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竹島問題 李明博大統領は「飛んで火に入る夏の虫」だ!(山口一臣)

沖縄の尖閣諸島と島根の竹島を巡る問題が大きな話題になっている。中韓両国だけでなく日本の中でも勇ましい言葉が飛び交っているが、ちょっと注意が必要だ。領土にかかわる問題は非常にセンシティブだ。挑発に乗って感情的な対応をすれば相手の思うツボになる。ここはいかに理性的に冷静になれるかが勝負になる。

テレビの情報番組を見ていると尖閣諸島と竹島が同じように語られているのが気になった。尖閣諸島と竹島では事情がまったく違っている。

まず、尖閣諸島は日本が実効支配する側で、そこに中国(香港)の民間人活動家が上陸したという話である。上陸は中国政府の主導ではなく黙認した程度だった。今回の事態の遠因は、石原慎太郎都知事の購入計画と野田佳彦首相の国有化宣言にある。これに中国国内の反日活動家が反発した。だが、冷静に考えて欲しい。もともと日本が実効支配している島の「地主」が代わるだけの話なのだ。日本が非難されることはひとつもないし、中国にとってもどうでもいいことである。しかし、反日活動家は「反日」を看板にしているだけに、これに反応しなければならない。それが今回の上陸行動となり、中国政府もガス抜きのために黙認せざるを得なかった。

だから、日本は過剰に反応するべきではない。

今回、政府がとった対応はきわめて適切だった。島への上陸を許したことを問題視したり、逮捕した活動家を起訴せず強制送還したことに対して「弱腰」との批判があるが、当たらない。週刊朝日(8月31日号)で元外交官の佐藤優さんが次のように解説している。

「国際法上、他国の領海内でも船舶の航行は許されており、上陸前に下手に妨害したら『上陸する気はなかったのに、不当に弾圧された』と宣伝される可能性があった。その(上陸)後の手続きは、日本の国内法に基づいて処理したことが重要。先例に照らしても、強制退去で問題ない」

海保、警察、入管の連携プレーの勝利だった。なにより重要なのは、日本の司法警察員があの島で日本の法律を執行した実績をつくったことだ。逮捕された活動家も無抵抗で従ったというから、彼らも日本の法支配を認めたことになる。それは尖閣諸島が日本の主権の範囲内にあるという証拠に他ならない。法の執行により、この島が日本の領土であることが明確になり、日本の実効支配がより強固になったといってもいい。

8月19日には尖閣諸島沖に慰霊に訪れていた地方議員ら日本人10人が同じ魚釣島に上陸した。感心できる行動とは思えないが、中国政府は日本に厳重抗議するだけで、手も足も出せなかった。尖閣が誰のものかが、このことでもハッキリした。

これに対して長島昭久首相補佐官がフジテレビの番組で「領海警備に自衛隊を活用できるよう法改正が必要だ」と述べたという。これだから民主党の政治家は危なっかしい。日本が先に「自衛隊」を出したら、相手に「軍」を出す口実を与えることになる。中国が尖閣諸島に領土的野心を持っていることは疑いない。それに対する備えは強化しねければならないが、その上で、細心の注意を払いつつ、相手につけいるすきを与えることなく、したたかに実効支配を強めることが肝心なのだ。

とりあえず東京都が買う案はいいだろう。ただし、国有化にはさらにワンクッションおいて、ほとぼりが冷めたころにコソッとやるのだ。野田首相の手柄にはならないが、国益を考えたらそうするべきだ。今後も活動家の上陸が相次ぐようならシメたものだ。今回と同じように逮捕→強制送還を繰り返し、日本の法支配の既成事実を幾重にも積み上げるのだ。狼藉を働く活動家と矜恃をもって毅然と振る舞う日本の司法警察員の姿をビデオに撮っていちいち公開するのもいいだろう。

それでも活動家の不正入国が止まないようなら「仕方がない」と、島に駐在所をつくる。やがて海上保安庁の巡視船が停泊できる港をつくり……とさらに支配を強めていけばいい。勇ましい反撃を口にするのは簡単だが、大切なのは既成事実だ。

一方、竹島はこれとはまったく事情が違う。残念ながら実効支配しているのは韓国側だ。軍事力による領土の変更が難しくなった現代では実効支配している側が断然、有利だ。だが、今回の李明博大統領の行動は、自らそんな有利な立場を棄損した。

実効支配している側にとっては「ことを荒立てない」ほうが得策なのだ。あえてそれを破ったのは、頭が悪いのか、政権末期で政治的によほど追い込まれているのかのどちらかだ。従軍慰安婦問題で進展がないから、という言い分が国際社会で通用するとは思えない。野党から批判されたが、森本敏防衛相が「韓国の内政問題に過ぎない」と喝破したのはその通りだ。

日本にはあまり伝わってこないが、韓国市民の間にも大統領に対する批判は広がっている。ソウルに住む複数の知人に電話で聞いたところ、「またバカなことをやってくれた」「天皇への謝罪要求はさすがにやり過ぎ」「とにかく日本とのもめごとはやめて欲しい」という声がほとんどだった。ただし、韓国人は公式に聞かれれば「独島(竹島の韓国名称)は我が祖国」といった答え方しかしない。だから、こうしたホンネはなかなか伝わって来ない。日本にいると、韓国が国をあげて李大統領の行動を支持しているようにみえるが、実際はそうでもない。

これは日本にとってはチャンスである。まさに「飛んで火に入る夏の虫」だ。

李大統領を外交的に徹底して干しあげるのだ。具体的には、李大統領が政権にある間、いっさい相手にしないことだ。駐韓日本大使はすでに引き上げている。これに加えて政府レベルの会合もすべてやめる。「対抗措置」として検討されている通貨交換(スワップ)協定の見直しも躊躇しない。韓国は今秋の国連総会で改選される安全保障理事会非常任理事国に名乗りを挙げているが、当然、不支持だ。李大統領の任期はどうせあと半年なので、日本にとっては痛くもない。

こうして、韓国国民に対しては大統領が人気とりのためにとった軽率な行為の代償がいかに大きいことかを知らしめる。一方、本丸の竹島については国際会議などあらゆる機会を通じて韓国の不当性を繰り返し世界に訴えるのだ。

その意味でも、国際司法裁判所(ICJ)への提訴は有効だ。

ICJは紛争当事国の一方が拒否すれば審判を行えない。実際、日本は過去に2回、ICJへの提訴を韓国に持ちかけ、拒否されている。だが、今回は単独での提訴も検討しているという。そうなると、韓国側は裁判所に対して拒否の理由を説明しなければならない。提訴によって紛争が国際的に認知される効果も大きい。韓国が提訴に応じないのは、裁判になったら負けると分かっているからだ。そのことが国際社会に広がることも期待できる。

韓国は戦後のどさくさにまぎれて国際法に反するいわゆる「李承晩ライン」を引いて、その中に島根県の竹島を取り込んだ。1954年には沿岸警備隊の駐留部隊を送り、長い時間をかけて島を要塞化した。合理的に考えれば、これを正当化することは難しい。だから従軍慰安婦問題など、常に「別件」を絡めてくる。

いずれにしても、長年に渡る韓国の不法占拠で文字通り「取り付く島がなかった」竹島に、李明博大統領の保身のために風穴が空きそうなのだ。これについても民主党の前原誠司政調会長がテレビで「(竹島を取り戻すには)実力行使しかない」などと勇ましい発言をしていたが、浅薄と言わざるを得ない。売り言葉に買い言葉で対応していたら、それこそ武力衝突しかなくなってしまう。

竹島は韓国の歴代政権が安易にナショナリズムを掻き立てる材料に使ってきた。こうなると当事国同士での解決は、はっきり言って無理だろう。だから、チャンスをとらえて国際社会に日本の正統性を主張していくしかない。政権末期の大統領の竹島上陸という、またとない「敵失」を見逃してはいけない。

【NLオリジナル】