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元除染作業員が危険手当未払いの実態を語る(木野龍逸)

11月9日に開催された「被ばく労働を考えるネットワーク」の設立集会で、国からの危険手当をピンハネされた元除染作業員の実情が報告された。それは朝日新聞などが報じてきた内容そのものだった。集会に参加した280人の人達は、報道でしか知らなかった状況を、身近に共有したのだった。
これまでの報道では、環境省は今年1月から先行除染として18件、35億円を発注し、数千人が働いているが、ゼネコン6社が受注した1億円以上の先行除染6件のすべてで、作業員に手当てが適正に支払われていない事例が取材で見つかったという。発注時には、特殊勤務手当てとして1日に3000円から1万円が、賃金とは別に支払われることになっていた。
除染手当、作業員に渡らず 業者が「中抜き」か 福島(11月5日 朝日新聞)

http://www.asahi.com/national/update/1105/TKY201211040400.html?ref=reca

報道を受けて環境省は実態調査を開始した。長浜環境省は調査を指示したことを明らかにしたほか、提出された賃金台帳上では不払いは確認されなかったとしつつも、ゼネコンなどに対して、下請けにも適正な支払いを徹底するよう求めている。
環境省、除染手当の支給徹底通知 ゼネコンなどに(11月5日 共同通信)http://www.kyodonews.jp/feature/news05/2012/11/post-6990.html 

特殊勤務手当の支給徹底、大手ゼネコンに要請 環境相(11月7日 朝日新聞)

http://www.asahi.com/special/10005/TKY201211071015.html

 

「被ばく労働を考えるネットワーク」の設立集会では、こうした不透明な雇用状況の実例の説明があった。被ばくネットワークは、原発だけでなく、除染作業の拡大により「すべての労働が被ばく労働である」という状況になった状況に対し、労働問題、健康問題に共同で取り組む連絡組織。重層の下請け構造によって見えにくくなっている被ばく労働の実態分析、情報共有をしていくことになる。
被ばく労働考えるネット設立…安全や権利守ろう(11月9日 毎日新聞)

http://mainichi.jp/select/news/20121110k0000m040116000c.html

 

被ばく労働を考えるネットワークHP

http://www.hibakurodo.net

 

設立集会で語られたのは、楢葉町の除染作業でおこったピンハネや、ずさんな安全管理の実態だった。現在、ピンハネされた元作業員Aさんは、雇用されていた企業や、発注元企業などと未払い賃金の支払いについて交渉を重ねている。Aさんにいよると、状況は次のようなものだった。

元作業員Aさんは、6月にハローワークで除染作業の募集を知った。記載されていた日当は8000〜1万4000円だった。ハローワークの職員に問い合わせてもらったところ、作業現場は楢葉町で日当は1万円、寮は設置中なので、その間はいわき湯本の旅館に相部屋で滞在すること、宿泊費は不要などという説明があったという。しかし、後に問題になる危険手当(特殊勤務手当て)の記載はなく、ハローワークでも説明を受けなかったという。

 

条件を聞いたAさんは応募することにし、7月中旬に福島の会社に行った。面接をし、作業前の事前講習を受けた翌日から、楢葉の現場に入った。この時にも、危険手当の説明はなかった。Aさん自身も、事前講習の内容などからは、それほど危ない作業という印象はなかったという。

 

Aさんがいた楢葉の現場は、元請け(ゼネコン)から仕事を受注した1次下請けの下に、2次下請けと3次下請けがいたという。Aさんは2次下請けの所属だった。作業現場には80人から、多いときには100人以上の作業員がいたという。

 

作業の全体指示は1次下請けの監督が出す。監督は4人だったが、常時ついているわけではなかった。作業は5〜8人程度の班にわかれて行う。各班には、2次下請け会社の班長がいた。作業は3次下請け会社と同じ内容だったという。複数の下請け会社が同じ作業をしていることや、1次下請け会社から2次、3次下請け会社に指示が出ていることなどは、偽装請負の疑念を生む状況といえる。

 

作業現場では、線量計は班長が持っていて、作業員はガラスバッジだった。空間線量は毎時1μSv前後だったが、ホットスポットは多かったという。放射線管理手帳は支給されていない。時々サーベイの人がやってきて、測っていく。すると、自分が座っていた場所が毎時10μSvだということを教えてもらったりすることがあったらしい。防護服は支給されなかった。

 

8月末、Aさんの所属会社は、日当とは別に危険手当てが出ているので、差額を支払うといってきた。給料は月末締めの翌月中旬払いなので、この時に支払われたのは7月分の手当てだった。1日あたりにすると、約2000円だったという。

 

その後、Aさんが一緒に作業をしていた人達と手当ての金額について話していると、3次下請けの人達の手当てが、1日に100円から200円程度しかないことがわかった。同じ現場で同じ作業をしているにもかかわらず、金額が大きく違うことに不信感を持ったAさんは、インターネットなどで除染作業について調べ始めた。

 

その過程で組合のことを知り、相談しつつ、環境省に電話で問い合わせたりしたAさんは、危険手当が1日に1万円、国から出ていることを知った。「そんなに危ない作業をしてるのか」と驚いたという。

 

危険手当てのほんとうの金額を知ったAさんは、仲間と一緒に「未払いの賃金を支払ってほしい」と、所属会社に問いただした。日当が1万円なら、国の危険手当を合わせて2万円になるはずだった。

すると所属会社は、Aさんらの日当を5500円にして、寮費も引くと伝えてきた。しかもこの変更を、Aさんらが働き始めた7月にさかのぼって適用するといってきたのだった。

 

さすがにAさんらは怒ったが、所属会社は、そうはいっても我々も上の企業からそれだけしかもらっていない、ない袖はふれないので文句があるなら上の会社にいってほしい、と応じたという。

 

その後、Aさんは 組合を通じて所属会社や1次下請け会社、元請け会社と交渉を続けている。交渉に加わっている作業員は、Aさんの他に3人。当初は全員が参加した交渉だったが、諦める人や、ピンハネされても元の日当より上がっているのだからいいとして、交渉をやめる人も多かった。

 

実はAさん自身も、「ピンハネがないにこしたことはないが、それを承知で働いている面はある」という。「でも」と、次のように続けた。

 

「でも、限度っていうのがあると思うんですよ。除染は危険な作業だから破格な手当てがあるんです。それをハネるって、どういう了見なんだと思ったんです。誰がピンハネしているのかを明らかにして、そこから返してほしいんです」

 

Aさんらの要求している未払い分は、34〜67万円にもなる。Aさんは、実態を明らかにすることで、交渉に参加していない人達も「手当てを受け取れるようにしたい」と強調した。

 

またAさんは、「給料は悪くないんです。安全面さえちゃんとしてくれれば」という。しかし除染の仕事があれば行く気があるかと聞くと、「除染は危ないっていう話を後から聞きました。原発の方が安全管理はちゃんとしているだろうから、どうしようか考えてるんです」といった。

 

除染の効果には疑問符もつくが、国や自治体が推し進めている除染作業は今後も続いていくだろう。そんな中でAさんのような事例が増えることだけは避けないといけない。試みにハローワークのHPで検索した除染作業の求人を見てみると、1日1万円の危険手当を明記しているのは1社だけだった。他に1社が、月額20万円強の手当てを記載していた。

 

この両社の日当(基本給)は、5500円と6000円になっている。一方で、手当てを明記していない会社は、日当1万5000円程度で、月給が30万円前後という条件が多い。

 

前述のように環境省は、実態調査を進めている。原発作業員の雇用環境、契約条件と非常によく似ているAさんの事例が明らかになれば、作業員をとりまく状況は少しは改善するかもしれない。それが、収束作業が続く福島第一の作業員に波及してよい方向に向かうことを願いたい。作業員が枯渇し福島第一原発の収束作業が頓挫するような事態を避けるためにも、是非、そうなってほしいと思う。

【ブログ「キノリュウが行く」より】