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日中は「南北海戦」の愚を犯すべきではない(辺 真一)

領海や、領土をめぐる日本の政治家や有識者らの話を聞いていると、異口同音に「国際世論に訴える」とか、「国際社会に理解と支持を求める」という言葉を連呼している。残念だが、国際社会のどの国も2国間の領土紛争には首を突っ込まない。口を挟んで、失うものはあっても、得るものが何一つないからだ。

「尖閣諸島には安保条約第5条(米国の防衛義務)が適応される」(クリントン国務長官)と言ってくれている米国ですら、「領有権ではいずれの肩を持たない」(バネッタ国防長官)と、日本の実効支配は認めても、「日本の固有の領土である」との日本の立場への支持表明はない。米国も損得を考えて、口が裂けても言わないだろう。

来日中のバネッタ国防長官は記者会見で「SENKAKU(尖閣)」との表現を使ってくれたものの、おそらく中国に行けば、今度は中国名「ダヤオウィダオ(釣魚島)」と表現するのだろう。二股外交とはこのことだ。

日本の隣国、韓国はどうか、韓国政府は残念なことに「釣魚島」と呼称している。聯合ニュースなど韓国のメディアも「釣魚島(日本名:尖閣諸島)」と表記するケースが多い。黄海(西海)上の北方限界線(領海線)をめぐる北朝鮮と韓国による南北衝突では日本が常に韓国を支持しているのにである。

南シナ海、南沙諸島の領有権をめぐって中国と対立しているベトナムやフィリピンも、いくら、日本が陰ながら、両国を応援してくれているからといって尖閣諸島の問題で白旗を鮮明にすることはないだろう。逆に、へたをすると、尖閣で中国の立場に理解を示すことで、南シナ海で中国から少しでも譲歩を引き出した方が得策と考え、中国に味方するとも限らない。なんだかんだ言っても、遠い国よりも、近い国との関係の方がより大事だからである。


それにしても、中国の漁船が大挙尖閣に押し寄せてくるとは、困ったものだ。1千隻となれば、中には島上陸を画策する漁民や活動家らも出てくるだろう。漁船だけでなく、漁船の保護の名目で監視船もやってくるのでにらみ合いは避けられないだろう。

韓国は9月上旬に海洋警察庁と韓国軍が竹島(韓国名・独島)周辺海域で防衛訓練を行ったが、この訓練はまさにこうした事態を想定しての訓練だった。

日本の漁船や海上保安庁の巡視船による接近と上陸を想定して、海洋警察が上陸を主導的に阻止し、海軍が沖でこれを支援する状況を仮定した訓練である。今まさに、日本が中国の漁船や監視船に対してやろうとしていることだ。

日本には領海侵犯法がないため中国の漁船や監視船が侵犯しても、追い返すだけで、拿捕、逮捕できないとのことだが、中国が尖閣周辺を自らの領海であると主張している限り、自主的に退去するとはとても考えられない。押し競まんじゅうしても、数で勝てそうにない。

仮に、今回は領海侵犯せず引き下がったとしても、自国の領土、領海を主張する限り、また同じことをやるだろう。これではモグラたたき同然で、日本のほうが参ってしまう。

最も憂慮すべきは、体当たりしている最中に、巡視船と監視船による偶発的な衝突、銃撃戦などが起きないかである。お互いに丸腰なら、その心配はないが、両船とも軽武装ぐらいはしているだろう。

ちなみに、韓国と北朝鮮との領海紛争では3度衝突、それも艦船同士による銃撃戦が起きている。

1回目は1999年6月で、北方限界線南側5kmにまで侵入した北朝鮮の警備艇7隻に韓国海軍の高速艇と哨戒艦など10数隻が体当たりして追い出そうとして撃ち合いとなった。小銃から始まり最後は25mm砲と40mm砲、70mm砲の応酬となった。北朝鮮からは魚雷艇が韓国側からは哨戒艇が助っ人として合戦に加わった。

その結果、北朝鮮の魚雷艇1隻沈没(15人乗務)、警備艇2隻(乗務員110人)が大破。韓国軍は哨戒艇1隻(95人乗務)がエンジン破損。警備艇1隻(30人乗務)が機関室被弾という被害を被った。

北方限界線を認めない北朝鮮は①「韓国が領海侵犯をしている。(北朝鮮は領海12マイルを主張)②「韓国は侵犯を謝罪し、領海から撤収せよ」③「海上での事件の責任はすべて韓国側にある」と、韓国とは逆の主張を繰り返した。

2回目は2002年6月で、この時も、北朝鮮の警備艇2隻と韓国海軍の高速艇2隻と及び警備艇2隻が衝突し、85mm砲と76mmバルカン砲の撃ち合いに発展した。25分間にわたる交戦で、北朝鮮の警備艇1隻(50人乗務)が炎上し、死傷者が30人前後出た。一方の韓国軍も高速艇1隻(28人乗務)が沈没し、死者4人、行方不明者1人、負傷者19人も出した。

この時の北朝鮮側の言い分がこうだった。

「南朝鮮軍(韓国軍)が西海(黄海)海上で正常な海上警戒勤務を遂行していた我が人民軍海軍警備艇に銃砲撃を加える厳重な軍事挑発を行った。そのため我が艦船は止むを得ず自衛的措置を取らざるを得ず、結局双方間に交戦が繰り広げられ、損失が出た」(朝鮮中央放送)

領海を巡る南北の衝突は、2009年11月の第三次海戦に繋がり、そして2010年3月の死者36人、行方不明10人を出した韓国軍哨戒艦沈没事件と4か月後の2010年11月の死者4名、負傷者19人を出した延坪島砲撃事件に発展したことは記憶に新しい。今も南北関係は最悪の関係にある。

日中は、南北の愚を犯すべきではない

 

【NLオリジナル&ブログ『ぴょんの秘話』より】