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山下俊一福島県医科大学副学長からの回答に対する再質問!(日隅一雄)

年間100mSv以下の被曝が健康にどのような影響を与えると考えるか、その根拠は何なのか、被爆を避ける必要はないのか、という点に関する質問に対し、山下副学長から回答(※1)があったことをお伝えしました。それに対する再質問を応募しました(※2)。その結果を踏まえ、本日、下記のような再質問状を発送しました。

※1 http://yamebun.weblogs.jp/my-blog/2012/05/低線量被曝に関する山下俊一福島県医科大学副学長からの回答に対する再質問を発送.html

※2 http://yamebun.weblogs.jp/my-blog/2012/05/低線量被爆に関する山下俊一福島県医科大学副学長からの回答を踏まえた再質問の骨子につ.html

 

●●公開質問状●●

公開質問状(第2回)

2012年5月15日

〒960-1295

福島県福島市光が丘1番地

福島県立医科大学副学長山下俊一 殿

 

東京共同法律事務所

弁護士・NPJ編集長 日隅一雄

 

冠省 4月13日付け公開質問状に対し、同月25日付けの回答をいただきました。ありがとうございます。

しかし、貴職の回答に対し、ブログを読んだ市民からの質問を受けているうえ、当職も、いくつか、伺いたいことがあります。

そこで、次のとおり、質問をしますので、再度ご回答をお願いします。

 

まず、100mSv以下の被曝の影響についてです。

この点、貴職の説明は、疫学的な手法に基づいて閾値がないと説明している説に対するものについてなされているものがほとんどのように思います。しかし、ICRPは、Publication99(日本アイソトープ協会発行)の「7.結論」において、そもそも、疫学的手法については、統計的及びベースラインシルクにおけるその他の変動の影響があるため、一定の結論を導くことは、「期待もされない」と明言しています。したがって、それ以外の手法、すなわち、

① 実験発がん研究(パラグラフ259、260)の結論(「全体として、実験発がん研究からの関連する動物腫瘍データは、低線量では、しきいのない直線性の線量反応関係を支持する傾向にある」)(「いろいろなタイプの腫瘍に対する総合的な線量反応関係を表すとされる放射線関連寿命短縮についての実験研究では、幅広い線領域で直線的な線量反応が示唆されている」)、

② 癌発生のメカニズムからのアプローチ(パラグラフ261~263)の結論(「この考え方でいくと、それより下の線量であれば全ての放射線誘発損傷が忠実に修復されるという線量の存在を強く支持する事実はない」)(「このことは更に、放射線誘発効果においてあるかもしれないしきいの存在に反対するものである」)、(「線量と、時間-線量関係にかかわるメカニズムの現在の理解と量的データとは、低線量における直線的線量反応と矛盾しない。そして、それ以下では影響がないと思われるしきい線量を強く支持する事実もない」)、

③ そのほかの新しいデータ(パラグラフ264)に関する現時点での考え方(「これらの現象を、低レベル放射線へのヒト被ばく集団における潜在的リスクの推定に含まれるべき要因として評価する前に、これらの現象のメカニズムのよりよい理解、それがどの程度体内で働いているか、互いにどういう関係にあるかを知ることが必要である」)、

④ 確率限界からのアプローチ(パラグラフ265)に関する考え方(直接しきい値の存否とは関連しない)

による現時点での結論が重要となる。そして、その結論は上記の通り、閾値の存在を否定する方向となっています。貴職は、これらの点について、それぞれの結論が間違っているとお考えなのでしょうか。それともそれらは正しいとお考えでしょうか。もし、後者であれば、「科学的にも、現時点の知見では、閾値がない可能性が大きいと考えるべきである」という結論になるように思われますが、それは違いますか。違うとすればその根拠は何でしょうか。これが第1の質問です。

 

次に、貴職は、ICRPが、閾値なしと考えるのはあくまでも、防護の観点に基づくと説明されています。しかし、ICRPは、Publication103(日本アイソトープ協会発行)の「A.7.主な結論と提案の要約」の章に記載された「表A.7.1.放射線防護の目的を特に対象とした主な結論と提案の要約」の「がん及び遺伝性影響に対する低線量・低線量率での線量反応」という項目において、「不確実性は相当あるが、証拠のバランスは線量とリスクの増加の間に、単純な比例関係を用いることを支持する方向に傾いている」と明確に結論づけています。この結論は、「証拠のバランス」と書いているように、科学的知見による結論を書いたものと言わざるを得ません。このことは、上記Publication103の「3.2.確率的影響の誘発」という項目で、「がんの場合、約100mSv以下の線量において不確実性が存在するにしても、疫学的影響及び実験的研究が放射線リスクの証拠を提供している。遺伝性疾患の場合には、人に関する放射線リスクの直接的な証拠は存在しないが、実験的観察からは、将来世代への放射線リスクを防護体系に含めるべきである、と説得力のある議論がなされている」という結論部分に合致しています。さらに、同文献の同章の65項では、「したがって、委員会が勧告する実用的な放射線防護体系は、約100mSvを下回る線量においては、ある一定の線量の増加はそれに正比例して放射線起因の発がん又は遺伝性影響の確率の増加を生じるであろう、という仮定に引き続き根拠を置くこととする。」とも書かれています。この意味は、防護体系として閾値がないと考える根拠として、閾値がないという仮定が正しいものとして考えるからであるというものですから、ICRPが科学的にも閾値がないと考えるべきだとしていることは明白だと思われます。

そこで、第2の質問です。以上からは、ICRPは現時点での知見に基づけば、科学的にも閾値はない可能性が大きいと考えているように思われますが、そのように考えるべきか否かを根拠とともにお示し下さい。

 

第3の質問は、貴職は最新の知見を重要視されているようです。そうであれば、閾値の存在を否定する方向での文献やデータ、あるいは、チェルノブイリでの健康被害に関する新しい報告についてはいかに考えますか。閾値がある方向でのデータのみを引用されるのではバランスがとれていないと言わざるを得ません。閾値がないという最新の知見や被害実態に関するデータが事実ではないと否定できるのかできないのかについて根拠を挙げてお答え下さい。閾値がないとする文献としては、NAS/NRC(National Academy of Science/ National Research Council)の「第7 次報告書(BEIRⅦ) 」(10頁の「結論」という項目で、低線量被曝と癌発生との間に直線的な比例関係がある旨書かれています)のほか、「NCRP、2001」、「UNSCEAR、2000」などがあるようです。

 

次に、科学的な問題から離れた質問です。福島県など事故を起こした原発に近い地域では、年間100mSvまでの被曝は安全だから、あるいは、貴職が気にしないでいいと言っているから、福島産のものを食べないとか、運動を差し控えるとか、そういう対応は行き過ぎだ、という声がある一方で、いや、一定の被曝をした以上、リスクはあるわけだから、これ以上、リスクを増やさないためには、福島産の食べ物を避け、被曝をしていない沖縄産などの食べ物をとること、可能であれば被曝をしないで済む沖縄などに移住することも必要だ、という声があります。

深刻なのは、貴職の発言を根拠として、後者の声を上げる人たちに対して、バッシングがあるという事実です。

貴職の意図はどうであれ、「ふくしま市政便り」(2011年4月21日発行)などで、貴職の監修のもと、「健康リスクが出ると言われる100ミリシーベルトまで累積される可能性は、ありません。」と明記されており、現在もインターネットで訂正されることなく公開されています。したがって、普通の市民が読めば、貴職が100ミリシーベルトまでは健康被害はないと主張されていると思うのは当然だと思います。

その結果、たとえば、当職が聞いたところでは、給食で福島産の牛乳を残したら同じクラスの母親からなぜ飲まないのかと詰問するような電話がかかってきた、あるいは、移住について話ができるような状況ではない、ということがあるようです。貴職が安全だと言っているのに、なぜ、そんなに放射線のことを気にするのか、と言われた場合、明確に反論ができないわけです。

福島などの現実で問題となるのは、とどまって普通に生活したい人にはそのようにしたい自由(A)、とどまるが被曝を少なくするため最大限の努力(建物外での滞在時間を可能な限り減らす。できるだけ被曝の少ない食べ物を与える…)をしたいと考えている人にはそのようにできる自由(B)、一時的にあるいはもっと長く移住して暮らしたいと考える人にはそのようにできる自由(C)が、与えられているかどうか、ということです。

当職が聞く限り、(A)の自由はあるようですが、(B)および(C)については、必ずしも守られていないように思えます。その原因として、いまなお、貴職の当初の発言が大きな影響を与えていることが挙げられるようです。

したがって、貴職が今回回答していただいたように、「常に被ばく低減措置は不可欠」と言われるのであれば、(B)および(C)の自由が守られるべきであることを明確に発言し、福島県の政策についても、「被曝が少ない地域からの食べ物購入費に対する補助金」や「一時的移住に対する補助金」などをもうけることで、実質的に(B)および(C)の自由が保障されるように働きかけるべきではないか、と考えますが、この点、いかがでしょうか。これが第4の質問です。貴職が「個人の選択肢を否定したことは一度もありません」と言われるのであれば、個人に選択肢があることおよびそれを実現するために、福島県としても支援するべきであることを重大な影響力を持っている貴職の言葉としてお答えいただきたいと思うのです。

ここには住みたくないと思いつつも移転後の生活が維持できないために、住み続けることがもたらすストレスはいかなるものでしょうか。また、それらの人に対し、「放射脳」などという心ない言葉が浴びせられる現状は放置していてよいのでしょうか。当職の質問にはその思いがあります。

ことは、健康・命にかかわる問題ですので、5月末日までにご回答されるようお願いいたします。

なお、前回同様、本書面は、News for the Peple in Japan(http://www.news-pj.net/)及び当職が運営しているブログ「情報流通促進計画」(http://yamebun.weblogs.jp/my-blog/)にて、公開させていただくととともに、ご回答の状況についても掲載させていただきます。

不一

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