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中国経済の失速(相馬 勝)

最近、「中国経済の失速」が頻繁に伝えられるようになってきた。毎日新聞発行の「エコノミスト」最新号も「中国大失速」と題して特集を組んでいる。また、日経でも連日、中国経済の不調ぶりを伝える記事が多くなった。実は、筆者はこの事態を1カ月以上も前に予測していた。以下、隔週刊誌「財界」の筆者の連載企画「習近平の中国」の第2回目の記事(6月5日発売号)を転載する。

(廈門市内=筆者撮影)

財界「習近平の中国」②)党大会にらみ新景気刺激策が始動、 温家宝首相が前言撤回 「4兆元財政出動」の二の舞か

中国の経済政策が揺れている。3月の全国人民代表大会(全人代=国会に相当)で、今年の経済成長目標を「7・5%」と宣言した温家宝首相が早くも前言を撤回。5月19日、湖北省武漢市で、湖北、河北、遼寧、江蘇、広東、陝西の6省の指導者を集めて、「景気の底入れを確実にする措置を講じなければならない」と発言し、経済成長率について「(従来の)8%を維持する必要がある」との見解を明らかにし、全人代で打ち出した「7・5%」を撤回したのだ。

温首相は武漢から北京に戻ってすぐの23日、国務院(政府)常務会議を招集し「安定しつつも、より速い経済成長を維持させることが重要だ」と指摘。企業中心の減税政策を推進し、穏健な金融政策を採用して企業への融資規模を拡大させ、国内の資金需要を促進させると強調。具体的には銀行への民間資本の出資を他の業態並みに認め、鉄道建設、地方や西部地区のインフラ整備、不動産部門へのてこ入れ、教育や保健医療分野での民間投資を促進する方針だ。北京の政府筋は「これだけで2兆元(約26兆円)程度の景気刺激策になる」と分析する。

温首相がわずか2カ月あまりで〝公約〟を放棄したのは第18回党大会を半年後に控え経済情勢が悪化しているためだ。

(北京市内にある人民解放軍関連企業『中国保利集団』の本社ビル=同)

中国では5年に1度の党大会の開催年は、政治的な過渡期を乗り切るために社会的安定を強く意識し、経済発展を維持するとともに物価上昇率を低く抑えるなど国民生活の安定を重視する経済政策をとってきた。しかし、今年は欧州危機の影響で、経済成長の牽引役を果たしてきた輸出が振るわず、景気浮揚に欠かせない内需拡大も進まないことから、異例の政策転換に踏み切った。

しかし、あまりにも急激な景気刺激策はビジネスチャンスを生む半面、3年半前の「4兆元(約52兆円)財政出動」の二の舞を演じる可能性がある。今回も中央や地方政府の〝大盤振る舞い〟による無意味なプロジェクトの増産で、インフレ高進や債務増加などを生み、逆に景気低迷に拍車をかけることも考えられる。

米ノースウェスタン大のビクター・シー准教授は「温首相ら現指導部は党大会を無事に終えることが最優先だ。今回の景気刺激策で急場を凌ごうということなのだろうが、経済混乱によって社会的に不安定になる可能性もある。そのツケは次期最高指導者と目される習近平副主席や首相候補の李克強副首相ら第5世代に回されるが、新指導部の政治的手腕は未知数だけに、危険な賭と言わざるをえない」と指摘する。