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小沢新党が狙う「内閣不信任案提出」(上杉 隆)

消費増税法案、原発再稼働さえ白紙の可能性も 小沢新党が狙う「内閣不信任案提出」

来週、(7月11日)にも小沢新党が発足する。今回のコラムではかつては本業であったが、今となっては久しぶりとなる政局記事を書いてみようと思う。

先週来、筆者は仮に小沢一郎氏が新党を立ち上げたら民主党代表時代に繰り返したスローガン「国民の生活が第一」をそのまま政党名に使用するのではないか、と冗談を言っていたがどうやら本当にそうなりそうだ。

仮にそのまま名づけられれば選挙時には「第一党」とでも略されるのだろうか。すると「小沢新党」は選挙前からやたらと縁起の良いことこの上なくなる(笑)。

小沢新党の焦点は 衆議院議員の数

さて、冗談はさておき、その「小沢新党」は衆議院37、参議院12の計49名でスタートする見込みだ。来週までには多少の増減があろうが、焦点はそうした政党の数ではなく、衆議院議員の数にある。

政治はしょせん権力闘争である。その当然の観点からすれば、小沢新党の動向によっては、消費税法案はもちろん、場合によっては原発再稼働などの政策さえも白紙に戻るほどの大波乱がやってくるかもしれない。

それを前提にすれば小沢氏の狙いは明らかだ。その大きな賭けに打って出た彼の狙いは「内閣不信任案の提出」に尽きる。

内閣不信任案は一国会につき、一会派、一回だけ提出できる。提出には提出者と50名の賛同者、つまり51人の衆議院議員を必要とする。

ということは現時点での「小沢新党」では、14人不足しているといえる。だがそれは当然小沢氏も織り込み済みだろう。その対策は電光石火、取っているようだ。

まず、今週中には先行して民主党を離党した小沢グループ(一部)の「新党きずな」(衆院9人)との統一会派が組まれるだろう。そうなれば衆議院議員46人、不信任案提出まであと5人に迫る。

離党直後からの小沢氏の動きは速い。火曜日には連携模索のため、「新党大地・真民主」の鈴木宗男代表と面会した。小沢氏から「大地」との統一会派結成を打診したようだが、鈴木代表は小沢新党の「党の綱領」などが明確でないことなどを理由にいったん見送っている。

ただ、「新党大地」の衆議院3人が加わっても即「51」には届かない。そこで小沢氏が目を付けたのが社民党だ。

水曜日、小沢氏は社民党の又市征治副党首と面会している。仮に社民党との連携が成れば、同党所属の衆議院議員6人が加わり、一気に内閣不信任案提出のための「51」を超えることになる。

だが、問題は社民党との政策協議だ。消費税増税反対、大飯原発再稼働反対では歩調を合わせられるだろうが、社会保障と原発政策ではズレが生じる可能性が高い。

内閣不信任案の先を考えた場合には、新党内部で理解が得られないかもしれない。

小沢氏のこうした動きと並行して、小沢新党幹部も様々な可能性を模索しているようだ。

具体的には、亀井静香前国民新党代表、田中康夫新党日本代表、鳩山邦夫元総務大臣などの中から、会派入りの可能性のある人物に打診を開始している。個別ではあるがこの三人が内閣不信任案の提出に同調して、提出者に名を連ねれば、可能性は高まる。

また筆者の取材ではこのうちのひとりからは少なくとも内諾を得ているという。

内閣不信任案に反対できない自・公 三党に残された道は連立のみ

そして最大の注目が民主党に残った鳩山グループの動向だ。小沢新党に加わらなかった衆議院21人、参議院3人は即日党内に「勉強会」を立ち上げ、参院での消費税法案採決をけん制している。

党員資格停止六ヵ月の処分を食らった鳩山由紀夫元首相を筆頭に、仮にこのグループ(21人)が内閣不信任案提出に協力したら、一転して、ピンチが訪れるのは野田首相の方である。

というのも内閣不信任案はあらゆる法案に優先して採決される「最強法案」だからだ。

つまり、消費税法案含め、先日の8法案には賛成できた野党の自民党と公明党も、内閣不信任案となると話は別になる。

そもそも議院内閣制において、野党が内閣不信任案に反対するのは難しい。野党が内閣不信任案に反対すれば、政党の存在意義が問われるばかりか、野党でいる意味も為さなくなってしまうからだ。

それを避ける方法は唯一、内閣不信任案の出される前に連立協議を行い、民主・自民・公明の三党で連立を組むしかないだろう。

だが、そのためのハードルはより高い。野田政権は自・公の野党に対して圧倒的な譲歩を行わなければならないし、場合によっては阻止後の解散総選挙くらいは約束されるかもしれない。

そこまででなくとも、不信任案決議を否決するにあたって、大臣ポスト、あるいは政権移譲は要求されるかもしれない。

つまり、内閣不信任案が出された途端、窮地に陥るのは小沢氏の側ではなく、野田首相の方という見方ができるのだ。

内閣不信任案の成立には衆議院議員の過半数が必要だ。

仮に「鳩山グループ」の21人の衆議院議員が「小沢新党」に協力すれば、70人近くの賛成票が確実となる。さらに民主党の衆議院議員はその分減って229人となり、自民党120人、公明党21人が「賛成」すれば当然内閣不信任案は可決となる。

共産党が内閣不信任案に反対することは絶対にないから、仮に自公が「棄権」の場合でも内閣不信任案は野田首相にとって重くのしかかってくる。

そうなると、鳩山グループの動向次第では野田首相は、消費税法案などの成立と引き換えに、野党に政権を譲るなどして内閣総辞職をするか、あるいは解散総選挙に打って出るかの二者択一となる。

小沢新党のこうした戦略は、国会対策巧者の山岡賢次代表代行、東祥三幹事長、牧義夫幹事長代行の間で練られている。

今後の焦点は内閣不信任案の提出に絞られたということがお分かりいただけたろうか。

そして重要な点は、その結果いかんによっては、消費税法案も、大飯原発再稼働も、野田政権の目指すものが白紙に戻る可能性があることだ。

今後も引き続き、本コラムや筆者メルマガで消費税政局の様子を報告する。

 

ダイヤモンドオンライン週刊上杉隆【第5回】7月5日掲載