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消費税増税法成立でボールは国民の側に投げられた(山口一臣)

国民の生活が第一などの中小野党が「消費税増税反対」を主張して提出した内閣不信任決議案が9日夜、民主党などの反対多数で否決された。自民、公明の両党は採決に欠席し、結果として野田政権の延命に手を貸した。一方、参議院の「民自公増税3党」は10日の本会議で消費税増税法案を可決・成立させることに成功した。

それにしても、この数日の永田町での出来事は何だったのか?

新聞の朝刊1面トップに大きな見出しで書かれたことが、夕方にはもう変わっている。そんなことが何回も続いていた。

8月8日夜には、3党合意の〝共犯〟から一時は「内閣不信任案提出も辞さない」という対決姿勢に豹変していた自民党の谷垣禎一総裁が、これまた突然、野田佳彦首相が呼びかけた党首会談に応じることになった。途中から公明党の山口那津男代表も加わり、消費税増税法案の今国会での成立に合意。これを受けて自民党は、内閣不信任決議案と首相問責決議案の提出を見送ることを決めたという。

自民党が時期を明確にするよう強く要求していた衆議院解散については、法案成立後「近いうちに」信を問うということで決着したそうだ。谷垣氏は、その日の午前中に示された「近い将来」という文言が「近いうちに」に変わっただけで、アッサリ納得してしまったのだ。

朝三暮四(ちょうさんぼし)、という言葉がある。

中国、宗の狙公(そこう)が、飼っている猿にトチの実を与えるのに、朝に三つ、暮れに四つやると言うと猿が少な過ぎると怒ったため、朝に四つ、暮れに三つやると言うとたいそう喜んだという故事から、目先の違いに気をとられて、実際は同じであるのに気がつかないことをいう。

失礼ながら、谷垣氏が狙公の飼っている猿に見えた。

「近いうちに」とは、一般社会では「そのうち」「いつか機会があったら」と同義で、実現するかしないかすらわからない。「近いうちに飲みに行きましょう」という言葉が実行されるのが半年以上先であることは、社会人ならみな知っている。事実、民主党の輿石東幹事長は記者会見で「(秋の党首選で)2人が代われば、2人の話は終わりだ」と語り、城島光力国会対策委員長は「来年の夏まで含む」と言い放った。

いずれにせよ、自民党が望む早期解散が実現すれば「密約・談合政治」と批判され、解散がなければ谷垣氏は「猿以下」ということになる。

どっちに転んでもロクな話ではない。

私たち有権者はこの一連の出来事をしっかりと記憶にとどめておくべきである。そして、少なくとも1年以内の「近いうちに」行われる衆院選での投票先決定の材料にしたほうがいい。一連の出来事から、いったい何が読み取れるのか。

いい悪いは別にして、民主、自民、公明の3党が増税政党であることがハッキリした。しかも、民意より官意(とくに財務省)を優先する。

野田首相は最近、「決める政治」をアピールし、批判があってもやらなければならないことは貫くなどと言っている。だが、民主主義社会では国論を二分するような問題の決定権は国民にある。野田首相は過去に官僚に逆らう決定をしたことは一度もない。

彼の言う「決める政治」は、官僚の意向にしたがい「勝手に決める政治」であることもよくわかった。

普通の民主主義国家では、政党は政策を掲げて選挙を戦い、多数を取った政党の政策が実行される。先の総選挙で自民党が消費税率10%を主張したのに対して民主党は「増税の前にやるべきことがある」と主張し、圧倒的な支持を受けた。しかしいま、有権者の選択とは正反対の政策が実行されようとしている。

3党による談合政治は民主主義の否定にもつながりかねない。

民主党の公約違反は明らかだが、自民党がさらにいい加減なことも判明した。自らが選挙で主張した消費税増税法案を可決されようとしている矢先に、肝心の法案を潰して内閣不信任案を出そうとしたのだ。理由は、首相が解散の時期を明確にしないということらしいが、そんなことは国民の生活にも国益にもまったく関係ない。しかも、公明党から内閣不信任案を出したら選挙協力をしないと脅されると、たちまち引っ込めてしまう程度の話だった。

要するに、この政党には国民の生活や国益よりも、政策よりも優先することがいろいろあるということなのだ。既成政党の劣化ははなはだしい。

消費税を増税して何をやりたいのかもよくわからない。

国民に対しては「税と社会保障の一体改革」などと、さも社会保障の充実に使われるようなことを言っておきながら、実体は「税と公共事業の一体改革」になりつつあることがわかってきた。自民党は、農家や子育て世帯に手当を配ることを「バラマキ」と批判してきたが、ゼネコンにカネを配ることはいいらしい。民自公の3党が目指しているのは、古い自民党時代の政治に他ならない。

それもこの一連の出来事でハッキリした。

2009年の政権交代で国民が期待したのは、旧来の自民党政治との決別であり、有権者が自分の意思で選ぶ政治、公正で開かれた政治……などだった。「近いうちに」行われる次の選挙で、今度はどういう選択をするべきか。ボールは国民の側に投げられている。

【NLオリジナル】