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「金正日の料理人」電撃訪朝の舞台裏(辺 真一)

金正日総書記の専属料理人を務めていた藤本健二氏が一昨日、電撃訪朝した。2001年に北朝鮮を「脱出」してから11年ぶりの再訪朝だ。本人の話では、金正恩第一書記直々の招待によるもので、先月中旬に日本の関係者から招待状を手渡されたそうだ。

それにしても驚いた。「金正日の料理人」や「核とミサイルと女を愛した将軍様」など立て続けに暴露本を出す一方で、テレビに出演し、北朝鮮が国家機密扱いしていた金正日ファミリーのプライバシーを赤裸々に語っていた藤本氏。彼は、言わば北朝鮮の暗殺ターゲットNo.1とみなされていたからだ。そのことは、整形のうえに変装までし、さらには防弾チョッキを片時も手放さなかったことでわかるように藤本氏自身も自覚していたことだ。

金正恩氏が、藤本氏の手料理を食べたいがために呼んだのか、あるいは将来、日朝間のパイプ役に利用するため呼んだのか定かではないが、いずれにしても藤本氏のこれまでの言動をチャラにするとは、正恩氏によほどの魂胆があるのだろう。

招待を受ける側の藤本氏も「罠かもしれない」との不安を抱きながらも訪朝を決行するとは、これまたよほどの覚悟だ。二人の間には第三者にはわからない「信頼関係」でもあるのだろうか。

それともう一つ。藤本氏を「保護下」に置いてある日本の当局もよくゴーサインを出したものだ。もしかすると、拉致問題で何らかのメッセージを託しているのかもしれない。

今に思えば、藤本訪朝三日前の18日、松原仁拉致問題担当相は「最近の北朝鮮の人事を見ていると、拉致問題で従来と違う対応を示す可能性が極めて高い」と述べ、日本人拉致問題の進展に期待を表明した。松原大臣は公安調査庁長官も兼ねている。

藤本氏とは長い付き合いだ。頻繁に電話がかかってくるほどいろいろと身の上相談にも乗ってあげているが、今回の再訪朝の件については寝耳に水だった。二週間前に某テレビ局で会った際にも何も聞かされてなかった。

招待状を受け取った時、本人は行くか行くまいか、ハムレットのように相当悩んだはずだ。しかし、かねがね「許されるならば、もう一度行きたい」とは言っていた。北朝鮮に妻子がいることも理由の一つだが、もしかすると北朝鮮で暮らしていた時のあの特権生活が忘れられないのかもしれない。

今だから言えるが、実は、藤本氏は金正日総書記存命中も何度か、直接手紙を出していた。それらはいずれも届いていたそうだ。おそらく金正恩氏が最高指導者に就任した時も祝福の手紙を出していたのだろう。その中でこれまでのことを反省して、今後は生涯を掛けて、金正恩氏のために尽くすとの決意表明をしたのかもしれない。

そもそも藤本氏は金正恩氏についてはこれまで一言も悪口は言ってなかった。書物でもテレビ番組でも正恩氏への評価と期待は口にしても、他のゲストの批判に同調することは一度もなかった。

韓国で出版された単行本「北朝鮮の後継者、なぜ、金正恩なのか」を3月に会った際に贈呈されたが、改めてよく読んでみると、正恩氏のPRに徹していた。もしかすると、この本が評価されて、今回の訪朝に繋がったのかもしれない。

いずれにしても3週間ぐらいの滞在ならば、8月の第二週には帰国することになっている。無事帰国できれば、今後、藤本氏は日朝間の重要なパイプ役となるだろう。

【ブログ「ぴょんの秘話」より】