国を憂う、領土を想う、政治に憂虞する(蟹瀬 誠一)
尖閣諸島、竹島、北方領土。日本を取り巻く領土問題に変化が起きている。
理由ははっきりしている。
日本の政治経済が相対的に弱体化しているからだ。20年前には日本の8分の1程度のGDPしかなかった中国が今や米国に次いで世界第2位の経済大国に急成長し、お隣の韓国も破竹の勢いで経済発展を遂げている。
ソ連邦崩壊後に大混乱を極めたロシアも豊かなエネルギー資源をバネに急速に力を取り戻しつつある。対照的に、統治能力を失った日本の民主党政権は効果的な政策が打ち出せないまま、政治的にも経済的にも我が国を危機的状況に陥らせてしまっている。
その上、頼みの綱の米国との関係にも深刻なひび割れを起こし、隣国に付け入る隙を与えてしまった。ここは一日も早い政権交代を望むばかりだ。選択肢は自民党しかないから安倍晋三総裁の手腕が問われる。
国連演説で野田総理は領土問題に関して「どのような場合であっても国際法に従い平和的な解決を図る」と述べた。言葉は美しいが、現実には国際法で領土問題は解決しない。
ある国が国際司法裁判所(ICJ)に提訴しても提訴された側が「領土問題は存在しない」と一蹴すればそれまでだからだ。結局のところ、解決策は粘り強い交渉によって政治的合意を見つけ出すか武力衝突しかない。
憲法で国際紛争を解決する手段として武力威嚇・行使を「放棄」している日本にはしたたかな交渉しか選択肢がない。
ところが、歴史を振り返ると、これまでの交渉はほとんど政治家の思慮に欠けた発言で頓挫している。
北方領土交渉に関しては「面積等分論」も検討対象になるとロシアが柔軟姿勢を見せたにもかかわらず麻生首相が国会で北方領土をロシアが「不法占拠」していると述べたため振り出しに戻ってしまった。
メドベージェフ大統領が国後島を訪問した際には菅首相が「許し難い暴挙」と批判したためにロシア側が猛反発して、それまでの水面下での交渉が水泡に帰した。
国内向けの威勢のいい言葉はマスコミ受けするかもしれないが、外交交渉では百害あって一利なしということが多い。
反日デモなどの激しいテレビ映像に目を奪われるのではなく、ノンフィクション作家で歴史問題に詳しい保坂正康氏が指摘しているように、北方領土は歴史問題が中心、竹島は政治問題、尖閣諸島は資源問題、という本質的な違いを見極めて日本は戦略的な交渉を進めることが肝要だ。
【蟹瀬誠一コラム「世界の風を感じて」より】