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福建省沿岸部に軍用基地 尖閣まで戦闘機で12分(相馬勝)

 中国共産党・政府・軍要人の日本訪問のドタキャンが相次いでいる。今月24日から来日予定だった中国人民解放軍の制服組トップ、郭伯雄・中央軍事委員会副主席の来日がキャンセルされたことが22日に分かっている。これは藤村修官房長官が発表した。

 郭氏以外にも、次期中国首相と目される李克強・筆頭副首相(党政治局常務委員)も4月上旬に来日して、日中国交正常化40周年の記念行事に参加する予定だったが取りやめた。代わりに来日すると伝えられた劉延東・国務委員(副首相級)のほか、日中両国の「ハイレベル経済対話」開催のため、4月上旬に来日することで調整が進んでいた王岐山・副首相も来日を中止してしまった。結局、日中のオープニングセレモニーに出席したのは蔡武文科相だけだった。

 さらに、共同電によると、胡徳平・人民政治協商会議(政協)委員氏が28日からの訪日予定をやはり急に取りやめた。胡氏は日中国交正常化40周年に合わせ、両国の友好秘話を紹介するドキュメンタリー番組「暖流」のプロモーション活動で約1週間、訪日する計画だったが、「胡氏は『中国政府の出国許可が下りない』と説明している」と共同電は伝えている。

 胡徳平氏はそれほど有名ではないが、彼の父親は中国の改革派指導者だった胡耀邦元総書記(故人)であることが知られている。

 胡耀邦氏といえば、1986年末から87年初めにかけて中国全土で吹き荒れた学生の民主化運動の対応を誤ったなどで党総書記を解任された。そのときの胡耀邦氏の「罪状」の一つに、「対日従属外交」が挙げられた。両国の学生の交流を盛んにしようとして、日本から3000人の青年の訪中を推進したことなどが非難され、解任の理由のひとつにされたのだ。

 今回の場合も、中国の指導部の間に「あまり日本と仲良くすると、あとから罪状の一つに挙げられて、批判されて、失脚しかねない」という危機感があり、次々とドタキャンが相次いでいるのではないか。

 特に、現在の中国は最高指導部入りが確実とみられていた薄熙来・重慶市党委書記が突然失脚して、政治的混乱に陥っているときであり、さらに今年秋には最高指導部がほぼ入れ替わる第18回党大会が開催されるなど、党内の権力闘争の真っ最中だからである。下手に対日関係に口を突っ込めば、反日の急先鋒と言われる江沢民・前主席らが黙っていないことが予想されるからだ。

 とくに、日中両国は今年初めから尖閣問題で揺れ続けている。日本の外務省が尖閣諸島周辺の無人島に名前をつけようとしたことが、中国側に逆鱗に触れたらしく、中国の最高指導者、胡錦濤・国家主席が2月中旬、訪中した日中友好7団体代表団との会見をドタキャンした。思えば、これが〝対日ドタキャン〟の始まりだった。

 それ以前の1月中旬、共産党機関紙「人民日報」が「釣魚島(尖閣諸島の中国側の呼び名)周辺の島に名前をつける企ては、中国の核心的な利益を公然と損なうことだ」として、尖閣諸島を「核心的利益」と位置づけて批判した。これ以前には、中国政府が尖閣諸島について公式に「核心的利益」と表明したことは初めてだけに、政府系メディアとしても異例の表現。

 そもそも「核心的利益」とは中国共産党・政府にとって、妥協する余地のない国益を指し、防衛するために武力行使を含むあらゆる手段を排除しない重要事項。現実的には台湾やチベット、ウイグル問題など妥協できない領土問題だが、その範囲は広い。手元にある日本経済新聞(3月11日付)から引用すると、「2011年公表の白書『中国の平和的発展』では、核心的利益を『①国の主権と安全、領土保全と国家統一②憲法に定めた政治制度、社会大局の安定③経済社会の持続可能な発展の基本的保障』を含むと表現した」とある。

 だが、その日経新聞(同日付)は北京発で、中国海軍で戦略策定に携わる尹卓少将とのインタビュー記事を掲載している。だが、尹氏は「中国が領有権を主張する尖閣諸島などについて、「台湾問題とは異なり、中国が『核心的利益だ』と表現したことはない」と否定しているから妙だ。

 尖閣が中国にとって核心的利益ならば、海軍の少将が知らないはずはない。ということは、党や軍の最高指導部が尖閣諸島の定義を変えて、「核心的利益」と定めてしまったということしか考えられない。

 中国最高指導部の一人として最初に尖閣問題と関連づけて「核心的利益」と発言したのは次期最高指導者と目される習近平副主席だった。

 習氏は4月24日、北京の人民大会堂で、日本国際貿易促進協会の訪中団(団長=河野洋平前衆院議長)と会談し、日中関係について、「中日両国は相手の核心的な問題、重要な問題を適切に処理し、双方が努力していくべきだ。制御できないようになってはならない」と述べた。だが、不思議なことに、習氏はこの「核心的な問題」と「重要な問題」が何を指すのか明らかにしなかった。

実は、当時、東京都の石原慎太郎知事が沖縄県石垣市の尖閣諸島の購入を表明した直後だったことから、「尖閣問題ではないか」と日本側、とりわけ日本のマスコミが類推したのだ。

その後、温家宝首相も今月13日、北京で野田首相と会談した際、核心的利益発言を繰り返した。新華社電は温家宝首相の発言について、「温家宝首相は新疆に関わる問題、釣魚島の問題などにおける中国側の原則的立場を重ねて表明し、日本側が中日の四つの政治的文書の原則的精神に基づき、中国側の核心的利益と重大な懸念を適切に尊重し、関係問題を慎重かつ適切に処理し、両国関係の正しい方向を堅持するよう促した」と報じた。

ただ、温首相は新疆(ウイグル)の問題と尖閣問題に言及しているが、この文脈からみると、「中国側の核心的利益と重大な懸念」が並列的に記されており、「新疆に関わる問題」と「釣魚島の問題」のどちらが核心的利益なのかは判然とはしない。意図的にぼかしているようにみえる。習氏もそうだが、温首相も、わざとどちらが核心的利益に関わる問題なのかをぼかして語っているのではないかと邪推したくもなる。はっきりといえば、二人とも尖閣を「核心的利益」として日本側の危機感を煽っているような趣きさえある。

このようななか、台湾の聯合晩報(夕刊)は26日、中国軍が戦闘機で尖閣諸島まで12分で到達できる福建省沿海部に軍用基地をほぼ完成させたと報じている。新型戦闘機「殲10(J-10)」や「Su-30(スホーイ30)」、無人攻撃機、S-300長距離地対空ミサイルなどが配備されたもようで、台湾軍関係者は尖閣問題など「東シナ海有事」に備えた最前線基地と語っているという。

このところ、中国の海洋監視船などが尖閣付近の日本領海に侵入する事件が繰り返されており、中国人民解放軍が来るべき有事への準備を進めているともみることもできる。尖閣問題については今後も中国政府・党指導者の言動や軍の動きに注意が必要だ。