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作業員の死亡や事故が続く福島第一原発の実情(木野 龍逸)

8月22日に福島第一原発で働く作業員がまたひとり、亡くなった。しかし東電は、原発構内の休憩所(厚生棟内)で心肺停止で発見された当日(22日)の記者会見では、情報がないと言い続けて死亡を認めなかった。翌23日、病院で死亡が確認されてから約20時間後に東電は、報道関係者にメールを送付して連絡した。しかし今回は、新聞各紙は福島県警からの情報により、作業員が22日午後に亡くなっていたことを報じた。

福島第1原発:男性作業員が心肺停止 病院搬送後に死亡(8月22日 毎日jp) http://mainichi.jp/select/news/20120823k0000m040064000c.html

原発作業員が死亡 福島第1で5例目(8月22日 msn産経ニュース) http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120822/dst12082220030008-n1.htm

今年1月に作業員が亡くなった時には、元請け企業からの情報がないことや、プライバシーの保護のためという説明を繰り返して、死亡発表が2日後になった。この時の記者会見では、氏名を明らかにしなければプライバシー侵害にはならないので、生死の確認くらいはしてほしいと要望が出ていた。今回の対応を見ると、要望に応じる考えがあるようには見えない。

事態が重大になるほど情報を出さなくなる東電〜作業員の死亡発表が2日も遅れた事例を振り返る〜 http://kinoryu.cocolog-nifty.com/go_kinoryu/2012/04/post-dff2.html

一方で東電は、放射線と死亡の因果関係は即座に否定。過去には、累積被ばく線量が5ミリシーベルトを超えたレベルでも労災認定されてたケースがあるにもかかわらずだ。しかも今回の被ばく線量は、昨年8月に福島第一で働き始めてからこの日までの約1年間で25.24ミリシーベルトになっていた。

35年間で10人労災認定 原発労働者のがん(2011年4月28日 共同通信) http://www.47news.jp/CN/201104/CN2011042801000030.html

22日の会見では、当然だが心肺停止と発表された作業員に関して質問が集中した。それに対して東電の松本純一原子力・立地本部長代理は、なんともわかりにくい方法で回答を続けた。例えば、作業員が発見されてから病院に搬送されるまでの時系列を口頭で説明するのだが、早口で聞き取りにくいため、確認の質問も出てくる。

これまで何度も、こうした時系列のポイントは紙に書いて出してくれという要望があった。これは会見をわかりやすく、時間を短くするためだ。当然のように今回も同じ要望が出て、東電は翌23日に、紙に時系列を書いて配布した(トップ/1ページ目の画像)

協力企業作業員の体調不良に関する時系列(PDF 8.76KB 東電配付資料) http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/images/handouts_120823_04-j.pdf

不思議なのは、救急車を呼ぶまでに、意識不明の患者を発見してから46分も経過していることだ。医師が心肺停止を確認してから18分後というのは、どう考えても遅い。はたしてこの間、蘇生措置が続けられていたのかどうか。どうも腑に落ちない。もし蘇生措置をやめていたのなら、説明があってしかるべきではなかったかと思う。

また時系列表によれば、作業員が発見されてから心肺蘇生(心臓マッサージ)を開始するまでに9分。その後にAEDを使用するまでさらに9分(発見から18分後)を要している。そして原発構内(5/6号機側サービス建屋)に常駐している医師が現場に到着するまでに27分もかかっている。

消防庁が実施している救命講習を受けたことがある人なら、講習の時に、最初の3〜4分が大事だということを聞いたことがあるのではないか。政府広報オンラインのデータでは、心臓停止後3分、呼吸停止後10分で50%が死亡するという数値がある。

http://www.gov-online.go.jp/useful/article/200801/1.html

消防庁は事業所などを対象に、救命講習に力を入れている。2011年版の消防白書によれば、全国の消防本部が実施した救命講習の受講者は、2010年度だけで148万5863人にも達している。この状況を考えると、福島第一のような厳しい現場であればなおさら、きちんと講習を受けておく必要があったはずだった。

しかし今回は、AED使用までに18分という時間がかかった。23日の会見では朝日新聞記者が、この点を突っ込んで聞いていた。

Q)まわりの方(現場にいた作業員)がAEDの使い方わからなくてたいへんだったという話がある。耳に入ってないか。 A)とくに聞いてないが、AEDを頻繁に使ったことある人が珍しいと思う。AEDの場所には使い方書いてあるので、基本的にはそれを見ながら作業したのではないか。 Q)AEDがあることと、使い方について、普通の現場ならともかく、死者を出しているのだから安全教育で必要だとは考えないか A)今後の課題としてはあろうかと思う。AEDの使い方の研修が必要あるのか、場所の確認を全員がやっておくのかということについては、私ども、協力企業さん含めて検討したい。

AED講習は「今後の課題」という松本氏の言葉からは、1年間で4人もの死者を出した作業現場の危機感は伝わってこない(作業所外も含めると、福島第一の事故収束作業にあたった作業員の死者は、東電が把握しているだけで5人目)。

さらに松本氏は、医師が到着するまでに25分以上かかっている点について、「とくに遅くなったという理由はきいてない。こういった方が出たと言うところから、お医者さまもそれなりに問い合わせ、出発の準備したうえで出発したと思うので11時2分に到着は遅すぎるとは思ってない」という認識を示した。これでは救急医療体制の改善は見込めない。同じ事が起こればまた、AED使用までに18分、医師の到着までに20〜30分かかる可能性があることを示している。

また松本氏は、心肺停止確認から7時間が経過した22日の会見で、現場の管理者が誰だったのかわからないという回答をしている。これは現場の安全管理体制が不十分になっていることを示唆している。

この点に関しては、問題がさらに拡大する様相を見せている。亡くなった作業員が偽装請負の状態で雇用されていた疑いがあり、厚労省が調査に乗り出す可能性が出てきたのだ。

死亡の作業員、偽装請負か 福島第一の4次下請け所属(8月25日 朝日新聞デジタル) http://www.asahi.com/national/intro/TKY201208240715.html

記事によれば、死亡した作業員男性は日立GEニュークリア・エナジーが元請けとなる汚染水貯蔵タンクの設置工事をしている4次下請けの建設会社に所属していたが、指示は3次下請けの班長から受けていたという。

また、亡くなった男性と一緒に働いていた作業員は朝日新聞の取材に対して、以前から具合が悪いということがあったと答えている。東電や日立は、健康管理上の問題はなかったとしていることが報じている。東電の松本氏は会見で「持病は聞いているが、プライバシーの観点から答えられない。元請け企業を経由して、(この作業員が過去に)気分が悪いと訴えたことはないと聞いている」と説明した。

そして8月29日、作業員が3mほど落下して、入院2か月の大怪我をする事故が発生。朝日新聞記者からこの現場の管理体制を聞かれた松本氏は、落下した作業員は4次下請けで、2次下請け企業が現場班長をしていたと説明。偽装請負の疑いのある説明内容だった。

しかし松本氏は、「元請け企業を通じて契約上の問題はないと聞いている」とも回答。それから何度かのやりとりの後、「今回の事故でどういった管理体制だったかは、元請けを通じて調べている」と答えた。問題ないと聞いていたにもかかわらず、すでに調べているというのはどうも矛盾している。

偽装請負、重層契約、不十分な安全管理、救急医療体制の課題など、福島第一の作業員に関する問題は山積みになっている。しかし東電の説明は、こうした問題に積極的に取り組んでいるとは思えないものばかりだ。では国がそこをカバーするのかというと、それもない。細野豪志原発担当相は、国の直接雇用などは考えていないとしている。問題解決の糸口は、今は見えない。

【ブログ「キノリュウが行く」より】