国連のムチとアメ (辺 真一)
月曜、火曜と九州で講演があった。西日本新聞社主催で一昨日は大牟田、昨日は小倉で行われ、テーマはいずれも「金正恩体制と日朝関係」だった。
「北朝鮮がこのまま核実験を思いとどまるならば」との「仮定」を前提に話を展開したが、米国務省は昨日、「核実験を計画したことはない」との9日の北朝鮮の外務省の声明について「良いことだが、行動で評価する」と述べ、今後も自制するよう求めていた。
「行動で評価する」と言ったのは、北朝鮮が「長距離ミサイルを発射しない」との2月29日の北京での米朝合意を反故にした「前科」のせいだが、ノーランド国務省スポークスマンは「北朝鮮は(ミサイル発射強行で)約束を黙殺したが、核心的なことは北朝鮮が国際義務を順守しなければならないとの我々の期待は変わってないということだ」と、北朝鮮の対応次第では、米朝合意に基づく人道支援再開の余地を残した。
その一方で、国連安保理は昨日、北朝鮮制裁を徹底させる専門家会議の任務をさらに1年延長することを米国主導で満場一致で採択した。これにより、2009年6月の安保理決議「1874号」に基づき設置された専門家会議は来年の7月12日まで活動を続けることになる。
北朝鮮外務省は先月22日、「我々の努力を顧みず、米国が引き続き制裁圧迫行動に走るのならば、われわれも自衛的な対応措置を取らざるを得ない」と脅していたが、昨日公表された国連の「北朝鮮人権状況最新報告書」で「子供の3分の1が、発育が遅れている。平壌は相対的にましだが、その他の地域の状況は悲惨だ。全人口の3分の2にあたる1,600万人が月に2度しかない配給だけで暮らしている」と指摘されている惨状下で果たして「自衛的な対応措置」が取れるのだろうか?
国連は制裁を強化する一方で、国連加盟国に対して北朝鮮の食糧支援のため1億9千800万ドルの寄付を要請している。ムチとアメの駆使とはこのことだ。ちなみに米国が北朝鮮に約束していた24万トンの栄養食品支援はほぼこの額に匹敵する。
極度の食糧難に加えて長期間にわたる干ばつに見舞われている北朝鮮が核実験を断念し、IAEA(国際原子力機構)職員の復帰などの措置を進んで取れば、米国の食糧支援が復活し、6か国協議の再開にも繋がるのだが、「栄養食品」の見返りだけでミサイルも核もギブアップするとはとても考えられない。北朝鮮はどう出るのだろうか?