坂本龍一もはまった?「CO2ゼロ」の罠(高野 孟)
《新聞はベタ記事が面白い》No.010
新聞ではなく週刊誌のベタ記事というのもある。
「週刊朝日」の後ろのほうに亀和田武の「マガジンの虎」という5分の2ページのあまり目立たないコラムがあって、9月14日号では「文化人の“偽善”を暴く実話誌」と題して、「実話BUBKAタブー」という雑誌の10月号「エコも反原発もすべて大ウソ“世界的偽善者”坂本龍一の素顔」という記事を採り上げている。
私は不明にしてその雑誌そのものを知らなかったので、ン?と思って読むと、(1)エコに目覚めてからの坂本はよく「乗用車に疑問を感じる」と発言していたのに車のCMに出演している、(2)坂本は「ロハス」という造語を流行らせたエコ雑誌「ソトコト」と関係が深いが、その「ソトコト」は電力会社と原発推進団体が10年3月からの1年間に全面広告を出した雑誌27誌の中で出稿量が「ダントツ1位」だった、という話。
待てよ、この(1)(2)とも、半年か1年前に出回った話じゃなかったっけ。調べてみるとそうで、(2)は11年8月発行の別冊宝島「原発の深い闇」で「週刊誌・新聞の“東電広告”出稿頻度ワーストランキング!/読売新聞、週刊新潮、ソトコト、月刊WILL、潮…」として採り上げられたもの。(1)は日産の電気自動車リーフのCMで、12年2月頃から坂本が登場、また同社のウェブ上で「ニューオーナー・インタビュー」に応じたりして、当時すでにネット上では、さんざん悪口の対象となっている。
こういう古い他誌ネタを今更ながらに採り上げる「実話ナントカ」という雑誌もいい加減極まりないし、それをまた「坂本龍一への逆風がついに吹きはじめた」という書き出しで新鮮なことのように紹介する亀和田もどうかと思う。
とはいえ、この話が面白いのは、地球環境問題に熱心な環境派がCO2削減に力を入れれば入れるほど、「そうですよね、だからCO2ゼロの原発を増やさないと」という電力会社の悪魔的な論理の罠に絡め取られやすくなるという問題の構図である。
半年前のネット議論では、「日産はちゃんと“走行中はCO2ゼロ”と謳っているから、別に坂本が原発を容認したことにはならないんじゃないの」といった意見もあったが、じゃあその電気自動車を動かす電気はどこから来るのかと言えば、原発や火力発電所などであって、そうすると、「やっぱりCO2のことを考えると、火力は出来るだけ減らして原発を増やしたほうがいいですよね」という電力会社の囁きが功を奏することになる。
実は、民主党もかつてこの罠に見事にはまって、鳩山由紀夫元首相は「2020年までにCO2を25%削減する」との国際公約を表明する一方、その前提として「2030年に原発比率50%」という国内のエネルギー・バランスの戦略目標を掲げていた。
今では鳩山は「実は私は原発については元々は推進派だった。しかし、3・11であのような福島の大きな事故が起きてしまった。日本は、考えてみれば原発を作るには余りにも不適切な活断層が大変多い島国で、日本としては基本的には原発に頼らないで生きていけるようなエネルギー大国になっていかなければならず、それは十分に可能だと今は思っている」と語っているが、民主党全体はその「CO2の罠」からなかなか抜け出せずに、0%だ、いや15%だという不毛な議論に明け暮れている。
私の結論はハッキリしていて、(1)まず原発は即時全面停止し、核燃料サイクル計画は放棄する。(2)CO2削減は(元々、本当に温暖化の主因がCO2かどうかには疑問が投げかけられていることもあるので)当面、目をつぶる。(3)節電を徹底し、(4)それで足らざるところは、過渡的なエネルギー源としてガス火力・石炭ガス化火力を増強する。(5)その間に、原発や核燃サイクルのために注いでいた莫大な資金をすべて振替投入して再生可能な自然エネルギー技術の開発と普及に全力を挙げる。(6)その自然エネルギーを最終的には水素ベースで統合し、世界に先がけて電力も車も水素で賄う「水素エネルギー社会」を作り上げ、(7)結果的に「CO2ゼロ」を誰よりも早く達成する——という脱原発と脱化石燃料の同時並行的な達成戦略である。
「電気自動車はCO2が出ないからエコだ」などという幼稚なことを言っていては電力会社の餌食になるだけなのだ。
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