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【NLトライアル原稿】福島県でなぜSPEEDIが迅速に活用されなかったか?(おしどりマコ) 

福島県でなぜSPEEDIが迅速に活用されなかったか?

「福島県SPEEDI計算結果メール配信に関する調査依頼」の情報を福島県郡山市のT氏が請求していたところ、開示されたので、ここに公開する。

236ページからなる資料で、特筆すべきものは「SPEEDI予測結果の取り扱いにかかる関係者ヒアリング結果総括表」である。

「SPEEDIの情報はどのような流れで処理されるべきか理解していたか」「運用マニュアル上、SPEEDI情報は県から市町村に提供することになっていたのか」「削除は自分の判断か上司の指示か」「なぜメールを削除したのか。なぜ添付ファイルを保存しなかったのか」など、興味深い質問が続いている。

名前が伏せられているため、順番にA,B,C,D,E,F,G氏とする。E~G氏まではいくつかの質問項目、主に電子メールのやりとり関係からは外れているので、A~C氏が関係者といったところであろうか。気になる項目をピックアップする。

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【SPEEDIに関する認識】

1. SPEEDIの存在は知っていたか。またその役割は。

G氏:知っているが、震災当時は専用端末が使えなかった。

2. SPEEDIの情報がどのような流れで処理されるべきか理解していたか。

A氏:そこまではわからない。
E氏:事故当時は意識したことはなかった。周囲もSPEEDIの話題はなかったと思う。
F氏:オフサイトセンターが使用する。県は参考程度でみるという認識。

3.今回の災害でSPEEDIの情報は役に立つと思っていたか。
B氏:来る情報によっては活用できると思ったが、情報が少なかったので今回は難しいと思った。
D氏:自治会館の災害対策本部に移った際にはSPEEDIの専用端末が無かったので頭に無かった。
E氏:通常であれば約に立つと思うが当時はダメであった。

5.運用マニュアル上、SPEEDI情報は県から市町村に提供することになっていたのか。
A氏:わからない。運用マニュアルは見たことはない。
B氏:モニタリング・マニュアルはあるがSPEEDI運用マニュアルはわからない。
E氏:運用マニュアルの存在はわからない。

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この回答を見ると、当時はSPEEDIの専用端末が無かったうえ、SPEEDIの情報を県から市町村へ提供する運用が担当者のマニュアルに無かったことも伺える。
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【メール操作に関する事実関係の確認事項】(回答はA~C氏のみ)

1.なぜ電子メールの受信等を担当するようになったのか。
A氏:各職員のメール容量の関係で、長期間データを保存できる状況でもなかった。
原子力班の中でSPEEDIが話題になっており、たまたまそばにいた時分がNUST   EC(原子力安全技術センター)に連絡して総括班のPCを使ってメールを受信すること になった。
最初に受信してから、近くにいた原子力班の○○に印刷したデータを渡した。メール担当も引き継いだので、その後は関知していない。

B氏:災害対策本部に本来は原子力班は存在せず、今回は急きょ組み込まれた。
SPEEDI自体の操作担当は自分。
メールについて、どう引き継いだかわからない。
最初に総括班の○○からメールが届いたと声をかけられ、その後自分のメルアドにメールが来るようになった。
C氏:3月15日頃からだったと思うが、自分個人充てにSPEEDI情報のメールが届くようになった。自分で送信依頼したのかどうかはわからない。

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A氏が最初のメールを受け、それをB氏に引き継いだ。しかし、A氏もB氏も事故後の混乱の中で行い、それが正式なもの、重要なものという認識では無かったようだ。
C氏はそのメールを個人のアドレス宛に送信依頼していたのか。
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3.電子メールの受信、転送、削除はどのように行ったか。

A氏:最初に受信したのみ。削除、転送はしていない。
B氏:メールを受けてはいたが詳細は覚えていない。
当初は、災害対策本部メルアドに届いたものの転送、その後は、原子力安全対策本部と自分のアドレスに直接受信ということであるが、そういう認識は無かった。さらに、他に転送したものもあるかもしれない。
C氏:メールボックスの容量の関係で保存せずに削除した。

中身を見ないで削除したものもあったと思う。当時はPCもプリンタも不足していた。

5.削除は自分の判断か、上司の指示か。

A氏:回答無し。

B氏:メール容量の割り当てが少ないことから自らの判断で削除した。
最初の受信後、○○に報告した際、単位放出量のデータは使えないと言っていた。

C氏:個人アドレスで受信したメールなので、自己判断で削除した。

7.なぜメールを削除したのか。
A氏:(当時、誰かが一度にまとめてメールを削除したとは聞いていない。
そもそも何日分もメールを保存しておける状況ではなかったと思う。)
B氏:使えないデータであり、古いデータは後から依頼すれば再送してもらえると思った。

C氏:削除しても他の班員にも届いているとの甘えがあったと思う。

11.電子メールの受信の担当者という認識はあったか。
A氏:回答無し

B氏:担当の一人という認識はあったが、他の担当者が誰だったかはわからない。

C氏:回答無し

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その後の質疑を見ても、SPEEDIのデータをメール受信していることを報告せず、単位放出量のみで使えない、という認識で重要視していなかったことが伺える。

A~G氏(おそらく福島県庁の職員、A~C氏は災害対策本部所属か)とは別の、後半のH、I、J氏(おそらく福島県原子力センター所属)のヒアリングを見ると、SPEEDIのデータはモニタリングに活用するため、3月11日21時頃にリクエストし、同日23時48分に受信した1回のみ、という認識になっている。

膨大な資料の中から探したが恐らくこのやりとりであろう。

J氏がH氏に指示し、H氏が3月11日21時50分にメールを出してSPEEDIのデータを依頼したということだろうか。

他にも気になるメールを発見した。SPEEDIの図形データが先方のメールボックスが一杯で送信できなかったので、その旨伝えてほしい、という内容である。B氏C氏の、「メールボックスの容量の関係で削除した」という発言を裏付けるものである。

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ちなみにこの資料は下記のメールで始まる。水野氏が原子力安全センターと2012年3月28日から4月17日までやりとりをし、様々な情報を入手し、それを参考にしながら、取りまとめた調査が冒頭に紹介した「SPEEDI予測結果の取り扱いにかかる関係者ヒアリング結果総括表」なのである。(つまり、水野氏が原子力安全センターに事故当時、誰にどんなデータを送信したのかを洗い出し、そして調査したヒアリング結果が冒頭の総括表なのである。)

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差出人:水野哲

送信日時:2012年3月28日水曜日13:57

件名:福島県SPEEDI計算結果メール配信に関する調査依頼

 

原子力安全センター

○○課長様

福島県災害対策本部原子力班 水野です。

お世話になっております。

午前中に、小山からご連絡させていただきました。

SPEEDI計算結果のメール送信に関する調査依頼の件で調べていただきたいことがあります。

3月11日以降、福島県のいくつかのメールアドレス宛に、SPEEDIの計算結果を送っていただいております。

3月12日(1回)および13日~16日の朝8時までの送付分に関して、可能であれば、次の項目を調べて下さいますようお願いいたします。

(1)   送付先アドレス

(2)   送付日時

(3)   メールの件名

(4)   送付の際に添付した図形の種類(SPEEDI端末における配信名)とファイルの容量(※複数ある場合、すべて。)

3月14日10時以降はメールの件名から何時の配信図形か判断できるのですが、それ以前はメールの件名がすべて「SPEEDI単位量放出図形イメージの送付」となっているため、区別がつかない状態です。

また、初めの頃はおそらく、5枚の添付ファイル

・風向風速 ・空間線量率(1時間後・2時間後)・ヨウ素(1時間後・2時間後)を送っていただいており、途中から7枚(空間線量率とヨウ素3時間後が追加)になったと担当が記憶しているのですが、どの段階でふえたのかの記録が残っていません。

また、現在SPEEDI端末に配信していただいている図形(リストア領域)が当時全てメールで送付されていたのかどうか、15日23時前後に配信されている件名「SPEEDI仮想事故放出量24h」というメールにはどのようなファイルが添付されていたのか、などを確認したいと考えております。

お手数掛けますが、よろしくお願いいたします。

 

福島県災害対策本部原子力班総合調整チーム

生活環境部原子力安全対策課

水野哲

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SPEEDIがなぜ活用されなかったのか。事故後の混乱期における情報伝達、情報共有のミス、専用端末が無かったこと、PCなどの機器不足など様々な原因が浮かび上がる。

が、これらは全て、人為的なことであり、全て、防げたことである。もちろん、担当職員の責任もあるが、彼らだけではなく、原発事故が発生しない、シビアアクシデントは起こらない、と考え、徹底した運用マニュアル、事故想定マニュアルを作成しなかった全ての原子力業界関係者の責任でもある。

緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム、SPEEDIが活用されなかったため、避難するときに、より放射線量が高い地域に避難してしまったり、避難指示が出るのが遅れたりしたことは周知である。
そして、原子力安全委員会被ばく医療分科会の安定ヨウ素剤(放射性ヨウ素をブロックする)に関する議論では、こんなことが話し合われていた。福島原発事故前までは、「SPEEDIによる予測ができるため、1歳児の甲状腺の予測等価線量100mSVの地域で安定ヨウ素剤を投与する」という基準になっていたが、SPEEDIが全く活用されなかったため、本来安定ヨウ素剤を投与すべき地域で投与できなかった、というのだ。

原子力発電所の再稼働問題で各地が揺れているが、福島第一原発の事故の際、何が起こったか、どうすべきだったか、の検証を十分済ませてからでなければ、同じ過ちを繰り返すように思える。