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事態が重大になるほど情報を出さなくなる東電(木野龍逸)

 4月17日午後6時に始まった東電の記者会見で、福島第一原発で港湾内の作業に従事していた協力企業の作業員が同日午前10時過ぎに福島第二の港で負傷。命に別状はないが、救急隊の判断でドクターヘリを要請し、いわき市立総合磐城共立病院に搬送したことを発表した。

配布された資料には「続報」の記載があった。松本原子力立地本部長代理によれば、福島県政記者クラブで第一報を発表したとのことだった。

−−−福島第二原子力発電所におけるケガ人の発生について(続報)
当所構内物揚場において、福島第一原子力発電所の港湾内海底土被覆工事に従事し ていた協力企業作業員が、係留船舶と護岸の間(非管理区域)に体を挟まれ負傷した ため、午前 10 時 25 分に救急車を要請しました。その後、午前 10 時 50 分にドクター ヘリを要請しました。
作業員に意識はあり、放射性物質の付着はありません。 (平成24年4月17日お知らせ済み)
その後、午前 11 時 15 分にドクターヘリが発電所に到着し、11 時 41 分にいわき市立総合磐城共立病院に搬送しました。
( http://www.tepco.co.jp/nu/f2-np/press_f2/2012/pdfdata/j120417a-j.pdf )
( http://www.tepco.co.jp/cc/press/2012/1201986_1834.html )

作業員の容態を会見で確認したところ、松本本部長代理は、「診断結果が出ていない」と回答。しかし事故は午前中に発生し、会見開始時には7時間以上経過している。にもかかわらず情報がないというのは、現場管理責任者の姿勢としては非常に大きな疑問がある。また、これまでの事例では状況が深刻なほど公表が遅れる傾向があるため、作業員の負傷の程度が気になる。

(「作業員の死因の公表は控える」という、東電の情報公開姿勢への疑問
http://kinoryu.cocolog-nifty.com/go_kinoryu/2011/10/post-7e92.html )

 松本本部長代理は会見のやりとりで、以下のような説明をした。

Q)警察の現場検証はあったか。
A)あった。
Q)けが人の負傷の程度は。
A)わからない。病院から診断結果を聞いていない。
Q)事故から6時間たっている。
A)病院から発表されるのが普通だと思っている。
Q)東電からは確認してないのか。
A)していない。
Q)協力企業はどこか?
A)(港湾作業の)JV。
Q)具体的に、どこの企業なのか。
A)まだわからない。
Q)物理的に病状の訴えなどはあったのか。
A)胸が痛いということで、用心して(ドクターヘリを)呼んだと思う。
Q)命に別状はないというのはどこから聞いたのか。
A)治療中のものから聞いた。
Q)正式な診断結果が出なくても(状態は)わかるのではないかと思うが。
A)そのあたりはまだ聞いていない。

このようなやりとりがあった後、会見の最後に松本氏は、「ドクターヘリの要請は救急隊の判断と言ったが、救急隊と(東電の)産業医が相談して呼んだ」と、冒頭の説明を訂正した。

そうであれば、容態は産業医が確認しているはずだが、松本氏は「確認していない。基本的には共立病院で診断する」と説明。軽く胸が痛いという程度でドクターヘリを要請するわけがないと思うが、状況を説明することはなかった。

詳細を公表しないといえば、今年1月に協力作業員が亡くなった時に東電は、極めてひどい情報公開をした。

1月9日午後6時の会見で東電の寺澤広報部長は、協力企業の作業員が心肺停止で病院に搬送されたことを発表した。倒れた時間は午後2時22分で、緊急医療室に担架で搬送したときにはすでに心肺停止だったという。

その後の容態に変化がないので、午後3時25分に救命措置を続けながら福島第一の急患搬送車で磐城共立病院に搬送し、午後4時29分に到着。午後6時に始まった会見では、病院で治療中だと説明した。このため翌日の新聞は、作業員が心肺停止で治療中であることを伝えた。

福島原発作業員が心肺停止に 東電「作業との関連不明」(朝日新聞電子版)
http://www.asahi.com/national/update/0109/TKY201201090255.html?ref=reca

翌10日午前11時の会見で松本氏は、その後に新たな情報はない、福島第一の医療室に運ばれた時の詳しい状況は確認中であると説明した。さらに午後6時の会見でも産業医の報告について質問をしたが、松本氏は「報告はない」と回答。

同10日午後6時の会見では、心肺停止にもかかわらずドクターヘリを呼ばなかった理由について、試験飛行をしたが運用はしていなかったという説明があった。しかし前年10月に作業員が重傷を負った際は、ドクターヘリで搬送している。また、救急車ではなく発電所の急患搬送車で搬送したのは、そのほうが早かったからだと説明した。救急車は、要請もしていなかった。

一方、同10日午後4時の保安院会見では、東電から、作業員の親族に連絡がとれていないという説明があったと説明があった。このことを、東電は午前の会見で公表していなかった。

作業員が亡くなったことを東電が発表したのは、11日午後6時の会見だった。松本氏は、「今日の午後1時に元請け企業より、亡くなったという連絡があった。死因は急性心筋梗塞」と説明した。つまり、最初に発表した9日午後6時の時点ですでに死亡が確認されていたのに、東電は治療中だという説明をしたのだった。

心肺停止の原発作業員が死亡 福島第一の60代男性
( http://www.asahi.com/special/10005/TKY201201110569.html )

会見では、匿名でかまわないので死亡が確認されたらすぐに発表してくれという要求が、複数の記者から出た。昨年4月以来、何度も繰り返してきた要求だった。さらには発表が遅れた理由を質す質問も続いた。

松本氏は、「親族と連絡がとれなかった」「プライバシーの観点もあるので、より慎重な判断が必要」「連絡を受けたらすみやかに公表することは、これまで同様、引き続きやっていきたいが、今回は病院からの連絡がなかった」「公表するしないではなく、ご親族を優先した」などと説明し、昨年来の説明と同様、東電の責任を回避した。しかし、前述したように発表は匿名である。プライバシーを尊重して死亡を発表しないという説明は意味を為さない。

さらに12日午後6時の会見では、当日の状況について詳しい説明をするよう要求が出た。松本氏は、東電社員が病院に付き添い、午後7時40分には元請け企業から、警察が検死のために遺体を引き取ったという報告があったと説明した。

しかし会見終了後に、その時間に検死の報告を受けたのではなく、病院側が親族に説明した後で東電に説明するという報告を受けたと訂正。短い時間員説明が二転三転した。このため複数の記者から、状況を整理してペーパーにして出してほしいという要望が出た。

13日午後6時の会見で松本氏は、時系列を以下のように整理し、口頭で説明した。ペーパーにしてほしいという要望は無視された。

・患者を乗せた搬送車は午後4時29分に病院に着。東電の医師から病院と警察に状況説明、その後、医師は医療班、看護師と発電所に帰った。
・東電社員は急患搬送車には同乗せず、別のクルマで病院に向かい、午後5時20分頃に着。急患搬送車に同乗していた(作業員の元請けである)清水建設社員とともに病院で待機した。
・午後7時40分に病院内で、清水建設社員が双葉警察から、親族に確認した後で病状や状況を連絡するとしたので待っていた。
・東電社員は午後10時頃まで待機していたが、そういう病院の判断あったので帰社した。

東電社員が病院にいたことだけは確実だが、松本氏の説明のとおりなら、この社員は報告も何もせずに何時間もボサっと待っていたことになる。松本氏は、親族への連絡が先なので、東電には説明がなかったとしている。

しかしこの説明には大きな疑問がある。そもそも心肺停止から2時間も蘇生措置を続けるなど、常識では考えられないからだ。医療の専門家にこの状況を説明したら、軽く鼻をならして苦笑していた。さらにいえば、仮に発電所の医療室で医師が蘇生を諦めたとすれば、ドクターヘリや救急車を使わなかったことにも説明がつく。松本氏は13日の会見で、治療方法に疑問があるという指摘を否定し、「医師を信頼している」と言った。

1月の件では、いくつかの問題が浮き彫りになった。まず親族への連絡が丸2日も遅れたことから、作業員の労働環境が相変わらず改善されていないことが推察できる。確認には警察も入っているが、それでも時間がかかっているということは、重層契約が障害になっていたのだろう。

東電では、この作業員が何次下請けなのかは確認していないというが、世界が注目している現場で働いている作業員の身元確認に何日もかかるというのは、社会通念としてありえない。東電ができなければ国が雇用状況を把握し、一刻も早く労働環境を整えるべきではないか。

東電の情報公開姿勢の問題は、いわずもがなだ。従業員の死亡後に、治療中であるという説明を続ける一部上場企業が、他にあるだろうか。会見では記者から、「福島第一には世界の関心が集まっている、公表が遅れることで社会的な公益性を損ねているのではないか」という指摘もあった。しかし松本氏は、「慣例として、(親族の)意向の確認が最重要」と回答した。もちろん遺族への連絡は重要だが、そのために公表が2日も遅れるというのは、バランスを欠いているように思える。

今回、ドクターヘリで搬送された作業員の容態が気になるが、果たして東電は説明するのだろうか。昨年10月29日に、クレーンから落下した400キログラムを超えるワイヤーに当たって骨折などの重傷を負った作業員は、長くICUで治療を受けていたが、東電はその後の経過を公表しなかった。

福島第一で何が起きているのか。事故から1年以上が経過した今も、情報は東電に握られ、小出しにされている。ホームページで公開されている福島第一の様子を映すカメラは、原子炉建屋が非常に見えにくい場所に1個が設置されているだけだ。巨額の税金を投入して東電を延命しているにもかかわらず、福島第一の状況を知る権利は、極めて制限されたままになっている。