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尖閣の対応ぶりでわかる日本の危うさ(蟹瀬 誠一)

ダイビングスポットとして知られる沖縄県石垣島から北へ150キロほど離れた海域に点在する5つの島と3つの岩礁がある。尖閣諸島だ。今、その無人の島々や岩礁を巡って緊張が高まっている。

尖閣といえば、2010年9月に起きた中国船衝突事件をご記憶の方も多いだろう。周辺海域をパトロールしていた海上保安庁の巡視船が中国籍の不審船を発見し、日本領海から退去を命じたところ中国船が巡視船に衝突してきた事件だ。

海上保安庁は同漁船の船長を公務執行妨害で逮捕。一時は同諸島の領有権を主張している中国と外交問題にまで発展したが、後に釈放して沈静化した。

ところが今年4月、石原慎太郎東京都知事が尖閣諸島を都予算で所有者から買い取る方向で交渉が進んでいる事を明らかにしたため、日中間で再び緊張が高まった。そのうえ、野田総理が石原知事に負けまいと同諸島の国有化を唐突に表明したため火に油を注ぐ結果になっている。間抜けた「人気取り」である。東京都に所有権が移ってからでよかった話だ。

歴史を振り返れば、日清戦争後の1895年、日本は閣議決定によって尖閣諸島を日本領(沖縄)に編入した。尖閣諸島が無人島であり、清王朝が支配した痕跡もないことが確認されたからだ。

その後、豊かな漁場に囲まれた魚釣島に移住した日本人が鰹節の製造を行うなど実効支配の実績もある。第二次世界大戦後は米国の占領下におかれたが、72年の沖縄返還によって日本に復帰。サンフランシスコ平和条約で放棄した領土にも含まれていない正真正銘の日本固有の領土であり、中国と台湾による領有権主張は東シナ海の油田開発の過程で発生したものだというのが日本政府の公式見解だ。

実際、中国や台湾が尖閣諸島を自国領であると主張し始めたのは、海底調査によって周辺海域に石油資源埋蔵の可能性があることが指摘された60年代末からである。中国側は、明・琉球間の航海記録に尖閣諸島が記載されていて、魚釣島(中国では釣魚島)を台湾の付属島と見ていたことなどを理由に挙げているが、歴史的な根拠としては弱い。

つまり、尖閣諸島問題は歴史的領有権争いというよりはエネルギー資源の争奪戦であり、中国の狙いは尖閣諸島を含む東シナ海であることは明らかである。今後の経済発展のために資源確保が必要である中国が、そう簡単に譲歩することは考えにくい。実際、尖閣諸島が点在する東シナ海ガス田の共同開発協議で、日本側が「日中の中間線の両側で各々が採掘しよう」と提案しているのに対して、中国側は「自国領の資源開発に日本の参加を認めてあげよう」といった高飛車な態度である。

日本政府は7月、丹羽宇一郎駐中国大使を一時帰国させ、日本領の尖閣諸島の国有化はあくまで国内問題であるという立場から「日本の考えを正しく伝達するように」と指示した。しかし現実的には領土を確保する方法は二通りしかない。金で買うか、武力を行使するかだ。

例えば、米国は1867年にアラスカ州をロシアから購入した。一方、ロシア(ソ連)は第二次世界大戦終了直後に北方領土を占拠している。近年行われた武力行使の例としては、1980年代初頭にアルゼンチン軍が英国領フォークランド諸島へ侵攻・占領したいわゆるフォークランド紛争がある。英国のサッチャー政権はすぐさま原子力潜水艦を含む大機動部隊を投入し同諸島の奪還に成功している。両軍とも数百名の死者が出た。主権を守るのは容易なことではない。日米政府の“密約”のもと行われた沖縄返還は例外中の例外なのだ。

日本は「資源のない小国」というイメージがある。しかし日本の領海と排他的経済水域などをあわせると資源開発権のある海洋面積は447万平方キロと領土面積の12倍もあり、世界6位の広さになる。その海底は鉱物やエネルギー資源の宝庫。つまり日本は「資源大国」になれる可能性がある。この点でも尖閣諸島が我が国にとって極めて大切な領土であることは間違いない。

ところが日本政府には何の具体的な守備計画もない。中国は10年以上かけて戦略的に尖閣諸島への攻勢をかけてきている。島がだめなら岩礁を狙ってくるだろう。野田総理が一国のリーダーとして政治生命を懸けるというのなら、消費税よりも戦略的な領土・領海確保に懸けたらどうか。

【ブログ「世界の風を感じて」より】