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6年前にもあった中国大使館幹部の出頭拒否、帰国事件(相馬勝)

中国大使館の一等書記官が外国人登録法に違反した容疑で警視庁に出頭を求められたが、帰国してしまったという事件は中国による典型的な対日スパイ事件とみよいいだろう。1993年からこれまで19年の間に、肩書きを変えて5回も入国していたというのは、中国の日本専門のスパイとみて間違いない。

これまでの報道を見ると、奇妙なのは日本企業に対中進出や投資を呼びかけて、自分の銀行口座にお金を振り込ませるなど、金儲けが目的なのかと思わせる点だが、スクープした読売新聞によると、中国の場合、工作費が1人1万円という制限があり、自分で工作費を捻出しなければならないということらしいので、プールしたお金は工作費に使っていたらしい。ちょっと、哀れを誘うような話だ。

とはいえ、農林水産省の副大臣室に出入りしていたということなので、民主党政権には食い込んでいたことは確かだろう。この一等書記官は、北京の施設で3000品目以上の日本産農産物やサプリメントを常時展示して販売するプロジェクトを推進し、対中輸出を拡大して2016年には年間5000億円の輸出額達成を目標にしていたというのだが、これだけならばスパイというには、ちょっと弱い。実は、このプロジェクト推進を大義名分にして、民主党や政権などとの接触を密にして、機密事項を探っていたと考えるのが自然だ。

どのような情報が漏れていたのかは、今後の捜査に任せるしかないのだが、当事者が帰国してしまったことから、真相は藪のなかになる可能性が強いのではないか。

この事件を聞いて、「そういえば、5,6年前に同じようなことがなかったっけ」と思い出して、調べてみた。そうしたら、今回と同じような事件が6年前の2006年4月にも起こっている。小学館発行の「蠢く!中国『対日特務工作』丸秘ファイル」という本に詳しい。
それによると、疑惑の人物も今回同様、商務担当で、職位は参事官と今回より上だ。

この参事官は日本での就労資格を満たしていない中国人の書類を偽造して不法就労させていた在日中国人を側面援助し、実質的に不法に得た金をピンハネして、秘密工作に使っていたというのだ。

やはり、今回と同じく、警視庁公安部がこの参事官を事情聴取しようと、06年4月、参考人として2人の大使館幹部に出頭要請したところ、出頭を拒否し、間もなく2人とも帰国してしまったというのだ。同書では捜査幹部の憤りが書かれている。引用してみる。

「ある捜査幹部は『通常の場合、正式な出頭要請が出る前に本国に帰してしまうのに、かれらはのうのうと日本に居座り続けている。日本も舐められたものだ』と怒りを露わにしている」

「日本が舐められている」のは、6年前のいまも同じというわけで、今回の事件も6年前の事件と酷似している。実質的に、どのような情報を得ていたのか分からない点も同じ。公安幹部はつかんでいるのかも知れないが、ことの性格上、公表はしないだろう。

それにしても驚いたのは、民主党の前原誠司幹事長が日本での中国の情報収集活動について「私が外相の時に、人民解放軍出身の中国大使館にいる人がコンタクトを図っているという情報は(首相)官邸を通じて得ていた」と述べたことだ。

前原氏が外相に就任したのは2010年9月で、いまから2年ほど前だけに、この間、一等書記官は公然とスパイ活動を続けていたわけだ。

日本が「スパイ天国」と言われて久しいが、このような実態を知ると、まさに唖然としてしまうのは私だけではあるまい。「スパイを取り締まる法律がない」とも言われるのだが、これまで、中国ばかりでなく、旧ソ連のスパイ事件も多く報じられており、あまりに対応が遅いと言わざるを得ない。

さきに引用した同書によると、1992年10月の天皇陛下の訪中も、中国側による対日工作で実現したというのだが、もはや中国の対日工作要員は日本の政界や財界など中枢部に浸透しているのではないか。今回の事件は氷山の一角であり、いまも多数の工作員が地下で蠢いていると思うと、本当に気味が悪い。特に、いまは尖閣問題などで日中関係が揺れている時期だけに、中国側の動きは極めて不気味だ。