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【NLオリジナル】上海の偽物市場に潜入!?(相馬 勝)

上海の偽物市場 精巧な高級時計 軍の工場で製造し資金源に(?)

 

最近、上海に取材に行ってきた。上海滞在の最後の日に、取材も終わったところ、現地の日系証券会社の支店長さんが「面白いところがありますよ」と言うので車で連れていってもらったら、浦東地区にある上海科学技術館の前で止まった。門の前には、上海閥の総帥の江沢民・前国家主席の揮毫で「上海科学館」というブロンズの案内板が掛けてあった。

[caption id="attachment_2273" align="alignnone" width="620"] 上海科学技術館前の広場に展示されている龍をあしらった彫像/撮影=筆者[/caption]

 

「何か面白いものがあるのかな?」といぶかっていると、「ここではありませんよ。もうちょっと先です」と支店長さん。

歩いてすぐのところに、科学館の地下街の入り口があり「亜太盛匯広」という表示があった。これは略称で、正式には「亜太新陽服飾礼品市場」ということで、「アジア太平洋新陽服飾お土産マーケット」とでも訳そうか。

地下街はかなり広くて、バッグや鞄、衣類、靴、雑貨、ブランド品のほか、フードコートなどの店舗が立ち並ぶ上海最大級の地下ショッピングモール。100店舗は下らない数だ。

「ここで有名なのは、ブランド品の精巧な偽物が売っていることです」

支店長さんはこう説明して、あるブランド時計の専門店に案内してくれた。彼は世界中のブランド時計にかなり詳しいらしく、男性店員を相手に「もっと良いものがあるだろう」などと、次から次へと高そうなブランドの時計を出せさせている。店員もこれは「上客」と思ったのか、店の奥の金庫から、50センチ四方の大きな木箱を持ち出して、全部で200個以上の商品をドンドン見せてくれた。

[caption id="attachment_2274" align="alignnone" width="620"] ショッピングモールの入り口。「強化商標専用権保護 維護権利人合法権益」という知的財産権保護のスローガンが書かれていた/撮影=筆者[/caption]


「実は、これは全部偽物です。先日、お客さんを連れてきたら、『これはすごい。本物と同じだ』と大変に喜んでくれて、10個以上も買っていきましたよ。1個300元(約3750円)でしたので、すごくお得ですよ」

支店長さんはちょっと自慢げに、鼻をひくひくと動かした。

面白そうなので、私も支店長さんが推薦してくれた〝ブランド〟時計を2個選んでみた。これから、男性店員との値下げ交渉が始まる。

相手は「1000元(約1万2500円)と吹っ掛ける。対する支店長さんは慣れているらしく、「ダメダメ。高い。この前、ここで200元で買ったよ」などと、とんでもない安値を提示する。このやり取りが面白い。

結局、一つ300元で決着した。買ったのは、スイスのパテックフィリップ社製の偽物で、「本物は1800万円ほどする」と支店長さん。北朝鮮の金正恩・第一書記が愛用しているといわれ、米国の北朝鮮専門家か、時計のコレクターか、どちからは定かではないが、AP通信社が配信した金第一書記の写真から、彼の時計がパテックフィリップ社製であることを割り出したという。

もう一つはブルガリ製の時計で、これは本物ならば「300万円」ほどだ。

この二つとも、私の腕の太さに合わなかったので、大手の時計量販店でベルトを調整してもらった。「舶来製」ということで、それぞれ2000円ずつの出費となった。本体の半分の値段だ。偽物でも、舶来品には変わりないが、ちょっと微妙な気分になった。

 

[caption id="attachment_2275" align="alignnone" width="620"] 上海で買ったブルガリの時計の偽物/撮影=筆者[/caption]

 

帰国してから、出かけるときに、これらの二つの時計を交互にしてみたが、私の付き合う方は時計には詳しくないらしく、だれも関心を示さないので、ちょっと予想外れだった。結局、〝パテックフィリップ社製〟は革のバンドがちぎれてしまったらしく、どこかになくしてしまった。もう一つのブルガリの時計はかなり重くて、これをつけると腕が痛くなるので、自然にしなくなって、いまパソコンの横に置いたままになっている。

「悪銭身につかず」ではないが、偽物の運命はこのようなものだろう。

ちなみに、このようなブランド時計の偽物をだれがつくっているのかについて、事情通は「中国人民解放軍がアルバイトとして製造しているとのうわさが流れている。彼らが製造していなくても、プロの技術者に作らせて、それを軍が卸している可能性もある」と指摘する。

中国の偽物文化はあまりにも有名だが、欧米諸国が中国政府にいくら抗議しても、知的財産権の侵害はなくならない。このようなブランド時計は、何回も摘発されているのだが、一向に減る気配は見えない。「実は、バックに軍がついているので、当局も取り締まりようがないというのが本当のところだ」と同氏は明らかにする。本物と間違えるほどの精巧なモノを作る技術をほかに活かせば、世界で十分通用すると思うのだけれども、そう考えるのは私だけだろうか?