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【自主避難者から住まいを奪うな】密室で進む「切り捨て」~大臣は答弁棒読み。避難者との面会も拒否(鈴木博喜)

寄り添うと言いながら自主避難者と面会しない。福島県と内閣府の意見交換は非公開─。参議院の「東日本大震災復興及び原子力問題特別委員会」が1日、開かれ、自主避難者向けの住宅無償提供打ち切り問題が取り上げられた。山谷えり子内閣府特命担当大臣(防災)は「福島県から正式な協議書が提出されていない」と責任を回避する答弁ばかり。竹下亘復興大臣も「ずっと帰らなくていいよ、ではない」と帰還促進を強調した。密室での協議が進む中、自主避難者たちは想いを届ける機会も与えられず、不安な日々を送るしかない。

 

【密室で何が話し合われた?】

 「この時点で、既に無償提供打ち切りのやり取りがあったんじゃないか。それを知られたら困るのでベッタリ黒塗りにしたのではないか」
 山本太郎議員(生活)の声が一段と強くなった。手にしているのは、山本議員の求めに応じて内閣府が出してきた資料。日付は2014年7月28日。午前10時10分から正午にかけて福島県庁で開かれた内閣府と福島県との「意見交換」だ。タイトルはずばり「応急仮設住宅供与期間の延長関係」。「○当方 ●福島県」と書かれているので、内閣府側が作成した議事録に相当する資料と思われる。だがしかし、左隅に「機密性2情報」と記された資料は、出席者名以外は一字一句漏らさず黒塗りされていた。

 

 内閣府から防災担当と被災者行政担当が、福島県からは避難者支援課の職員が出席した「意見交換」。2時間にわたって何が話し合われたのだろうか。福島県は無償提供延長打ち切りを打診したのか。国側は打ち切りするよう求めたのか…。A4サイズ2枚余にわたるやり取りは、完全に秘匿されている。

 

 「プロセスが不透明すぎる」、「正々堂々と議論されるべきだ」、「こんな理不尽なことがあるか」、「公開に力を貸してください」。山本議員は山谷大臣に黒塗り部分の公開を迫ったが、大臣は「確かに打ち合わせを行っておりますが、公開することによって率直な意見交換が損なわれる」などとして、正式決定前の公開に否定的な見方を示した。

 

 有権者の投票で選ばれた国会議員にさえ、議論の中身が示されないまま、放射線を避けるために福島を「自主的に」離れた人々が切り捨てられようとしている。これが「被災者に寄り添う」と公言してはばからない政府の真の顔だ。

 

【避難者の声聴かぬ大臣】

 「しつこいな」。出席した議員からそんな言葉が漏れるほど、山本議員は山谷大臣に懸命に食い下がった。「自主避難者の声を直接、聴いていただきたいんです」。福島県外に自主避難した人々の言葉も読み上げた。「どうか切り捨てないでください」、「人をはねたドライバーが、被害者に『お前の怪我は大したことはない。早くどけ。車を動かせないじゃないか』と迫っているようなものだ」。

 

 時折うなずきながら聴いていた山谷大臣に、山本議員は何度も「被害者の声を直接、聴く場を設けさせていただけませんか」と求めた。5月29日に参議院会館で開かれた集会でも、内閣府や復興庁、福島県職員に対し複数の母親たちから「まだ結論が出ていないのなら、当事者である私たちを協議の場に加えて欲しい」との声が出ていた。住まいがどうなるかは、今後の生活設計に深く関わる問題。当事者の経済的苦境や不安を聴取した上で決めて欲しいと願うのは当然だ。しかし、山谷大臣は「被災者の心に寄り添いながら適切に対応していきたい」と繰り返すばかり。イエスもノーも言わない。それでも、山本議員は続けた。


議員「生の声を聴いていただきたい」


大臣「福島県から正式な協議書が提出された際には、不安な皆様の声をていねいに聴きながら速やかに対応していきたい」


議員「ということは、避難者の生の声を聴いていただける?」


大臣「速やかに対応していきたい」


 もはや意固地になっている子どものようだった。どうして避難をしたのか。なぜ福島に戻らないのか。なぜ住宅支援が重要なのか。当事者に会わずして、どうやって寄り添うというのか。他の議員から「大臣の公式答弁はそんなもんだよ」と野次が飛んだ。山谷大臣は終始、官僚の用意した答弁を棒読みし、「福島県からの協議書が正式に提出されていない。現時点では具体的なことには答えられない」と淡々と述べた。

 

 山本議員は竹下亘復興大臣にも自主避難者との面会を求めたが、竹下大臣は「浜田副大臣は全国を巡り、声を直接、聴いている」と暗に断った。山本議員は大きく息を吐いた。怒りを必死に押し殺しているようだった。発言の機会さえ与えられず、打ち切り決定を待つしかない避難者たちの涙を何度も目の当たりにしているからこその怒りだった。

 

【垣間見える「福島に帰って」】

 委員会では、他の議員も住宅の無償提供延長を求めた。

 

 徳永エリ議員(民主)の質問にも、山谷大臣は「福島県から正式な協議書が…」と官僚答弁。「朝日新聞の記事は誤報か」の問いにも「お答えできない」、「現時点では何も決まっていない」と繰り返した。徳永議員は「当事者の意見を受け止めて決定していただきたい」として、当事者の言葉を朗読した。妻子を北海道に避難させている郡山市の男性は「汚染が解消されない福島に家族は戻せない」との言葉を寄せた。その言葉を受けて、それまで「避難者に帰還を強制するわけではない」などと答弁していた竹下大臣が、「これは言ってはいけないのかもしれないが」と前置きして〝本音〟を漏らした。

 

 「郡山市でも普通に生活している人がいるということは忘れてはいけないと思う」

 

 自主避難者に寄り添うと言いながら、腹の底では「もう被曝の危険性などないのに避難を続けている」と考えていると思われても仕方ない発言。神本美恵子議員(民主)の質問にも「福島に帰りたい人には帰っていただきたい。これが大前提。ずっと帰らなくて良いよ、という前提で復興を進めているわけではない」とも答えた。中野正志議員(次世代)に対しては「原発のエリアを除いては、復興の形が見え始めた」と述べ、避難指示が出された区域以外については汚染が解消しているともとれる答弁をした。水面下で「住宅提供打ち切り→帰還促進」の構図が描かれていることは明らかだ。

 

 紙智子議員(共産)は「復興の遅れにつながるとして、自主避難者への住宅無償提供を打ち切るよう福島県に国が圧力をかけたことはあるか」と質した。山谷大臣は「そのようなことはございません」と否定したが、無償提供延長へ前向きな言葉も無かった。

 

 両大臣の答弁に垣間見える「避難を終わらせて福島に帰って」の本音。主体的に避難者を守ろうとせず、福島県に責任を押し付けるような姿勢に終始した。何より残念だったのは、他の出席議員から自主避難者を後押しするような野次が飛ばなかったばかりか、居眠りする議員さえいたことだ。自主避難者支援への関心の低さがうかがえた。

 

〈文・写真:鈴木博喜〉