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佐野稔の4回転トーク vol.④高いレベルのジュニアで鍛えられた永井優香の表彰台

スケールの大きなジャンプが魅力の永井

グランプリ(GP)シリーズ初陣での表彰台。FS(フリー・スケーティング)ではミスも多く、SP(ショート・プログラム)であげた得点の‘貯金’が活きた形とはいえ、永井優香のスケート・カナダ3位は賞賛に値すると思います。

9月下旬に行われた東京フィギュアスケート選手権大会(東京ブロック)で彼女を見たときは、ジャンプの出来がいまひとつだったのですが、よく立て直してきました。何と言っても永井の魅力は、そのスケールの大きなジャンプです。なかでも美しい3回転ルッツ、3回転ルッツ-3回転トゥ・ループのコンビネーションは、シニアの舞台であっても頼もしい武器になることでしょう。

GPシリーズ開幕戦となったスケート・アメリカでは、宇野昌磨が男子2位、女子はエフゲニア・メドベジェワ(ロシア)が優勝。そして今回の永井と、今シーズンからシニアに本格参戦した選手たちが、次々と表彰台に昇っています。いまジュニアのGPシリーズのテレビ中継で解説を担当しているのですが、ここ何年間かでジュニアGPシリーズのレベルが、飛躍的に高まっています。引き上げたのはおそらく、宇野とロシアの女子たちの存在です。

4回転ジャンプを当然のように跳んでいた宇野、人材の宝庫であるロシアの女子選手たち。彼らに負けないよう切磋琢磨することで、ジュニアGPシリーズに出場する選手全体のレベルが向上したのです。その結果、初めてのGPシリーズで、すぐに表彰台を争える選手が登場してきている。もちろん、その後も続けて好成績を残せるかどうかは、また別の問題になりますが、活きの良い若手の出現は何よりの刺激になります。これから、どんな新星が誕生するのか。楽しみです。

何かが吹っ切れた雰囲気の村上佳菜子

SP、FSともミスがあって、得点は伸びなかった村上佳菜子ですが、少し雰囲気が変わったように映りました。けっしてショートカットにした髪型のせいではなく(笑)、今シーズンの浅田真央にどこか通じるところのある、吹っ切れたような印象を受けました。仲の良いふたりのこと、浅田の復帰によって何かしらの影響を受けたのかもしれません。

昨シーズンの村上は、どこか自分で自分を苦しめていた感があったのですが、スケート・カナダでの彼女の演技や表情からは、そうした呪縛から解き放たれた様子がうかがえました。彼女のなかにあった「フィギュアスケートとは、こうあるべきだ」といった固定概念が、ひと回り幅広く豊かにバージョンアップされた。そんなイメージです。ひとつひとつの内容は、表彰台に立っていてもおかしくなかったので、このまま次に向かってもらいたいと思います。

昨季の女王を抑えきったA・ワグナー

スケート・カナダにおいて、最も強いインパクトを残したのはアシュリー・ワグナー(アメリカ)です。抜群でした。3年続けてGPファイナルの表彰台に立っているとはいえ、昨シーズンの彼女は明らかに下降線をたどっていて「このまま引退に向かうのかな」と思っていたのですが、私の見立ては完全に覆されました。テイストの違う内容のSPとFSを、それぞれ完璧に演じ切っていましたし、ひとつの乱れもありませんでした。

SPで7位と出遅れながら、最終的には2位に食い込んだように、やはりエリザベータ・トゥクタミシェワ(ロシア)には、爆発的な得点力を持っています。ですが、今回はやらなくてはいけないことを、すべてキッチリやってみせたワグナーとの差が、結果になって表れました。

GPシリーズ開幕戦のスケート・アメリカで2位に入ったグレイシー・ゴールド(アメリカ)の滑りも素晴らしいものでした。昨シーズンの女子フィギュアは「ロシアの独走に、待ったをかける日本」といった構図で進みましたが、‘スケート大国’アメリカの復権によって、今シーズンはまた違った展開がくり広げられることになりそうです

〈文:佐野稔(フィギュアスケート解説者)〉