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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(489) ゴールボール女子、ジャパンパラ連覇逃すも、パリで輝くための大きな収穫

3月15日から16日にかけて、ゴールボール女子の国際強化大会、「ジャパンパラ競技大会」が横浜市の横浜国際プールで行われました。パリパラリンピックに出場する全8カ国中、今大会には日本(世界ランキング2位)をはじめ、イスラエル(同6位)、韓国(同14位)、フランス(同20位)の4カ国が揃いました。ハイレベルな大会となったなか、日本は順調に勝ち星を重ねましたが、決勝でイスラエルに1-3で敗れ、昨年に続く連覇はなりませんでした。

「2024ジャパンパラゴールボール競技大会」に出場した4カ国の選手とスタッフたち

日本代表、オリオンJAPAN女子の高橋利恵子キャプテン(関彰商事)は、「イスラエルに勝ち切れず、パリの金メダル獲得はまだまだ達成できないと感じた」と悔しさをにじませましたが、パリでも対戦が予想される3か国とこのタイミングで試合ができたことは、「大きかった。課題もたくさん見つかった大会でもあったので、しっかり振り返って整理して、パリで輝きたい」と前を向きました。

日本は総当たり戦の予選ラウンドを3戦全勝で勝ち抜き、準決勝もフランスに7-1で快勝。進んだイスラエルとの決勝では序盤から相手エースのリヒ・ビン・デビッド選手の速くパワフルなスローを止め切れず、前半2分と3分に連続して2失点を喫します。同5分に相手の反則で得たペナルティスロー(PT)を萩原紀佳選手(アソウ・ヒューマニーセンター)が確実に決めて1点を返しましたが、6分に追加点を奪われ、前半は1-3で折り返します。後半は選手を入れ替えて新たな戦略で打開を図り、失点は押さえましたが、得点は奪えないまま、試合終了となりました。

萩原選手は今大会、5試合でチーム最多の10点を挙げ、エースとして役割は果たしたものの、決勝では合計3つのPTのチャンスを得ましたが、2回はブロックされるなど、「ペナルティを2つ外してしまったり、コントールの甘さが目立った。コントロールの悪さは映像を振り返り、今後の合宿などを通してしっかり改善し、パリでは金メダルを獲得したい」と力を込めました。

今大会、チームを指揮した辻美穂子ヘッドコーチ(HC)は、「予選とは違う戦術でいったが、先に失点しまい、こちらの攻撃のリズムを作り切れなかった」と悔しさをにじませ、ペナルティスローのミスついては、「私のコースの指示ミス」と振り返り、「相手に分析された面もあったが、相手の裏をかくベンチの指示や投球コースのバリエーションなど世界にまだ見せていないコースも作っていかなければ」と課題を話しました。また、投球コースの精度についても、「何が問題かというのは選手だけではわからない部分があり、練習ではスタッフがフォームの崩れや助走のずれを的確に分析し修正を行っている。試合中にそのずれが出てきたときはベンチが的確に指示し、修正する力を高めていきたい」とベンチとしての課題も口にしました。

悔しい銀に終わるも、「パリで金」の思いをさらに強めたゴールボール日本代表オリオンJAPAN女子。左から、天摩由貴選手、小宮正江選手、安室早姫選手、高橋みなみ選手、高橋利恵子選手、萩原紀佳選手

■パリの金へ、気持ち新たに

オリオンJAPAN女子はこの2023年度、パリパラリンピックの出場権はつかんだものの、3つの国際大会すべてで中国に敗れ、銀メダルに終わり、「金で締めよう」と臨んだ今大会も銀メダルでした。だからこそ、「パリで金」の思いは強まり、そのために解決すべき課題が明確になりました。準優勝に終わったものの、大きな収穫も得たことは間違いありません。

高橋キャプテンは、「今大会は『チームでつなぐ』をテーマにしていた」と明かし、その手応えも口にしました。日本は海外勢に比べ、体格的には小柄ですが、「つなぐ」をテーマに6人がうまく交代しながら体力も温存し、さらにそれぞれが持つ長所を生かして連係し、戦略的に戦うことを意識したそうです。今大会のメンバーを振り返ってみましょう。

高橋選手自身は守備の要であり、攻撃の指示も出すセンターを担いますが、チームについて、「ポイントゲッターや攻撃型のウイング、ディフェンス型のウイングなど、相手に応じた戦術に合わせてそれぞれの個性を生かし、6人の選手とベンチが一緒に戦うことが日本の特徴の一つ」と自信を見せました。

萩原紀佳選手はチーム1の得点力を誇る、大エース。萩原選手は、「この1年、苦しい思いをしてきたので、パリでは悔し涙をうれし涙に変えられるように、どんなことがあってもパリの金メダル獲得という目標はぶらさず、チーム一丸で進んでいきたい」と意気込みました。

先発レフトとして起用が多かった新井みなみ選手(アソウ・ヒューマニーセンター)は競技歴約2年で、1年前の前回大会が国際大会デビューだった新星ですが、チーム1の長身を武器とする彼女が経験と自信を積めたことは収穫の一つでしょう。予選では自身初めてイスラエルと対戦し、世界屈指の速球を誇るデビッド選手の強烈なボールを体を張ってブロックしたり、韓国戦ではゴール隅を狙う正確なスローで3得点しました。「世界で一番は速いと言われるリヒ選手のボールを受けて、声が出ちゃうくらいびっくりしたが、普段から男子選手にボールを投げてもらって受けていることもあって耐えられた部分もあった。1年前と比べて、移動攻撃ができたり、ディフェンス力が高くなったかなと思う」と自身の成長を語りました。一方で、決勝では失点もし、「今回の反省を生かし、もっと練習を積んで、こういう場で恐れず堂々とプレーできるようにしたい」と、攻守に向けてさらなる成長を誓っていました。

スローを前に集中力を高める高橋みなみ選手(左)と高橋利恵子キャプテン

「ユーティリティさ」を発揮したのは2人。安室早姫選手(SMBC信託銀行)は戦略に応じてセンターとレフトのポジションをこなす「二刀流」で、守備の要であるセンターを担いながら、再三、スローイングも見せました。「私は元々ウイングでもプレーをしていたので、攻撃にも参加する点が高橋選手との違いであり、自分のプレースタイル」と話し、今回も守備からすばやく立ち上がって攻撃に転じるプレーが印象的でした。また、右手1本でボールを高く掲げてから投げ込むフォームも独特で、「体が小さいので、ボールの高さや体のひねり方、体全体を使って投げることを意識して取り組んできた」と言い、パワースローではありませんが、精度の高さも長所で、攻撃の幅を広げる重要な投げ手の一人です。

天摩由貴選手(エイト日本技術開発)は、「言われたことはいつでも何でもやれる、その場その場でしっかりこなすことが自分の役割。しっかり貢献したい」と話します。実は競技歴約10年でずっと担ってきたライトから、昨年秋にチーム事情と自身のさらなる可能性を考え合わせ、思い切ってレフトに転向し、今回が初の実戦だったと言います。ウイングのサイド転向は大きな賭けでもあります。守備範囲も変わり、例えば、レフトは左に来たきわどいボールはコート外に弾けば大丈夫ですが、右側のボールはセンターとの連係プレーが重要です。ライトの場合はその逆になります。また、守備姿勢でも左右それぞれ、コート外側を頭にして寝そべる「外頭」がより有効とされるため、左右では守備姿勢もセオリーでは逆になります。

ただ、守備姿勢は慣れるまで時間がかかるため、天摩選手はレフトに転向後、「中頭でレフトをやるという決断をした。難しさを感じているが、背中からボールを押さえこむようなイメージを持つなど、体の使い方に今まで以上に着目している。今大会は少し危ない部分はありながらも無失点で終えられた手応えもあったが、苦戦しているのが現状。8月までの限られた時間のなかで、やれることはまだまだある。今回感じた課題や手応えの両方をさらに強化していきたい」と、難しいチャレンジに立ち向かう決意を新たにしていました。

もう一人、チームを底から支えているのが小宮正江選手(アソウ・ヒューマニーセンター)です。競技歴23年というベテランで2004年アテネ大会から2016年リオ大会まで5大会連続のパラリンピアンです。今大会では主にライトに入りましたが、レフトもセンターもこなせるマルチプレーヤーです。若手の台頭もあるなか、パリ大会で代表復帰を狙います。「私も自分の限界にチャレンジしている。体力も技術ももっと伸ばして、パリで金を獲得するチームの1ピースとして力を発揮したい」と話します。さらに、「コート外では、若手選手の心の中の思いをしっかり聞くことで、彼女たちのいいパフォーマンスにつながればと意識している」と、小宮選手ならでは役割も自覚しています。

このように多彩なメンバーで構成されるオリオンJAPAN女子。チームはこの先、今大会で得た課題や手応えを整理し、4月にトルコ、5月にスウェーデンと海外遠征をこなして強豪チームとの実戦を重ねる予定です。辻HCは、「残り5カ月間、どこを強化すれば金メダルが取れるか確認してロードマップを作り、選手たちはひたすら練習に取り組むのみ」と意気込みを語りました。

すべての経験は、大目標である「パリでの金」につながるはずです。オリオンJAPAN女子のさらなる進化に期待しましょう!

日本の大きなライバル、イスラエルのエース、リヒ・ビン・デビッド選手(右)

(文・写真: 星野恭子)