。ダライ・ラマいわく、彼は1年半前、政治的指導者の立場を退いた。チベット社会は民主主義で、選挙で選ばれた指導者が政治的責任を負っている。これによって、半分くらい引退し、さらに1年前に、政治的指導者としては完全に引退したとして、「今後は仏教徒、僧侶として、みなさんにアドバイスをする。すべての仏教国家、たとえば中国、日本、ベトナムなどで、完璧な知識を備えた仏教徒を育て、それらが21世紀の仏教として存在すべきだ」と強調した。

[caption id="attachment_5203" align="aligncenter" width="480"] (沖縄で「ひめゆりの塔」を訪問したダライ・ラマ=同上)[/caption]

ただ、私のブログを読まれる方は、ダライ・ラマの宗教観についてはあまり関心がないと思うので、この14日に閉幕した中国の第18回党大会について、彼の感想を聞いてみた。「党大会の人事はトップシークレットだ。私が今後の中国を担う新しい指導者について語っても、メディアの人々が書くだけで、中国からは何ら肯定的な反応は出てこないだろう。だから、ここでは触れない」と言っていた。
ダライ・ラマが中国の指導者やチベットの内部状況などについて触れても、中国では外務省のスポークスマンらが滅茶苦茶に非難するだけなので、なにも述べないというのは一種の見識だと思うが、それではブログの読者さんとは肩すかしを食らったような感じでしょうから、今回の党対人事については、私が香港の中国筋から取材し、隔週刊誌「財界」(12月4日号)に書いた内容をここで掲載させていただきたい。(News-logオリジナル)

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財界)温首相一族の秘密資産スキャンダル

中国共産党の第18回党大会が11月8日から北京で開催し、大会後の第18期中央委員会第1回総会で今後5年間の最高指導部が正式に発足する。
私が得た情報では、最高指導部メンバー7人は党総書記に就任する習近平副主席のほか、来年春の全国人民代表大会(全人代)で首相に昇格する李克強副首相、全人代委員長含みの張徳江・重慶市党委書記、中国人民政治協商会議(政協)主席に就任予定の俞正声・上海市党委書記、党書記処書記に就任予定の劉雲山・政治局員、党中央規律検査委委員会書記予定の王岐山・副首相、最後に筆頭副首相予定の張高麗・天津市党委書記―となる(この部分は一部変えています)。

[caption id="attachment_5205" align="aligncenter" width="480"] (新華社のホームページから)[/caption]

胡錦濤主席に近い李源潮・党組織部長と汪洋・広東省党委書記の常務委入りは見送られたという。香港の中国筋は「李鵬首相ら党長老が『2人は熱心な改革派だけに、常務委入りさせれば、1989年の天安門事件の名誉回復や政治制度の民主改革を進めかねない』と強い警戒感を示したためだ」と指摘する。
中国では党最高指導者を務めた党長老は隠然たる発言力を有する。それを象徴するように、ここ2カ月だけでも、江沢民・元主席や江氏のライバルだった李瑞環・元政協主席、江氏に連なる朱鎔基元首相と李嵐清・元副首相の動向が伝えられており、指導部人事をめぐり、党長老を巻き込んで激しい駆け引きが展開されているようだ。
このように、今回の党大会をめぐっては異常事態の連続だった。まず常務委入りが確実視されていた薄熙来・重慶市党委書記が妻の英国人殺害事件発覚により身柄を拘束され失脚した。

[caption id="attachment_5206" align="aligncenter" width="480"] (ダライ・ラマ「語る」の新書本=小学館101新書)[/caption]

さらに、まだ記憶に新しい尖閣諸島をめぐる激しい反日デモや悪化する日中関係だ。前号で触れたように、これも権力闘争に利用された可能性が強い。
その後、権力闘争は落ち着いたかと思ったのも束の間、10月下旬、突如噴出したのが温家宝首相一族の秘密資産スキャンダルだ。
「温おじいさん」とか「国父」と慕われ、「清廉」とのイメージが強い温首相の一族が約27億ドル(約2160億円)もの資産をため込んでいたというのだから中南海に強い衝撃が走った。しかも、調査報道で定評がある米紙「ニューヨーク・タイムズ」が報じただけに直さらだ。温首相といえば、薄熙来氏追及の急先鋒で、胡主席に極めて近いだけに、このスキャンダル報道は陰謀説もささやかれた。
これは党大会直前まで人事をめぐる権力闘争が展開されていることを示しており、当大会後も主導権争いをめぐって熾烈な闘争が継続される可能性が強い。