「香港はもはや中国である」(相馬 勝)
ちょっと古い話になるが、7月1日は香港が中国に返還されて15年周年だったので、筆者も2年ぶりに香港を訪れた。
私は1993年2月から97年7月まで新聞社の香港支局長として香港に駐在して、中国情勢や香港返還についてウオッチしてきた。中国政府は返還後も50年間は香港の自由主義の体制を維持するという「一国家二制度」を守ると約束したが、いまの香港は完全に中国に呑み込まれてしまったとの印象が強い。
確かに、対中抗議デモの参加者が40万人以上に達したことで、香港メディアは1面トップの扱いだったが、当時の反中デモの方が参加者数も多く、さらに熱気があったように感じる。香港では1989年6月の天安門事件や、1997年の返還前のデモでは100万人が参加したこともある。
今回のデモでは「民主を返せ」とか、「天安門事件の再評価」あるいは「中国人と呼ばないで」というスローガンがあったものの、筆者の旧知の香港人は「どうせ実現できないということはよく分かっていて、スローガンを叫んでいる。香港は中国領で、中国共産党が支配しているのは変わりようがないからだ」とすっかり冷めていた。
報道の自由などは「メディアが自主規制して、中国当局に都合の悪いことは報道しない、あるいは報道しようとすると経営幹部から圧力が加わることもままある」と彼は語る。
実際の話として、中国系香港紙「大公報」は今回のデモ参加者が香港島のビクトリア公園で集会を開いたことについて、「10万人の市民が花火を楽しむ」という見出しをつけて報じていたくらいだ。「もはや香港は中国なのだ」と実感せざるを得ない。
実際、香港の繁華街を歩くと、中国大陸から来たとすぐに分かる団体客が闊歩しているし、ちょっとした高級店でも香港ドルのほか、中国の人民元も受け取っている。返還前は英語が通じる店も多かったが、いま英語はほとんど使われておらず中国語の方がよく通じるほどだ。
中国と香港における経済の融合も進んでいる。香港の場合、返還後に多くの日本や欧米企業が撤退し、返還前は中国に比べて優位に立っていた香港経済は完全に中国への輸出頼みになっている。中国がなければ香港経済の存立基盤は脆いのだ。
[caption id="attachment_2460" align="alignnone" width="620"] 香港のデモ風景(撮影=筆者)[/caption]
このため、多くの中国人が大陸から香港に流れ込んできており、いまや香港は中国共産党幹部の子弟や親戚による資産形成の場となっている。次期最高指導者と目される習近平・国家副主席の姉夫妻が香港で不動産物件を買いあさったり、重慶事件で失脚した薄熙来・重慶市党委書記の妻の姉2人が香港で印刷関連の企業グループを経営し、巨万の富を築いている。これも、香港の財閥企業が共産幹部の子弟や親戚に取り込んで、大陸ビジネスで甘い汁を吸おうと魂胆からだ。
とはいえ、私は返還前の英国統治時代の香港の方がいまよりも住みやすいというつもりはない。乱暴な言い方をすれば、いずれにしても、香港は英国領だろうが、中国領だろうが、「植民地」というカテゴリーからは抜け出せないと思うのだが、どうだろうか?
【NLオリジナル】