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【NLオリジナル】尖閣諸島問題で日中が武力衝突に至る可能性……(富坂聡)

日中関係の問題は海にある――。

この疑いようのない事実が両国の未来に深く暗い影を落としている。暗い影などといってもピンとこないかもしれないのでもっとはっきり言おう。それは「両国が将来、武力衝突にも至る緊張を高める可能性が出てきた」ということだ。

こう言えば「何を大袈裟な」、「いまの時代に戦争が起きるはずはない」という嘲りの声が聞こえてきそうだが、これは本当にそれほど楽観して良い問題なのだろうか。

私が強調しておきたいのは「平和ボケの日本に警鐘を鳴らす」といったことではないということだ。むしろ逆で、何を根拠に人間がそういう選択を絶対にしないと言い切れるのかという視点からの警鐘なのだ。

そもそも日本の政治は、外交の暴走を止めるブレーキを失いつつあるのだが、そのことに気付いている国民がいったいどれほどいるというのだろうか?

選挙に落ちることばかり心配する政界の虚弱体質は深刻だ。これは政治家が大局を見て正義を貫くことのできる環境ではない。事実、現状は人気取りのため後先も考えず強硬論を振り回す者ばかりで、強硬論の果ての解決策もない政治家が目立っている。ただでさえ無難な選択として〝弱腰〟と見られないために強気な顔を見せようとする体質が政界を覆っているのだから、「ブレーキを失いつつある」という指摘も間違いではないだろう。

日中戦争に突き進むきっかけとなった広田(弘毅)外交の挫折も、近衛内閣の「国民党を対手とせず」の演説も、すべていまのような国内世論の高まりに阿った末の選択ではなかったか。

こうして世論が強まる中で尖閣諸島が、日中の最前線に置かれていることの危うさを、両国民はもう少し冷静に、そして真剣に考えなければならないはずだ。

残念なことに中国では、尖閣諸島の問題を、「かつての不名誉な歴史のなかで奪い取られた屈辱を回復する象徴」と位置付けられているのだ。この捉え方が事実か否かは別としてそう信じている現状は日本も抑えておかなければならない。

加えて重要なことは、地域紛争程度のことは一起きても不思議ではないという心構えを持っておくことだ。そうしないと、いざという時に狼狽し過ぎ、本格的にブレーキの効かない状況に陥ってしまいかねないからだ。つまり、最大限の危機を想定し、その火種を最小限にとどめるという意識を国民レベルでも考え置く必要があるということが、この尖閣諸島の問題では重要だということだ。