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【現地ルポ】「実在しない⁉」尖閣上陸の中国人活動家人物(相馬 勝)

軍や諜報機関の工作員の可能性も 尖閣奪回に向けた現地調査か

私は1932年の満州事変のきっかけとなり、中国が「国恥記念日」と呼ぶ柳条湖事件61周年の9月18日をはさんだ数日間、香港に飛び、反日デモや集会を取材し、10月に予定されている中国共産党の第18回党大会の最高指導部人事などについて、現地のチャイナウオッチャーの話を聞いてきた。その内容については、10月10日に発売予定の月刊化第1号の「SAPIO」に掲載される予定なので読んでいただきたい。

[caption id="attachment_4071" align="alignnone" width="620"] 香港の反日デモ風景(撮影/筆者)[/caption]

ここでは、現地で聞いた「オヤッ」と思った話について書きたい。

今回の尖閣諸島をめぐる中国大陸の125都市で展開された反日デモでは、自動車工場の焼き討ちやデパートの破壊など現地の日系企業にすさまじい被害をもたらしたが、このきっかけは終戦記念日の8月15日に尖閣諸島に上陸した香港の民間団体「香港保釣行動委員会」の活動家5人が逮捕されたことからだった。その2日後、日本の地方議員らも島に上陸したことで、火に油を注ぐ形となり、これもあって中国大陸で激しい反日デモが始まった。

香港で同委員会関係者に取材すると、「地方議員が17日に上陸する予定との話を聞いたので、われわれ(同委の活動家)はその前に上陸しようと決めて、12日に出港し、15日に上陸したのだ」と明らかにしてくれた。

結局、7人の活動家が上陸に成功したのだが、島内で待ち構えていた沖縄県警の警察官によって5人が逮捕され、那覇市内で厳しい取り調べを受けた。

彼らが那覇港で下船する際、「尖閣は中国領だ」とか「日本人は尖閣から出て行け」「日本軍国主義打倒」などと激しく叫ぶ模様はテレビのニュースなどで何度も繰り返し放送されたので、ご記憶の方も多いだろう。

[caption id="attachment_4068" align="alignnone" width="620"] プラカードを掲げてアピールするデモ参加者(撮影/筆者)[/caption]

実は、この5人のうち1人だけ、那覇港に着いても、顔を伏せて、沈黙を守っていた男がいた。取り調べで、他の4人が「尖閣は中国領だから、取り調べを受ける必要はない」と強弁したが、この男は氏名や職業、香港での住所などを語っただけで、黙秘権を行使し、沈黙を貫いたという。

私は、この男に興味を持ち調べてみた。すると、思いがけない事実が明らかになった。この男が取り調べで語った名前や年齢、職業、さらに住所はすべてでたらめだったのだ。しかも、彼は香港に到着すると、他のメンバーや同委の関係者にあいさつもなく、煙のように姿を消したというのだ。

わたしは香港で乗船した他のメンバーや同委関係者に会って、「このような男がいる。これはどういう素性の男だ」と取材を開始した。

活動家らに同行取材した香港フェニックステレビの記者は「中国大陸出身で、香港の専門学校で撮影技術を教えていると言っていた。抗議船に乗ったのは初めてで、他のメンバーとも面識がなく、船内ではほとんど話をしていない」と〝謎の男〟について話してくれた。

[caption id="attachment_4069" align="alignnone" width="620"] 香港保釣行動委員会のデモ風景。旭日旗を燃やして気勢を上げている(撮影/筆者)[/caption]

香港の同委関係者は今回の乗船メンバーの名簿を見せてくれ、次のような事業を明らかにしてくれた。

「この男は香港に隣接する広東省深圳市に住んでおり、貿易会社に勤めていると自分で言っていた。尖閣問題に興味があり、委員会が8月12日に出港するというニュースを聞いて、委員会の責任者にメールを送り、自分も乗せてほしいと頼んだそうだ。委員会では今回の上陸を香港、中国大陸、台湾の3者の協力による合同作戦との位置づけだったので、大陸に住むこの男を仲間に加えてのだ」

この男はフェニックステレビの記者には「香港在住」と言い、沖縄県警の取り調べにも、香港在住で専門学校教師で通したのだが、これは真っ赤なウソだったのだ。

しかも、同委関係者は「この男は泳げないので、上陸した際は浮き輪にロープをつないで、他のメンバーに引っ張ってもらっていた」と話していた。この話が本当ならば、泳げないのに、東シナ海の孤島に上陸したいというのは、自殺行為であり、極めておかしいと思うのは私だけだろうか。

私はさらに取材を進めると、深圳市内の貿易会社も存在しないことが分かった。まさに、この男は、この世に存在しない人間だったのだ。

香港の外交関係筋は「尖閣諸島問題については、中国外務省のほか、中国公安省も担当している。また、領土問題も絡んでくると、中国の諜報機関である国家安全省や中国人民解放軍も関係してくるだけに、その男は軍や公安の工作員である可能性も否定できない」と指摘する。

[caption id="attachment_4070" align="alignnone" width="620"] 香港市内(撮影/筆者)[/caption]

今回の尖閣諸島をめぐっては、丹羽于一郎大使の公用車の日本国旗が奪われるなど不可解な事件が起こっているだけに、何が飛び出してもおかしくない。特に、軍内には尖閣を「射撃場にせよ」という意見を主張する幹部もいるだけに、今回の謎の男は尖閣諸島奪取に向けた軍などの秘密機関の現地調査だったとの可能性もあながち否定できないのではないか。まさに、背筋も凍る夏のお化け話のような、中国の脅威を感じる薄気味の悪い話ではある。

【NLオリジナル】