福島:検討委員会「血液検査の現状報告」(おしどりマコ)
福島県、県民健康管理調査検討委員会の血液検査、
白血球の分画についての取材をまとめる。
(筆者は第4回から傍聴している。
第1~3回までは、傍聴はできず、密室の議論のみ、
開催日時は地元記者クラブにだけ通知され、
地元記者クラブだけがぶら下がり取材をするという状況であった。
筆者は、東京から傍聴に行きたいので開催日時を教えてほしい、
と福島県庁の担当課にたびたび要望していたところ、
第4回から傍聴・取材可能となり、出席した。
その模様は第27回「脱ってみる?」にある。
http://www.magazine9.jp/oshidori/111102/index.php )
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外部被ばく線量の推計値が高い住民に「白血球の分画」を上乗せ
第4回検討委員会(2011年10月17日)の当日配布資料
http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/kenkoukanri_231017shiryou.pdf
資料6の、県民健康管理の「健康診査」に注目する。
対象者:避難区域等の住民 および 基本調査(※)の結果必要と認められた方
内容:一般検診項目+白血球分画等
(※ 基本調査とは、3月11日以降の行動記録をつけたものを評価し、
外部被ばく線量の推計値を出す調査である。
つまり、「基本調査の結果必要と認められた方」とは
外部被ばく線量の推計値を出した結果、必要と認められた方という意味である。)
「既存の検診を活用」というのは、特定健診
(40歳~74歳の保険加入者を対象とした、通称メタボ検診)のことである。
いわゆる生活習慣病をチェックするための検診であるが、
この対象者カテゴリにだけ「白血球の分画」の検査が上乗せされるのである。
そして、特定健診にあてはまらない40歳以下の方々にも
同等の検診を健診機関や指定小児科医で受診、と発表された。
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健康診査の実施状況、なぜ白血球の分画を上乗せするのか? の回答無し
第5回検討委員会(2012年1月25日)配布資料
http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/240125shiryou.pdf
ここで、健康診査の実施状況が示される。
0~6歳、7~15歳、16歳以上の年齢区分で、血液検査を実施していることがわかる。
このとき筆者は、なぜ特定健診に「白血球の分画」を上乗せするのか質問した。
しかし、明確な回答は得られなかった。
異型リンパ球について
第6回の検討委員会に移る前に、「異型リンパ球」について触れたい。
筆者が質疑で触れるからである。
1月から3月にかけて、筆者は福島第一原発の作業員の方々から
「電離検診にひっかかった」という報告を相次いで受け取る。
「電離検診」とは、電離放射線障害防止規則に基づいて、
定期的に受診しなければいけない健康診断である。
この「異型リンパ球」という項目にひっかかった、というのが
彼らに共通した異常であった。
通常の血液検査には「異型リンパ球」という項目は無い。
正常ならば0%であり、出現すれば異常なので、
その場合、特筆項目として付け加えられるのである。
しかし、「電離検診」には初めから「異型リンパ球」という項目がある。
追加されたのは平成13年3月30日からで、
ICRPの1990年勧告を国内法に取り入れたときである。
労働安全衛生規則及び電離放射線障害防止規則
の一部を改正する省令の施行等について
http://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-42/hor1-42-20-1-0.htm
25 様式第1号関係
(1)今回の改正では、用語の変更のほか、眼及び皮膚について事故等による線量の記載欄を設け、
「白血球百分率」として「異型リンパ球」の欄を設け、
そして眼及び皮膚の定期健康診断が6月以内ごとに1回となったことを踏まえた欄の変更等を行ったこと。
異型リンパ球はEBウィルス、サイトメガロウィルスなどのウィルス感染や
急性腸炎の反応性変化などでも見られる。
しかし、なぜ電離検診の項目に追加されたのか。
ICRPの1990年勧告から、それに対応するところを抜粋する。
(261)事故の潜在的大きさによっては、もし必要なら、
医師は診断検査および治療の適切な準備が確実にできるようにすべきである。
このような状況では考慮すべき1つの実験室検査はリンパ球の染色体異常に関する検査である。
この検査は、起こったかもしれないと思われる事故のあとにしばしば有用な結果と補償を与えることができる。
血液試料を送付できるような検査機関が多くの国にあるため、各施設内で準備する必要はめったにない。
リンパ球の染色体異常に関する検査と、白血球の分画で異型リンパ球の出現を見る検査は
異質のものであるが、
どのような議論があって、異型リンパ球の項目が追加されたか、
当時の放射線防護の議論に加わった方々数人にヒアリングをした。
追加調査をして、改めて、後程まとめる。
白血球の分画で異常が出たから、といって、すぐに被ばくの可能性があり、
必ず白血病になるのかというわけでは決してない。
しかし、何らかのマーカーになる可能性はある。
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なぜ白血球の分画を上乗せしたのかについての回答が出る
第6回検討委員会(2012年4月26日)配布資料
http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/240426shiryou.pdf
「白血病分画等の項目を上乗せした健康調査」の対象
・原発事故による放射線により、白血病発症リスク増大が考えられるもの
(今回の事故による被ばく線量について情報が乏しい段階での検討)
・避難を余儀なくされ、疾病予防上不利益を被ったと考えられるもの
(通常の生活習慣リスクに加えて、炎症などの評価も追加)
しかし、健診を受けた人数をとりまとめたものは発表されるが、
肝心の結果についての評価は無い。
15歳以下の子供は県内で13557人、県外で4199人、受診したのだが、
評価として出されたのは、受診率についてのみである。
委員会終了後の会見で、この件に関しての筆者の質疑を書き起こす。
――この基礎検診以外の方は生活習慣病を診る、
という事で白血球の分画は上乗せされておりませんが、
これはどういう議論があったのかお聞かせ願いたいのと
「白血球の分画は白血病発症リスクの増大が考えられるもの」という事ですが
今まで実施された方の中で、白血球の分画に異常のあった方はどれくらいあったのでしょうか。
細矢光亮 福島県立医科大学医学部 小児科学講座主任(教授)
「最初の質問はちょっと取られなかったのですが、
後の質問だけ最初に答えておきますと。
えー、まだ集計が全ては済んでおりません、えー、既にあのー、えー、
特定検診上乗せの項目あるいは県内の16歳児の集団検診についての結果は来ておりますけども、
その他についてはまだ、データは完全にそろっていませんので、
一部のデータと云う事でご理解いただきたいのですけども、
例えば白血病を疑わせる結果、放射線の影響で起こった白血病を疑わせるような
白血球分画の異常というのは出ておりません。
――わかりました、ありがとうございます。
例えば、電離放射線障害防止規則の電離検診では
白血球の分画に個別に異型リンパ球が追加されておりますが、
異型リンパ球の出現率は大体どの程度であったか、
もし今ご存じであれば今教えていただきたいのですが。
細矢光亮 福島県立医科大学医学部 小児科学講座主任(教授)
まだそこまでのデータは出ておりません。
まだ、データをとりまとめていないので、発表できない、ということであった。
前回1月25日のときに結果について質問したときは、年度末にはとりまとめ、
公表の予定、ということであったのに、新年度になった4月26日の今回でも結果は発表されなかった。
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筆者は白血病発症が増える、と考えているのではなく、
何らかの白血球の分画の異常が発生しているのかどうか、を知りたいのである。
「リンパ球は、哺乳類細胞の中で最も放射線感受性の高い細胞の1つだと考えられている。」
(放射線基礎医学 第11版 菅原努、丹羽太貫)
好中球や好酸球など、リンパ球以外の白血球の分画にも異変がある、
と報告する関東の医師も複数いる。
「白血病を疑わせる結果があるかどうか」ではなく、どのような結果だったのかを知りたいのである。
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小児甲状腺エコーの結果は公表されるが、小児血液検査の結果は公表されないまま
第7回検討委員会(2012年6月12日)配布資料
http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/240612shiryou.pdf
小児甲状腺エコーの結果はどんどんとりまとめられ、
判定ごとの年齢、性別、内訳なども発表されていくが、
前回の発表の段階で、15歳以下で17756人受診したはずの、
白血球の分画を上乗せした血液検査についての結果は公表されない。
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情報開示請求は不開示
小児甲状腺エコーの結果は、検討委員会のたびにとりまとめられて公表されるのだが、
この健診の結果は、なぜ検討委員会の回が進んでも発表されないのか。
筆者は福島県郡山市在住の方に頼み、血液検査の結果について、情報開示請求をした。
しかし結果は不開示であった。
不開示の理由は
「請求のあった公文書は作成していないため保有していません。」
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出てきた結果は「40歳以上」のものだけ
第8回検討委員会(2012年9月11日)配布資料のうち
「平成23年度 県民健康管理調査『健康診査』実績と評価(集計)について」
http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/240911siryou3.pdf
望んでいた資料が公表されたかのように思えたのだが、
出てきた結果は「40歳以上」についてものだけであった。
その理由として
「40歳以上の方に限定して資料を作成したのは、
特定健康診査・後記高齢者健康診査と比較してみるためである」となっているが、
小児甲状腺エコーの結果は比較データが無いにも関わらず、常に公表している。
小児の甲状腺エコーは、事故前の比較データはほとんど無いが、
血液検査なら、事故前の比較データは少なからず存在するだろう。
2012年11月18日の開催される、
第9回の検討委員会では血液検査の結果は公表されるのだろうか。
異常がないのであれば、きちんと公表してほしいと願う。