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佐野稔のフィギュアスケート4回転トーク/ソチ五輪特別編パート① 面白かった初の団体戦 羽生への期待はさらに高く!

●期待以上に面白く、盛り上がった団体戦
 日本チームは5位に終わり、メダル獲得はなりませんでしたが、五輪史上初の試みとなったフィギュアの団体戦は期待していた以上に面白く、ソチの会場も盛り上がっていました。特に参加チームが10カ国から5ヶ国に絞られたフリーは、ひじょうにコンパクトでありながら、演技がバラエティに富んでいて、楽しく観ることができました。

 団体戦ならではの現象なのですが、フリーに出場した選手やペアのなかには、世界のトップ・オブ・トップではない顔ぶれもいました。その国ごとの得意種目での高得点に引っ張られる形で、フリーに残ったからです。ところが、そのことによって、真剣勝負の面白さだけでなく、次に何が飛び出すか分からないおもちゃ箱のような効果が生まれていたのです。もちろんアイスダンスやシングルすべての種目が終わった段階で、五輪全体を通しての問題点や課題を検証する必要はありますが、観ている人たちに喜んでもらうという点では、今後も継続して実施するだけの価値があったのではないでしょうか。

●緊張感に包まれていた日本勢 そのなかで見せた羽生の凄さ
 日本チームについては、羽生結弦を除いたシングルの3選手に、もう少し頑張って欲しかった。大会前は、シングルの選手たちが高得点を稼いでメダルを狙うといった見方をされていましたが、むしろペアの高橋成美&木原龍一組と、アイスダンスに出場したキャシー&クリスのリード姉弟の健闘のほうが目立っていた。いつも日本でやっている国別対抗戦のときは、リラックスした様子でやっているのに、ソチでは日本チーム全体が妙な緊張感に包まれていました。それとは対照的に「自分のやることだけはやって、あとは他の選手にお任せ」とでも思っているかのような、ほかの国の選手たちのリラックスぶりが、ひじょうに目につきました。そのせいか「あれっ、この選手こんなに上手かったっけ?」と驚かされるような演技が、いくつもありました。

 日本チームの緊張感は、「五輪」という特別な舞台だったことからなのか。それとも「日本のために自分が頑張らなくてはいけない」「ほかのチームメイトに迷惑を掛けるわけにはいかない」といった、団体戦ならではの責任感によるものだったのか。理由は定かでありませんが、自分で自分のことを固めてしまってはいけません。町田樹、浅田真央、鈴木明子の3選手には、団体戦での失敗をよい教訓にして、個人のシングルにのぞんでもらいたい。

 そうやって日本の各選手が、自分をコントロールしきれなかったなか、羽生だけが、これまでやってきた通りの演技をノーミスでやって、当然のようにショート・プログラム(SP)で1位になってみせた。その「いつも通りの演技」を、五輪本番の氷上ですることが、どれだけ難しいことなのか。ほかの日本人選手たちを見て、あらためて思い知らされた分、なおさら羽生の凄さが際立ちました。エフゲニー・プルシェンコ(ロシア)も、パトリック・チャン(カナダ)も、大きなミスをしたわけではありません。彼らも自分たちの演技をしていながら、それでも羽生には追いつけなかったのです。日本人男子初となる金メダルへの期待は、さらに高まりました。


●プルシェンコに団体戦の疲れは期待できない!?  
 ただし、ライバルたちもしっかりと五輪に照準を合わせてきたことが、団体戦の演技からはうかがえました。最大の驚きは、やはりプルシェンコです。度重なった故障と手術、31歳の年齢、ロシア国内の選考過程もあって、地元の五輪で彼に最後の花道を飾らせるための代表入りなのでは。そうした憶測もささやかれていました。ところが、いざ本番が始まってみれば、羽生には及ばなかったものの、「3度の五輪表彰台は伊達じゃない」と思わせるSPをしてみせた。フリーでは後半にジャンプの失敗が続きましたけど、プログラムの「ベスト・オブ・プルシェンコ」そのものは、ものすごく格好良かった。しかも、その後半の失敗にしても、原因は明らかです。ハッキリ言えば、団体戦のフリーの後半、プルシェンコは明らかに力をセーブして演技していました。

 プルシェンコがフリーを行う時点で、ロシアチームは団体戦の金メダルをほぼ手中に収めていた。あそこで彼が全力を尽くす必要は、すでになくなっていたのです。私は前回のコラムで、シングルの出場枠がひとつしかない国の選手は、団体戦と個人戦、それぞれのSPとフリー合わせて4回滑らなくてはならず、肉体的にかなりハードな要求をされると話しましたが、少なくともプルシェンコに関しては、体力の温存に成功しています。疲労のない状態で個人シングルにのぞんでくるはずです。

 やはり前回のコラムで、私が気になる存在として名前をあげたケビン・レイノルズ(カナダ)ですが、こちらもキッチリと仕上げてきました。団体戦での彼の出番はフリーのみでしたが、サルコウとトゥループ2種類の4回転ジャンプを計3度成功させてみせた。個人シングルのSPでは、4回転-3回転のコンビネーションと、単独の4回転、それにトリプル・アクセルを組み込んだプログラムでくる可能性もあります。彼にとっては、久しぶりの世界大会だったのですが、ブランクを感じさせない内容でした。

 本命が羽生であることに変わりはありません。が、各国のメダル候補と呼ばれる選手たちも、万端な準備をしてソチにやって来たようです。日本時間で13日の深夜24時(14日午前0時)にスタートする男子シングル。好勝負の予感がします。

(次回の「佐野稔のフィギュアスケート4回転トーク/ソチ五輪特別編」は、男子シングル終了後に掲載の予定です)