財界人は世界の「革命」から目をそらすな!(山口 一臣)
先週、複数の新聞に扱いは小さかったけれど衝撃的な記事が掲載された。
米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフ・イメルト最高経営責任者(CEO)が7月30日付の英フィナンシャル・タイムズのインタビューで、原子力が他のエネルギーと比較して相対的にコスト高になっている点を指摘し、「(原発を)正当化するのは難しい」と述べたというのだ。GEといえば日本の日立製作所と提携し、原子炉メーカーの世界3大勢力の一角を占める原発屋だ。そのトップが世界の有力経済紙に「原発は経済原則がら見てもうダメだ」との考えを示したというのである。
いったい、どういうことなのか。
イメルトCEOによると、安くて埋蔵量豊富な天然ガスが各地で次々と見つかっており、原発はすでに経済的に見合わなくなっているという。そのため「世界の多くの国が(天然)ガスと、風力か太陽光発電の組み合わせに向かっている」というのだ。日本では、いまだに脱原発か否かで大騒ぎしているが、実はこれ(脱原発⇒天然ガス+自然エネルギーへの移行)が世界の潮流なのである。
イメルト発言の背景にあるのが、米国発のいわゆる「シェールガス革命」だ。
シェールガス(オイル)は、きめが細かくて固い泥岩層に閉じ込められていたガスや石油のことで、採掘することが難しい場所にある非在来型資源のひとつ。米国では数十年前から中小の資源会社が細々と生産を続けていたが、新たな採掘技術が確立され、生産量が飛躍的に伸び、2000年代に入って北米で本格的な商業生産が始まった。在来型の天然ガスの埋蔵量は約60年分といわれていたが、非在来型は250年分、調査が進めばさらに増える可能性が高いという。
米国は世界最大の天然ガス消費国で、自国内生産だけでは間に合わず、中東などから年に約1億トンもの輸入をしていた。ところがシェールガスの本格生産が始まったことで自給率がアップし、米国内のガス価格は急落した。低コストのエネルギーが確保できるようになったことで大手メーカーが海外投資を見直すなど、製造業の国内回帰(雇用増)も期待されているという。
この新型天然ガスの登場は世界のエネルギー事情を一変させる、まさに革命的な出来事だと言ってもいい。
そもそも天然ガスは同じ化石燃料の中でも石油、石炭に比べてCO2やNOxの排出量が少ないクリーンエネルギーとして知られていた。非在来型天然ガスは、それに加えて埋蔵量も豊富でかつ世界中に分布しているという特長がある。代表格のシェールガスでいえば、米国・カナダの北米大陸を中心に、南米、中国、インド、オーストラリア、欧州各地からアフリカ大陸まで広がっている。
米国が軍事的プレゼンスを中東からアジア太平洋地域へ移しているのは、こうした事情があるからだ。要するに、エネルギー安全保障の観点から産油国が集中する中東のプライオリティーが相対的に低くなったというわけだ。
実は、日本近海にもメタンハイトレードという非在来型天然ガスが大量に眠っていることがわかっている。実用化に成功すれば、日本が「エネルギー輸入大国」から「エネルギー大国」になる産業革命以上のビッグな可能性すら秘めている。原発へ投資していたカネを一刻も早く、こうしら資源開発へ回したほうがいいのではないかと思う。
いずれにしても、 冒頭のイメルトCEOが言うように、世界は「ガスと自然エネルギー」へと、どんどん先へ進んでいる。
先ごろ日本語版が出た「自然エネルギー世界白書 2011」によれば、世界のエネルギー消費における自然エネルギーの割合は16%で原子力の2.8%を圧倒している(残り81%は化石燃料)。しかも、2010年に世界で新しく導入された発電容量の約半分が自然エネルギーだったという。
今年5月にはドイツの太陽光発電能力が原発20基分に相当する過去最高の2200万kwに達したとの報道があった。この他にも、ドイツの4つの州で電力の43〜50%を風力発電で提供できるようになったとか、スペインでは風力発電による供給が一時、同国の全消費電力の60%に達したとか、デンマークでは電力生産の36%を再生可能エネルギーにすることに成功したとか、この種のニュースは枚挙にいとまがない。
もちろん、天然ガスも自然エネルギーも克服しなければならない課題はたくさんある。しかし、早めにカジを切って問題を顕在化させた国や企業ほど、早く解決のためのテクノロジーを手にするのだ。
翻って、日本の経済界は米倉弘昌経団連会長を筆頭に、いつまで世界が見捨てた原発に執着するつもりなのか。世界では革命が起きているのだ。日本がエネルギーの「負け組」にならないためにも、くれぐれも選択を誤らないでほしい。
【NLオリジナル】