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【NLコラム】新聞はベタ記事が面白い!(高野孟)

早稲田大学ジャーナリズム大学院で「新聞の読み方」という講座を持っている。今どきの若者は、ジャーナリズム専攻生ですら自宅で新聞を取っていないという者がいるほどで、それでは情報を取り扱う最低限の基礎訓練さえ欠いたまま世の中に出ていくことになってしまう。

新聞を隈なく読んで、人が気が付かないで見過ごすかもしれない小さなベタ記事に目配りしたり、見出しや記事の書き方に滲む書き手の微妙な感情や細かいニュアンスを行間から嗅ぎ取ったり、何げないコラムからその主題とは関係なしに面白い言葉遣いやキーワードを拾ったりしながら、「お!」とか「ん?」とかをたくさん溜め込んで自分自身の情報感度を鍛え、問題意識の糸口を不断に増やしていく「情報術」は、記者や編集者になるならもちろん、ビジネスマン、経営者、政治家、地域リーダー、教師、NPO組織者等々、およそ人を率いて何事かをなしとげようとする人にとっても、絶対に必要な一般教養であるはずである。それには、ネットでニュースをパラパラ見ているだけではダメで、紙の新聞を読み込む習慣を身につけなければならない。

私の授業ではまず、「複数紙を比べて読む」「疑いながら読む」「下から読む」という読み方の基本を練習する。複数紙を読むのは当たり前で、例えば原発再稼働の問題では読売と東京の論調も紙面作りも正反対だから、そのどちらかしか読んでいないのではジャーナリストの仕事は成り立たない。「疑う」のも当然で、「だって新聞に書いてあったから本当だよ」と言ってしまうような小児的ナイーブさは捨てなければいけない。「下から」というのは、各紙が読者のために親切ごかして記事の軽重を判断して作ってくれる紙面秩序などありがた迷惑なので、その秩序を解体しながら自分の問題意識と直感力に従って必要な情報を引っかけるためである。日本の新聞は、記者クラブ発表に頼った横並び報道が多く、紙面の下の方に行くほどバラエティが増して「お!」という情報がさりげなく出ていたりする。だからベタ記事が面白いのである。

旧友の上杉隆君がこういう新しいメディアを始めたので、この場を借りて、そのベタ記事の読み方の練習をやっていきたいと思う。私は房総半島の山中に住んで、朝毎読みなどは都内最終版より早い13版あたりを読むことになるので、その点はご容赦頂きたい。また読者の皆さんも「うちのほうの地方紙にこんなベタ記事があったぞ」といったことをお知らせ頂ければありがたく思う。

なお、私自身のジャーナリストとしての発信の主な舞台は、現在は「まぐまぐ!」内の「高野孟のTHE JOURNAL」となっている。私が37年間書き綴ってきたニュースレター「インサイダー」をはじめとしたいくつかのコンテンツをパッケージにして、毎週月曜日に有料配信しているので、ご関心ある方は是非ご購読下さい。購読窓口はこちら→http://bit.ly/vmdxub