ノーボーダー・ニューズ/記事サムネイル

結果を出したい野田首相、日朝協議で拉致問題は議題にのぼるのか?(辺 真一)

日朝協議では「私待つわ」の野田総理の心境

田中慶秋法相の辞任により拉致問題担当大臣を兼務することになった藤村修官房長官は昨日(31日)、新潟県の泉田裕彦知事と面会した際、再開の目途が立たない日朝本協議について「日本は局長級協議を、北朝鮮は課長級協議を希望していて、今は待っている状態だ」と述べたそうだ。

日本側は局長級での本協議を、これに対して北朝鮮側は課長級での再協議を要望し、もっか綱引き中とのことのようだ。

これはおかしな話だ。確か、8月下旬の課長級交渉で「より高いレベル(局長級)の本協議」を「早期に開催する」ことで合意していた筈だ。この合意とおりならば、2か月以上過ぎても局長級協議開催が決まらないのは、北朝鮮がこの合意を履行しないことに原因がある。問題は、なぜ北朝鮮が合意を速やかに履行せず、再度の課長級協議にこだわっているのか、藤村官房長官からはこの点についての説明がない。

日本側の説明では課長級協議で「双方が関心を有する事項」を議題にすることで合意したことになっている。従って、本協議が開かれれば「当然、我が国からすれば最も重視する拉致の問題はじめ、安全保障等の問題も含めて確固たる姿勢で対応しなければならない」(玄葉光一郎外相)のは日本側としては至極当然のことだ。

ところが、北朝鮮側は本協議の議題に拉致問題を含めることを受け入れたとの日本政府やメディアの主張は「全く事実と異なる」と一蹴し、「日本が不純な政治的目的だけを要求し続けるなら、政府間協議を継続する上で否定的な影響が出るだろう」と外務省報道官談話(9月5日)を通じて「玄葉発言」に反発していた。

また、本協議の開催時期についても「早期に開催する」ことで意見の一致を見たことから、日本側は「小泉訪朝」10年目にあたる9月17日までに開きたい考えだった。現に玄葉外相は9月4日、次回協議について「日朝平壌宣言から10周年ということもあるので、それは1つの目安になりうる」と述べ、平壌宣言が署名された9月17日までの日朝本協議の開催を目指す考えを示していた。

しかし、開催時期についても「早期」で合意していたものの、「9月上旬」とか「中旬」とか、「下旬」と時期については明記されてなかった。案の定、北朝鮮は9月17日までの開催には応じなかった。まるで国会の解散時期に関する野田総理の「近い内」発言を真似ているようでもある。

北朝鮮の無反応について「選挙を前に外交得点を挙げたいがために前のめりになっている野田政権を焦らすため」あるいは「民主・自民両党の党大会の代表、総裁選の結果を見極めるため」との戦術的な理由をあげる向きもあったが、これだけ長引くと、北朝鮮側は局長級協議に乗り気でないことがみてとれる。

そもそも北朝鮮は4年ぶりに開かれた課長級協議を外務省報道官の反論を出すまで協議した事実さえ公表しなかった。8月初旬に開かれた日朝赤十字交渉は終了と同時に報道したのとは好対照だ。理由は、北朝鮮にとって課長級協議では成果がなかったからだ。

北朝鮮は日朝協議を日本人戦没者の遺骨取集及び返還と引揚者の墓参に限定したいのに対して日本は拉致問題を最優先事項としていることに尽きる。そもそも日朝政府間協議の再開をめぐっては日朝双方は「同床異夢」である。

「同床異夢」であるが故に4年ぶりに再開された日朝協議も最初からどのレベルで行うかで対立した。日本はのっけから局長級の会談を要求したのに対して北朝鮮は課長級レベルを主張し、結局は日本側が折れ、課長級で開催された。日本側は譲歩したものの、協議は局長級による本協議のための「予備協議」と位置付けた。

日朝政府間協議は、日朝赤十字会談で「日本人の遺骨問題について、今後、日朝両政府が関与する」ことが決まったことから動き出した。打診したのは北朝鮮側からだった。しかし、打診を受けた日本政府は「遺骨問題だけではダメで、拉致問題を含む諸懸案の協議が必要」と主張していた。

課長級レベルでの協議開催が決まると、藤村官房長官は議題に日本人拉致問題も含まれると発言したところ、朝鮮中央通信は即座に「遺骨問題は実務的問題であり人道主義的問題であるにもかかわらず、日本当局が協議の趣旨をすり替えようとしている」(8月16日)と非難し「日本が人道主義的問題を政治化することで得るものはなにもない」と強調していた。

しかし、小野啓一北東アジア課長は協議で「日本の最優先課題は拉致問題であると厳しく主張した」と、拉致被害者の家族らに説明していた。これに対して、北朝鮮側交渉責任者の劉成日課長は同時期に非公式に北京で接触した松原仁拉致担当相の秘書らに対して「拉致について日本外務省の話は聞くが、進展は難しい」と述べていた。進展が期待できない拉致問題よりも、進展可能な遺骨の問題から交渉を再開したいと言うのが北朝鮮側の本音のようだ。

玄葉外相も30日の記者会見で、藤村官房長官同様に「協議することで結果が得られなければ何にもならない。そういう見通しが立つまで待つべきは待たなければならない」と述べていた。

本協議が開かれないとなると、野田政権にとっては大きな痛手となる。せっかく繋がった日朝の糸を切りたくないところだ。まして、「局長級協議の場では当然、拉致問題を協議する」(藤村官房長官)と国民に公言した以上、期待を寄せている拉致被害者家族や国民を落胆させるわけにはいかない。局長級協議を何が何でも、開催したいところだろう。

今の野田総理は歌の文句ではないが、「私待つわ いつまでも待つわ たとえあなたがふり向いてくれなくても待つわ いつまでも待つわ」の心境ではないだろうか。

さて、この綱引き、どちらに軍配が上がるのだろうか?

【ブログ「ぴょんの秘話」&NLオリジナル】