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原発大国から地熱大国へ(神保哲生)

マル激トーク・オン・ディマンド
第576回(2012年04月28日)
原発大国から地熱大国へ
ゲスト:村岡洋文氏(弘前大学北日本新エネルギー研究所教授)

 

日本は天然資源に乏しい国と言われて久しいが、実は日本には世界有数の天然資源がある。それが地熱だ。環境学者のレスター・ブラウン氏はかつてビデオニュース・ドットコムのインタビューで、活発な火山帯に属し強度の地震が多発する日本には原発は適さない発電方法だが、その裏面として、地熱発電には絶好の条件が揃っていると指摘し、まったくその逆を行く日本のエネルギー政策を訝った。

実は日本はアメリカ、インドネシアに次いで世界第3位の地熱源を保有する地熱大国なのだ。ところが、実際の地熱発電量を設備容量で見ると、日本は現在世界で第8位に甘んじており、こと地熱発電量では人口が僅か30万余のアイスランドにさえも遅れをとっている状態だ。しかも、地熱のタービン技術に関しては、富士電機、三菱重工、東芝などの日本メーカーが、世界市場を席巻しているにもかかわらずだ。

なぜ、これほどの資源に恵まれ、世界最先端の技術も有していながら、これまで日本で地熱発電は進まなかったのか。長年、地熱開発研究に携わってきた弘前大学北日本新エネルギー研究所の村岡洋文教授によると、日本で地熱発電が遅れた理由は明らかに国の政策が影響しているという。2度のオイルショックの後、日本でも一時、地熱発電を推進する政策が取られたことがあった。しかし、1997年に地熱は「新エネルギー」から除外され、その後、地熱の技術開発に対する公的支援も完全にストップしてしまう。結果的に、過去約15年の間、日本での地熱研究は完全に停滞してしまった。

村岡氏はその背景として、景気後退による財政難と同時に、政府による原発推進政策があったとの見方を示す。出力が安定的なためエネルギーのベースロードを担うのに適している地熱は、ベースロードを原発で賄うエネルギー政策を選択した政府にとって、不要かつ邪魔な存在だったというのだ。

また、日本の地熱源の多くが、開発が禁じられている国立・国定公園内に集中していることも、地熱開発の足かせとなった。

しかし、今年3月27日、環境省自然環境局通知により、国立・国定公園内の開発制限が緩和され、公園内の地熱発電所の設置が可能になった。また、4月25日には経産省の委員会が、地熱によって発電された電気の買取価格が1.5万kW以上の発電所で1キロワット時あたり27.3円、買取期間も15年とする案が出され、それがそのまま実施される可能性が高まっている。上記の2つの条件が揃えば、日本でも地熱発電が15年ぶりに大ブレークする可能性があると、村岡氏は期待を寄せる。

地熱発電に対して慎重な姿勢を見せる温泉組合との調整というハードルが残るが、村岡氏は、地熱発電の温泉への影響はほとんど皆無と言ってよく、今後、温泉組合側にも利点のある温泉発電の普及などを通して、この問題も次第に解決されていくとの見通しを示す。

世界有数の地熱大国である日本で地熱開発が進めば、太陽光や風力のように天候に左右される他の自然エネルギーと異なり、24時間安定的に供給が可能な自前のエネルギー源を持つことができる。村岡氏は日本がその潜在力をフルに活かせば、地熱発電は原発に代わる電源となり得ると言う。

日本の地熱研究の数少ない権威の一人である村岡氏を迎え、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が地熱発電の可能性について議論した。
(藍原寛子さんの福島報告は、今週はお休みいたします。)

<ゲスト プロフィール>
村岡 洋文(むらおか ひろふみ)弘前大学北日本新エネルギー研究所教授
1951年山口県生まれ。75年山口大学文理学部卒業。77年広島大学大学院理学研究科博士課程前期修了。理学博士。工業技術院地質調査所、新エネルギー・産業技術総合開発機構、産業技術総合研究所地熱資源研究グループ長などを経て2010年より現職。IEA地熱実施協定日本代表。共著に『日本の熱水系アトラス』など。