ノーボーダー・ニューズ/記事サムネイル

3カ月前にNLは知っていた!? 胡錦濤主席腹心の降格人事の秘密(相馬 勝)

3カ月前の〝怪情報〟の謎が解けた

胡錦濤主席の腹心は息子の自動車事故で降格 党大会の権力闘争で〝血祭り〟

中国では5年に1度の中国共産党大会の最高人事をめぐって激しい権力闘争が繰り広げられているようだ。最近の新聞各紙も人事予想がかまびすしくなっている。党大会それ自体はいつ開幕するのか発表されていないが、どうも10月中旬らしい。

毎年10月中旬に行われる北京マラソンの日程について、主催者側が北京市の関係部門に「10月14日の日曜日ではどうか」と打診したところ、今年は「ダメ」との返事だった。このため、その1週間後の21日で申請し直しているという。「21日ならば、党大会も終わっているだろう」という読みだそうだ。また、10月中旬は北京のホテルがほぼ満室とのことで、地方から党大会に参加する幹部が宿泊するためとみられている。というわけで、英紙「フィナンシャルタイムズ」は「党大会は10月15日前後の1週間ほど」と予想している。

[caption id="attachment_3631" align="alignnone" width="567"] 北京市内のホテル街=筆者撮影[/caption]

ほぼ1カ月前には、国営新華社通信が報道するので、もうすぐ日程もはっきりとするに違いない。

中国も大分開放的になったが、こういうところはまだマルクスレーニン主義的な雰囲気を残している。とはいえ、一昔前は党大会が終わってから、ようやく党大会が開かれていたことが発表されていたので、それに比べれば、情報公開も進んだといえる。

ところが、肝心の党最高指導部人事だけは、党大会が終わるまでは明らかにならないのは以前と同じだ。

ただ、ちょっとした情報で、予測することができる。最近も新華社電が伝えた人事情報で「おやっ」と思うものがあった。

胡錦濤国家主席の側近中の側近で、中国共産党の最重要の意思決定機構である党中央委員会の日常業務を統括している令計画(れい・けいかく)党中央委書記処書記兼中央弁公庁主任に関するものだ。

令氏はこの党大会で、党政治局常務委員会という党最高指導部入りする可能性もあるとみられていた。少なくとも党政治局入りは間違いないとの見方が有力視されていたのだが、その令氏が党統一戦線部長に任命されたのだ。

党統一戦線部長は主に少数民族政策を決定する部署のトップで、党のなかでもそれほど重要視されていない。私の勉強不足かも知れないが、党統一戦線部長で党政治局入りした例について、私は知らない。明らかに降格人事なのだ。

「なぜ?」という疑問が浮かぶ。「令計画が何か失敗でもしたのかな」と考えていると、3カ月前に、このニューズログに書いた原稿を思い出した。

「党最高指導部で異変 〝失脚間近〟だった党最高幹部が生き残っている理由」という見出しの6月7日付の原稿だ。

書き出しは「北京でヘンなうわさが流れている。……中略……令計画氏の子息が3月18日、北京の高速道路上で赤いフェラーリを運転中に事故死したというのだ。赤いフェラーリといえば、最高指導部入りを目前にして、妻が英国人殺害に関与したとか、自身も多額の汚職事件に関与したなどとして失脚した薄熙来・重慶市党委書記の子息、薄瓜瓜氏のことを連想する」というものだ。

今回の令計画の人事を受けて、香港や欧米メディアは息子の令谷(れい・たく)の事故を一斉に報じ、この事故が令計画の降格人事の原因であるとほぼ断じている。

筆者は3カ月前、この情報を中国情報の正確さで定評があるニュースウェブサイト「博訊( ボシュン)」で知ったのだが、香港メディアなどは無視しており、確認がとれなかったというのが正解だろう。その後も博訊は何度も続報を伝えてきており、最近では事故現場写真も掲載しており、結局、いまになって博訊( ボシュン)」の情報は正確だったことが確認された。

[caption id="attachment_3630" align="alignnone" width="400"] 「博訊( ボシュン)」に掲載された事故現場の写真。車体が真っ二つに裂けている[/caption]

中国では時々、確認がとれない〝怪情報〟が流れることがあるが、あとから考えると、「あのときの情報は正しかった」ということがよくある。この令計画の息子の事故はその典型例だろう。

胡錦濤主席としては、令計画は17年間も党中央委員会の要職を務めた腹心中の腹心だけに、党政治局入りさせたかったところだろう。が、重慶事件で失脚させた薄熙来・前重慶市党委書記の息子で、ハーバード大学大学院を卒業した薄瓜瓜も赤いポルシェとかフェラーリを乗り回しているゴシップが出て批判されただけに、腹心の息子も同じようなことをして、さらに事故を起こしたことは世間的にも許されないし、対立する上海閥や太子党(高級幹部子弟)勢力にとって、胡錦濤主席ら共青団閥に対する格好の攻撃材料を与えたことになり、「泣いて馬謖を切る」心境だったのではないか。

これだから、中国政治は不可解であり、ちょっと不謹慎だが、面白い。

いま、中国政治で「不可解で面白い謎」は次期最高指導者とみられる習近平・国家副主席が5日、北京訪問中だったヒラリー・クリントン国務長官との会談をドタキャンしたことだ。米側の説明によると、習近平の背中の傷が原因だという。水泳中に悪くしたという情報もあり、さらに一部香港メディアは習副主席の入院説すら報じている。かと、思うと、中国外務省は習副主席が10日にデンマーク首相と会談予定と発表しており、謎が謎を呼んでいる。

習副主席はタカ派で、軍を政治基盤にしていることから、日中間で問題になっている尖閣諸島や、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国と係争中の南シナ海の島嶼の領有問題で、中国と異なる立場をとる「米政府の国務長官などとは話したくもない」というわけで、会談をボイコットしたのではないかとの観測を件(くだん)の博訊は報じている。真相は現時点では分からないが、最後に、6月7日付の筆者の原稿の末尾を繰り返させていただきたい。

「ただ一つだけ言えることは、中国では権力移行期には、薄熙来事件に代表されるように、われわれの考えの及ばないことが起きるということだ」

【NLオリジナル】