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福建取材:尖閣領有で既成事実化(?)進める中国(相馬 勝)

(コロンス島の洋館のひとつ=筆者撮影)

最近、福建省に行ってきた。講演とか、雑誌の取材を兼ねてで、福建省の廈門には成田から全日空便が1日に1往復運行しているで行きやすい。アモイは次期最高指導者の習近平国家副主席が1985年から3年間、副市長を務めたところ。また、福建省はその32歳から17年間、彼が過ごしたところでもあり、かなりゆかりの深い土地だ。特に、習近平にとっては、アモイの場合、長期間、南方での生活するのは初めての場所ということで、彼の人となりを知るには行っておいた方が良いと思って今回取材に行ってきた。

今回、私も初めて行ったのだが、アモイはかなり開放的で、さらにアモイ島から500㍍離れたコロンス島は1902年から欧米列強の共同租界が出来まして、欧米列強や日本など約20カ国が総領事館を創設したり、台湾の富豪が贅の限り尽くして豪邸を建てて生活するという、そのような豪華で美しい洋館が狭いところに固まって集まっている。ちょっとした欧州の街角に迷い込んだようなロマンティックな風情が漂っていた。

同上)

習近平は、北京生まれで、文革時代の下放されたところもシルクロードの起点の陝西省という砂漠地帯だったので、このような亜熱帯の湿気が多い、さらに開放的な場所は初めてで、まだ若い習近平さんにとって、生活を楽しめたのではないかと想像した。

そこで私は習近平をよく知る人物に会ってきた。福建省は習近平さんが17年間も生活していた場所なので、習近平と親しい知人や頼りにしている人物が結構いる。「習近平は焦っている。何とか挽回したい。そうでないと、総書記に就任しても何もできない」と焦っていたという。

この取材結果については、最新号のSAPIO(27日水曜日発売)を読んでいただければ幸いだ。「習近平の権力闘争」というテーマだ。

ところで、福建省は台湾にも近く、尖閣にも近いので、尖閣の前線基地となる。ちょうど泊まっていた外資系のホテルが海側にあったのだが、その通りをはさんで、はす向かいの丘に、大きな海軍基地がどーんと控えてた。敷地内には海軍病院や専用のホテルもあり、海軍のための保養施設を兼ねているようだ。当然、海岸線には海軍の艦船が停泊する基地もあるのだが、それは見えないようにカモフラージュされていた。

(同上)

このブログで以前書いたが、台湾の聯合晩報(夕刊=5月26日付)は中国軍が戦闘機で尖閣諸島まで12分で到達できる福建省沿海部に軍用基地をほぼ完成させたと報じている。新型戦闘機「殲10(J-10)」や「Su-30(スホーイ30)」、無人攻撃機、S-300長距離地対空ミサイルなどが配備されたもようで、台湾軍関係者は尖閣問題など「東シナ海有事」に備えた最前線基地と語っているという。この軍事基地については、グーグル・アースの衛星写真で、2009年に最初に空港建設が確認されているので、結構信憑性が高いのではないかと思われる。

実際、福建省の気象台が6月から尖閣諸島(中国名・釣魚島)周辺海域の天気予報を始めており、天気のほか、風向きや風力、波の高さなどの1週間予報を毎日18回ラヂオで放送されている。また省政府のホームページ、あるいは一部の新聞にも掲載されていて、まさに尖閣諸島は「中国領」というような既成事実作りを始めていたところだった。

(南シナ海を臨む=同)

この理由として、中国には「実効支配が50年続くと国際法の判例で尖閣が日本の領土として定着しかねない」との強い危機感があるようだ。1972年5月の沖縄復帰により、尖閣諸島が米国から返還されて50年後は2022年5月となるため「2022年問題」というわけだ。

ところで、アモイでは、丹羽宇一郎駐中国大使と遭遇した。ちゅうど、私がアモイに行ってきた当日、大使もアモイで市長と会って経済関係の話をしたり、アモイ大学で学生と懇談をしていた。ところが、ちょっと妙なのは、アモイのトップである于偉国さんという党委員会書記とは会っていない。普通、アモイくらいの市ならば、市長よりも市トップの党の書記に会ってしかるべきだ。日中関係が微妙な時期なので、市トップが会うのを避けたということも考えられる。

だからといって、今後、日中関係が波乱含みかどうかは断定できないが、ただ、習近平さんのバックには対日強硬派で知られる江沢民前主席がついている。また、歴史的にも、1987年に失脚した胡耀邦元総書記の罪状のなかに「対日追従外交」というものがあったように、内政が荒れると、日中関係も荒れ、反日デモが起こったりする。

その一つの徴候が、尖閣問題について、中国が「核心的利益」という言葉を持ち出したことでもあり、日中国交樹立40周年なのに、中国側の要人がまったく日本に来ない、あるいは来日をキャンセルするという異常な事態が続いていることだ。今後の日中関係がどういう展開をたどるのか、予想するのは難しいが、最悪の事態に対処する必要がある。