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国民の活動が政府の監視下に置かれている(蟹瀬 誠一)

ある日、元米陸軍特殊部隊兵士だったリースは孤独な億万長者でコンピュータ技術の天才フィンチと出会い、殺人を未然に防ぐ手伝いをするようになる。

彼らが秘密裏に使ったのは9・11同時多発テロ後にテロ攻撃を予測するために米政府が国内の至る所に設置した監視カメラのデータを解析するシステム。

開発者であるフィンチはそのシステムが一般人を巻き込む凶悪犯罪も予測できることを発見し、被害者を救うことに人生を捧げる決意をした。それを実際に行う腕の立つ相棒がリースというわけだ。

じつは彼らは米国で大ヒット中のテレビドラマ『PERSON OF INTEREST犯罪予知ユニット』の主人公たち。もちろん物語はフィクションである。

しかし国民を密かに監視するシステムは現実に存在するのだ。米国西部にあるユタ州で今、巨大な国民監視システムが建設中だという。

国家安全保障局(NSA)によると、国防総省をサイバー攻撃から防衛することが目的の施設だと言うが、それだけだとは信じがたい。なぜなら来年9月に施設が完成した暁には、電話やEメールの通信内容はもとより、ネットでの検索、オンラインショッピングの記録、防犯カメラの画像など膨大な量の個人や団体の情報が集積される。まさに国民の活動が政府の監視下に置かれることになる。

政府はテロ防止のためには必要なシステムだと主張するが、人権団体などはプライバシーの「破壊」だと非難の声をあげている。問題は集められた情報が誰によってどのように管理されているかだ。

ドラマに登場するフィンチはそのシステムを人命救助の為に使った。しかし権力の亡者と化した政治リーダーが己の私利私欲のために悪用しないという保証はない。それがまさに英国の作家ジョージ・オーウェルが小説『ビッグ・ブラザー』(1949年)で描いたタイトルと同名の独裁者の姿だ。

インターネットの普及によって私たちの生活は飛躍的に便利になったが、同時に日常的にプライバシーが脅かされる危険が存在していることを忘れてはいけない。ドラマ冒頭でフィンチは毎回次のように警鐘を鳴らしている。

「我々は見られている。政府の極秘システムによって常に監視されている」さて、日本はどうなのだろうか。

【蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」より】