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農村には行かない正恩(辺 真一)

先週末、米どころの山形の庄内で講演を行った際、世襲で選ばれた金正恩氏が体制を維持するには軍部の支持よりも人民の支持が不可欠、そのためには二代続いて守れなかった国民への約束、即ち「白米と肉汁と瓦葺の家」を担保すること以外にないと述べた。

バカンスを取っていたのか、体長を崩して寝込んでいたのか定かではないが、正恩氏は昨日も靴下工場と児童百貨店を訪れていた。

一昨日、24日ぶりに姿を現した際には麦わら帽子を被っていたので、干ばつで壊滅的な打撃を被っている農村を支援しようと、全国から動員されている学生や勤労者らを励ますため農村地帯を訪れていたのかと思えば、そうではなかった。今回もまた、遊園地と産院であった。

正恩氏の視察場所はいずれも平壌に限定され、それもその狙いが見え見えの施設ばかりだ。児童百貨店について言うなら、5月30日にも一度視察している。この時には託児所も、動物園も視察していた。

最もしんどい農村への視察は82歳の老人(崔永林総理)に任せている有様だ。役割分担と言うよりも、農業分野では成果が期待できないから意図的にパスしているとしか思えない。農村を現地指導しても、不作、食糧危機は目に見えているからだ。

農業や経済がうまくいかず、人民の間で不満が高まれば、その担当者に責任を転嫁させ、更迭、処分して交わしてきたのが父親、金正日総書記のやり方だった。1990年には大量の餓死者を発生させたとして徐寛煕党農業担当書記が、2000年には経済(貨幣改革)政策の失敗で朴南基党計画財政部長が責任を問われ、処刑されたのはまだ記憶に新しい。

「食べる問題」を解決することが党の最優先課題ならば、最高指導者たる者、農場に自ら率先して足を運び、農民を鼓舞しなければならない。祖父の金日成主席は麦わら帽子を被って炎天下の中、農村をよく現地指導していたものだ。統治スタイルを真似るなら、正恩氏は今、悪戦苦闘している農民の中に入らなくてはならない。

都合の良い所しか行かない所に現地視察の狙いが透けて見える。