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“FIFA・世界サッカー連盟のブラッター会長辞任は”(当面)スポーツ界の事件”として報道するZDFの際立つ編集姿勢(大貫康雄)

 

ヨーロッパ時間6月2日夕方、FIFAのブラッター会長が辞任の意向を突然表明。その日はBBC、F2も含めヨーロッパ、中南米のメディアはトップ・ニュースで大きく報道。

その中でドイツZDFは“ブラッター辞任は(当面)スポーツ界の事件”と断り、ギリシャ債務危機、ISIS対策国際会議など重用問題の後に、しかし必要情報は欠かさずに報じた。

確かにFIFAの金銭疑惑は世間の関心事だが、あくまでも諸問題それぞれの重要性、位置付けを意識。

スポーツ界や芸能界の出来ごとを大きく報道して、人々が肝心の政治・社会分野での重要課題を忘れてはならないという編集方針が伺える。

 

当日夜のZDFのニュース番組「ホイテ(heute)」の主なニュースは何と言っても、*返済期限が迫っているギリシャ債務危機と、*暴力によってシリアとイラクで攻勢を続ける過激なテロリスト集団ISISにどう対処するかパリでの有志国会議だった。

 

2日夜「ホイテ」では冒頭アナウンサーが、先ず「今日は例外的にスポーツ担当キャスターから話してもらう」と言い、スポーツ担当キャスターが「FIFAのブラッター会長が辞任を発表した、、、」と一言伝えた。

 

その後「ホイテ」は

1.               ギリシャ債務危機をベルリンとアテネを中継で結び報道:ベルリンの首相府にメルケル首相、フランスのオランド大統領、それにEUのユンケル委員長とIMFのラガルド専務理事が集まり深夜まで協議。その直前にギリシャのツィプラス首相が新しい提案。

ラガルド専務理事は“年金制度改革案が不透明”と提案を一蹴。4者は“ギリシャがユーロ圏に留まる事を望むが、そのためには改革が必要”との姿勢を堅持。などと一連の債務支払い期限が迫っているが予断を許さない状況を伝える。

  (ギリシャの年金制度は高級職種では50歳退職可、現役時代の給与水準を相当維持した年金支給、というもので特定職種に遥かに恵まれたもの)

 

2.               パリでのISIS対策支援国会議の模様は以下のように報道:ISIS攻勢の条件としてシリア、イラク両国政府の協力が無い隙をついたこと。他に例を見ない暴力的支配。諸外国からの支援が続くこと、などを挙げる。また各国ごとにシリア政府との関係がばらばら。対ISISでフランスはアサド政権との協力は一切拒否するなど効果的な政策が取れない。

イラクでは政府軍幹部の先頭能力、士気の欠如だけでなく、シーア派民兵組織のスンニ派国民への暴力行為が続き、シーア派国民をISIS支持に追いやっている。以上を挙げイラク政府軍に新たな武器供与をしても効果は限定的、と報道。

 

3.               ブラッター会長辞任は、その後報道:早ければ今年12月か遅くとも来年3月までに次期会長選挙実施するまで会長職にとどまる。FIFAがどこまで抜本的改革が出来るかは誰が次期会長になるかに懸っている。ブラッター会長に辞任を迫ったヨーロッパサッカー連盟のプラタニ会長が立候補資格十分だがアジア、アフリカ各国はブラッター会長を支持している、と現状を紹介するにとどめる。

 

 念のため3日の「ホイテ」報道を見ると、各界反応を冒頭簡潔に伝えている。*メルケル首相の辞任歓迎発言、*アメリカFBIがブラッター会長取り調べの可能性を一部メディア報道、*(フランス大会、南アフリカ大会などを念頭に)ロシア大会、カタール大会だけに疑惑の目が注がれている訳ではない、と続け、*デメジエール内相の“ドイツ大会開催で疑惑があったのであればFBIが連絡することになっている”との発言、また*ヨーロッパサッカー連盟が現段階では意味がないとしてベルリンでの会合を中止、などをコメントで紹介するにとどめた。

 

ドイツは前ワールドカップサッカー・ブラジル大会の覇者、他のヨーロッパ諸国同様サッカーは最も人気のあるスポーツであり、ブンデスリーガの試合は必ずその日に報じられる。そのワールドカップ主催者FIFAが大揺れの事態であっても、煽りたてる姿勢は皆無だ。

 

筆者は、FIFAの次期会長選挙が近付くに連れZDFの報道も増え、放送権料や企業広告など巨額の資金が動くFIFAの運営の透明化が具体的に議論になる時、単なる「スポーツ界の出来ごと」ではない報道になると見ている。

 

日本のテレビは安倍政権下で特に、スポーツや芸能界関連報道を長く厚めにするようになった印象だ。

中でも最近奇異に感じられたのは、外国人観光客数が記録的な伸びだ、として暫くの間各地で増えた外国人観光客の話題が長々と報じられた。

 

その一方で、*一向に改善されない貧富の格差、特に母子家庭の貧困。*憲法違反の批判が強い集団的自衛権行使の閣議承認と、*粗野で論理飛躍が著しい、安保関連(所謂戦争関連)法案の荒っぽい一括審議、*原発事故収束はおろか、*十分でない放射能災害の被害者対策、*労働条件の悪化が指摘される改正労働者派遣法案の審議、*国民無視のTPP秘密交渉、*年金情報流出以前に一方的に給付水準引き下げが続く年金、、、など日本社会の重要課題が数多くある。

それら課題がテレビで報道される機会が随分少なくなった。まるで存在していないかのようだ。

 

テレビ報道でスポーツや芸能界報道が増えたのはこれら重要課題から国民の目を逸らすためではないか、と疑っている。

公共放送という以上NHKは、少しはZDFの編集方針を見習い、日本が抱える重要課題報道を頻度を増やし報道の質を強化するべきだろう。

 

(文:大貫康雄、FIFA公式サイトより)