ノーボーダー・ニューズ/記事サムネイル

総選挙で大勝して憲法改正、大統領制を狙ったエルドアン大統領にトルコ国民がNO!(大貫康雄)

7日行われたトルコの総選挙では、憲法改正、大統領(実権)体制を目指す与党AKP・公正発展党に国民が反発、過半数の議席さえ獲得できず、エルドアン政権発足後初めて連立政権を模索することになった。一方議席を獲得できなかったクルド系HDP・国民民主党(人民民主党)が初めて議会に進出、シリア内戦など外交だけでなく内政の転換の可能性が出てきた。

 

トルコ議会は定数550、有権者は18歳以上で選挙は拘束名簿式比例代表制だが、有効得票10%以上を獲得しない政党は議席を得られないため、クルド人政党が議席を得られないできた。

 

結果は投票率86%、AKPの得票率は41%、獲得議席数は前回の311にはるか及ばない258、過半数に18も少ない。圧倒的多数どころか2003年エルドアン政権発足後初めて過半数割れ、連立政権を模索することになった。

今のところ右派政党も含め連立政権に参加する意思を示している政党は皆無。選挙後45日以内に連立政権が樹立できない場合は再び総選挙となる。

 

今回初めて議席を獲得したクルド人政党HDPはクルド人だけでなく、若い世代や差別を受けている同性愛者などの支持も得て10%を超え、一挙に80議席を獲得、今後トルコ政界の台風の目となることは必至だ。

 

今回の総選挙はエルドアン大統領の与党AKPが憲法を改正し議院内閣制から大統領(実権)制への移行、それもエルドアン大統領を終身大統領にする方針を掲げ、AKPがどれだけ議席を増やすかが焦点となった。

 

トルコは国民の圧倒的多数がイスラム教徒、AKPは徐々にイスラム化を進め安定した支持者を獲得してきた。議会で3分の2の330議席を獲得すれば大統領制以降の是非を問う国民投票を実施できる。80%以上の367議席を獲得すれば国民投票を経ずに議会の採決だけで憲法改正が可能となる。

AKPはエルドアン大統領自らが全国を遊説するなどこれまでにない選挙戦を展開したが、それだけ国民の反発が強かった。

 

エルドアン大統領は当初全方位外交、イスラム色を抑え選挙に勝利、2003年首相に就任。以来、EU、ロシア、アルメニアなどとの関係を強化、年平均5%近い経済成長にも恵まれ高い支持率を維持してきた。

過去にトルコによって迫害されたクルド人の迫害やアルメニア人虐殺も謝罪し内外共にトルコを安定させ、AKPはキリスト教民主政党のイスラム版とも言われた。

しかしアラブの春対応でのエジプトや湾岸諸国との関係悪化、シリア内戦で反政府勢力を支持しシリア情勢悪化、流入難民の増大と経済停滞を招く。

また高支持率の裏でイスラム化の風潮を煽り、反政府派を次々に投獄。エルドアン政権の高圧的な姿勢にトルコ国民の反発も強まり13年5月イスタンブール市内の緑地再開発強行に対し大規模な反政府運動が起きた。

 

近年は信仰の自由を理由に大学構内などでの女性のスカーフを解禁する一方、女性にイスラムの教えに基づく行動を強いようとして反発を招いている。

同時にマスコミ統制を強化、エルドアン政権への批判を強めるツイッター利用を禁止し、次いでファイスブックやYチューブを遮断しようとして国際的な批判を浴び撤回している。

 

14年8月に大統領選挙に勝利し大統領に就任するや否や、巨大な大統領宮殿を建設、内部はオスマン帝国時代の軍人・兵士が立ち並び、規模はヴェルサイユ宮殿の4倍。

裁判所の命令を無視して環境保護地域に建設を強行、大統領宮殿建設は法治国家の基盤を揺るがす事件でもあった。

経済停滞で国民生活が苦しくなる中で、イスタンブールを見降ろす丘に巨大なモスクの建設を進めている。

 

今回の総選挙結果、トルコ国内では独裁的な傾向を強め憲法改正を目論んだエルドアン大統領の野望を国民が打ち挫く一撃になり、対外的にはシリア内戦への介入見直し、アメリカ軍の基地使用許可、EU、更にはイランなど関係改善の切っ掛けとなる可能性がある。

 

〈文:大貫康雄(自由報道協会代表理事)、写真:By Yıldız Yazıcıoğlu, Alparslar Esmer, Hilmi Hacaloğlu, [Public domain], via Wikimedia Commons〉