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中国軍の制服組トップ、「戦争を準備せよ」と檄 (相馬 勝)

 

中国軍の制服組トップ、「戦争を準備せよ」と檄、尖閣、南シナ海の領土・領海問題で

 

5月29日付のNews-logのブログで、台湾の聯合晩報(夕刊=5月26日付)が「中国軍が戦闘機で尖閣諸島まで12分で到達できる福建省沿海部に軍用基地をほぼ完成させた」と報じた、と書いた。新型戦闘機「殲10(J-10)」や「Su-30(スホーイ30)」、無人攻撃機、S-300長距離地対空ミサイルなどが配備されたもようで、台湾軍関係者は尖閣問題など「東シナ海有事」に備えた最前線基地と語っているというものだ。

中国のメディアが最近、この情報を裏付けるようなニュースを報道している。中国国営新華社電(6月8日)や党機関紙「人民日報」(6月11日付)によると、中国軍の制服組トップ、郭伯雄・中央軍事委員会副主席がこのほど、中国海軍の調査研究会という会合で、「国家主権や領土・領海を守るために、軍事闘争の準備を深め、戦争を準備せよ」などと檄を飛ばしたというのだ。

具体的には、南シナ海域でスカロボー群島をめぐって係争中のフィリピンや南シナ海に駐留する予定の米海兵隊、あるいは尖閣諸島周辺で活動している「日本の右翼」を指している。とりわけ、尖閣諸島について、郭伯雄副主席は「戦争の準備をして、日本の右翼の目を覚まさせて、石などを(尖閣に)運搬させることないようにしなければならない。釣魚島(尖閣諸島の日本名)は中国の核心的利益であり、中国の官兵は日本人の好きなようにさせてはならない」などと激烈な表現で、戦争準備の必要性を強調している。

アモイ市内を望見する=筆者撮影)

さらに、郭伯雄副主席はアメリカ軍は将来的に60%の艦船をアジア太平洋地域に派遣することになろうと予測し、〝米中決戦〟の可能性にも言及しているほどだ。

また、私の知り合いの香港の中国専門家によると、中国の外交政策を決定する最高機関「中国共産党外事工作指導小組(グループ)」が4月中旬、北京で開かれ、同小組の正規メンバーではない中央軍事委員会副主席を兼務する習近平・国家副主席ら3人の軍事委副主席が出席し、尖閣諸島(中国名・釣魚台)問題や南沙、西沙問題など、東シナ海や南シナ海の領土・領海問題で、「軍事的手段も辞さず」との強硬意見が出された。特に、南シナ海の南沙諸島問題などでは、米軍がオーストラリアに駐留し、領土問題に介入する姿勢を示しているので、中国軍は米政府に極めて強い警戒心を抱いているようだ。習近平氏ら軍首脳も対米、対日問題でかなり警戒しているのではないかと思われる。

さらに、会議で軍事委副主席メンバーは異口同音に、石原慎太郎・東京都知事が打ち出した尖閣諸島(中国名・釣魚台)の買収計画や、オバマ政権が南シナ海の係争地帯付近の島に海兵隊を駐留させる計画に強く反発。「計画が実現のものとなれば、解放軍は軍艦を派遣し、それらの島々を実効支配すべきだ」と語り、軍事的対抗策をとる必要性を強調。さらに、会議では相手国に「中国領」であることを認めさせるためには、周辺海域に軍艦や漁業監視船、資源探査船などの艦船を頻繁に派遣し、相手国を絶えず威嚇することも決定したという。

つまり、「いざとなれば、相手国に軍事的教訓を与える」という軍事的行動も辞さないという強硬な態度を見せたのだ。

福建省廈門市の海、対岸は中国大陸=筆者撮影)

筆者は先週月曜日から3日間、尖閣にも近い福建省廈門や福州に行ってきたのだが、福建省の気象台が6月から尖閣諸島(中国名・釣魚島)周辺海域の天気予報を始めてい。天気のほか、風向きや風力、波の高さなどの1週間予報を毎日18回ラヂオで放送されていた。また省政府のホームページ、あるいは一部の新聞にも掲載されていて、まさに尖閣諸島は「中国領」というような既成事実作りを始めていた。

この背景には、中国には「実効支配が50年続くと国際法の判例で尖閣が日本の領土として定着しかねない」との強い危機感があるという。1972年5月の沖縄復帰により、尖閣諸島が米国から返還されて50年後は2022年5月となるため「2022年問題」というわけで、紋切り型の常套句で恐縮だが、中国軍の動きに目が離せないし、警戒を強める必要がある。