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「Cエリアは全面除染の必要ない」~住民に背向ける仁志田市長。伊達市議会は不信任案提出か?(鈴木博喜)

騒然となる議場で、仁志田昇司市長は改めて明言した。「Cエリアの除染は必要ない」─。17日に開かれた伊達市議会の本会議。問題視されたのは昨年1月の市長選挙。「全面除染しないのは公約違反」と迫る市議に、「約束など破っていない」と市長は応戦。被曝の不安を抱える住民の求めに応じる意思は全くない。市議側は不信任案の提出をほのめかして全面対決の構えだが、こうしている間にも子どもたちは放射線にさらされていることを、大人は忘れてはいけない。

 

 

【「約束を破った覚えはない」】

 

 「Cエリアは全面除染の必要はない」

 

 仁志田市長はうんざりした表情で何度も強調した。

 

 原発事故以降、一貫して放射線問題を担当してきた半澤隆宏放射能対策政策監も「フォローアップ除染(ホットスポット除染)を実施しているので問題ない」と足並みを揃える。仁志田市長の答弁が求められているにもかかわらず、自ら挙手して答弁を始める半澤氏に、議員席からは「いつから市長になったんだよ」と野次が飛んだ。質問に立った中村正明市議(無会派)が「納得できる誠意ある回答を」と再三求めたが、仁志田市長は「私は約束を破った覚えはない」とくり返すばかり。

 

 問題となっているのは2014年1月に実施された市長選挙。自身のホームページに掲載されたマニフェストに「Cエリアを除染して放射能災害からの復興を加速」と明記。選挙期間中に配られたビラにも、同じ文言が一番大きな赤い文字で記されていた。だが、僅差で3選を果たした仁志田市長は、当選から1年半近く経過した今でもCエリアの全面除染に着手していない。勝てば官軍ということか。この日の市議会でも市民の不安に寄り添うという言葉とは程遠い答弁をくり返した。

 

 「そもそも除染をしたからといって、市民の不安は解決しない。放射能への恐れは人それぞれだ」

 

 「何かというと『選挙で約束した』と言うが、やってくれと言うからやるというようなポピュリズムのようなことは初めから考えていない」

 

 「市民の希望通りにそのままやれと言うのなら、行政は要らない」

 

 「除染はやらなくていいと言う市民がいるのも事実だ」

 

 これからも一生懸命にやります、と言いながら、随所に仁志田市長の本音が垣間見える。極めつけは、こんな答弁だった。

 

 「伊達市から避難している市民を受け入れている自治体には御礼をしに行ったことはある。だが、現地で避難者に会ったことはない。そういう場には行ったことがない。それでも、避難者の気持ちは理解しているつもりだ」

 

 直接、会うこともしないで、どうして気持ちを理解できるのか。中村市議は質問に立つたびに怒りに震え、目に涙を浮かべるような場面もあった。「(放射線被曝は)誰にも分からない。未知との遭遇なんですよ。市民が望むように全面除染をやってあげれば良いじゃないですか」。そして、こう仁志田市長を諭した。

 

 「有権者との小さな対話を放棄することは、政治家の死を意味するんですよ」

 

 

【ガラスバッジの信頼性は?】

 

 市長選挙で仁志田市長と争った高橋一由市議(きょうめい)も、別の角度から仁志田市長の政治姿勢を批判した。

 

 半澤政策監が「Cエリアを全面除染しない方針は、2012年3月に開かれた会議で既に決まっていた。原発事故から1年以上が経過し、モニタリング結果や3カ月間のガラスバッジの結果も参考にした」と答弁すると、高橋市議はガラスバッジの信用性に関して疑問を投げかけた。

 

 「ガラスバッジを納入した千代田テクノルの社員が、『実際より3割4割低い数値が出るということは市側には説明していない』、『当社のガラスバッジを使って欲しいという思いが先に立ってしまった。申し訳ない』と謝罪している」

 

 今年1月に開かれた市議会の議員政策討論会。同社の幹部が、ガラスバッジによる被曝線量の推計は実際の被曝線量より3割以上も低く適さないことを、全市議の前で事実上、認めたというのだ。

 

 しかし、仁志田市長はガラスバッジの性能は一切無視。「最も頼りにするのがガラスバッジだ」と述べたうえで「(行政には)他にもやるべきことはたくさんある。無駄な金を使わないだけだ」と答弁した。これではまるで、Cエリア除染が税金の無駄遣いであるかのようだ。

 

 高橋市議が「伊達市だけですよ。『もうこれ以上、除染することねえ』って言ってるのは」、「大人用のガラスバッジを子どもに着けさせて、平均値をとって『大丈夫だ』と言っている」、「選挙でも除染すると言って当選した」と畳み掛けると、仁志田市長は「あまりに一方的。私たちだって真剣にやっている」と語気を強めた。これには高橋市議も「興奮しないで」と苦笑。「このままでは法律的な手続きによって進めるしかない」と市長不信任案の提出もあり得ることをほのめかした。

 

 

【増え続ける抗議の看板】

 

 業を煮やしたCエリアの住民たちが、仁志田市長に公約実行を求める複数の看板やのぼりを昨年から設置し始めた。それぞれの事情で県外避難がかなわず、やむなく伊達市内での生活を続けている住民にとっては、たとえわずかな数値であっても不安。わが子の被曝を心配してしまうのは当然だ。市長選挙の際、Cエリアの除染を仁志田市長が掲げた点が投票の動機づけになった、と語る市民も実際にいる。看板やのぼりは少しずつ増えている。

 

 「住民はあれだけ切実な想いで看板やのぼりを立てている。当事者の所に市長自ら行って話を聴くのが仕事なんじゃないか」と中村市議は自発的な住民との直接対話を求めた。しかし、仁志田市長は「子どもの未来を守る会?あれはどういう団体なんですか?調べたけれどもはっきりしない」などと拒否。挙げ句には「あなたは市民と直接会っているかどうかで評価するんですか?」と逆質問する始末。答弁中、中村市議が「出来ないのなら辞めればいい」と野次を飛ばすと、仁志田市長は「そんなことをあなたに言われる筋合いじゃない」と気色ばんだ。

 

 聞く耳を持たない仁志田市長に、傍聴席からも怒号が飛び交い、議場は一時、騒然となった。「市長の資格は無い」という市議の言葉には拍手が起こった。議長が「次からは退場していただく」と拍手や野次を制したほどだ。

 

 3月議会で、仁志田市長は「責任は将来にわたって私自身が取ります」と答弁している。中村市議が「どうやって取るのか」と質すと、開き直ったような答弁が返ってきた。

 

 「現実には責任は取れないが、責任を取るつもりでやっている」

 

 責任取れない市長。暴走のツケは子どもたちが払わされるのだ。こうしている間にも、子どもたちは放射線を浴びさせられている。



(文・写真:鈴木博喜)