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【自主避難者から住まいを奪うな】永田町に響いた母の叫び、止まらぬ涙~「わが子を被曝させたくない」(鈴木博喜)

原発事故後、福島県外へ自主避難した向けの住宅無償提供の打ち切りが浮上している問題で、東京や京都などに避難した母親らが29日、都内で集会を開き、国や福島県の職員に涙ながらに無償提供延長を訴えた。「何も決まっていない」、「協議中」と繰り返す公務員たちに、母親らは怒りと危機感を募らせたが、色よい返事は無し。「大臣や知事に私たちの声を届けて」、「どうしてここまで泣かされなければいけないのか」。永田町に母親たちの涙とため息が広がった。

 

 

【「自主避難者の声を聴いて」】

 

 誰もが泣いていた。

 

 避難を決意したあの日。わが子への想い。避難先での寂しさ…。言葉にしようとすると、自然と涙があふれてくる。最後は、絞り出すような声で頭を下げていた。「住宅支援を打ち切らないでください。助けてください。お願いします」

 

 参議院会館の会議室。内閣府、復興庁、東京都、福島県の職員が並んで座った。反対側のテーブルには、福島から東京や神奈川、京都などへ自主避難し、「キビタキの会」で交流を続けている母親たち。住宅の無償提供が打ち切られることへの危機感を、一人ずつ語った。

 

 「ようやく東京での生活に慣れてきたところなのに…。今、打ち切られてしまうと本当に困ってしまう。途方に暮れています。再び知らない土地で一からやり直すなんて無理ですよ」。30代の母親には4歳になる娘がいる。最近、頻繁に鼻血を出すようになった。「原発事故後、自宅前で7μSv/hもあった。友人は子どもがガンになる可能性が高いと医師から言われて、すべてを捨てて北海道に避難した。そんな状況でいわき市には帰れません」。

 

 「いろんな場面で『自立しろ』と言われます。確かにお世話にはなっていますが、この状況をつくったのは誰ですか?」。やはりいわき市から避難中の30代の母親は、途中から涙声になった。「まだ協議中と言うなら、私たち避難者を協議の場に呼んでください。双子の子どもを連れてどこへでも行きます」。

 

 福島市から関西に避難している母親は「好きで避難しているのではありません。戻りたい気持ちはあります。でも、子どもの健康を考えると今の段階では戻れません」。とめどなく流れる涙。母として子どもを被曝の危険から守らなくてはならない。「避難者の声も聴かずに決めないで欲しい。ここにいる私たちの後ろには、何万人もの避難者がいるんです」。

 

 京都に避難した40代の母親は「毎日、住まいはどうなるんだろうと心配しながら暮らしています。早く安心させてください」とマイクを握った。今朝、高校生になる娘からこんな言葉をかけられたという。

 

 「もう転校したくないよ。ずっと京都にいたい。ママがんばってきて」

 

 

【誰が、いつ最終決定するのか?】

 

 切実な訴えを繰り返す母親らに対して、国や福島県職員らの反応は事務的だった。

 

 「住宅の無償提供延長は、福島県知事からの協議書が国に提出され、安倍総理の同意に基づき、最終的に福島県知事が決める。まだ協議書が提出されていない以上、何も決まっていないとしか言えない」。内閣府の若手職員は淡々と答えた。

 

 これまでに、様々な団体が福島県庁などを訪れて無償提供の延長を求めてきた。その度に国や行政は「協議中」の一点張り。この日も、東京に駐在しているという福島県避難者支援課の職員が「皆様の要望は上にあげさせていただいている」と抽象的な答えに終始したため、母親らからは怒号も飛び交った。「朝日新聞の報道は正しいのか間違っているのか」、「住宅無償提供を打ち切るか否かはいつ、誰が決めるのか」と迫った母親らに対し、公務員側は誰も答えることができない。カラオケ嫌いの人同士のように、マイクを押し付け合う場面さえあった。

 

 南相馬市から神奈川県内に避難中の50代女性は言う。「国って何なんでしょうね。私たちがどうして、ここまで泣かされなければならないのでしょうか。皆で路頭に迷えとでも言うのでしょうか」。福島市から京都に避難した40代の母親は「汚染をちゃんと測定してください。測定しなければ、私たちがなぜ避難したか理解できないでしょう」と訴えた。だが最後まで、公務員側から明快な答えはなかった。「お母さん、ボクここを追い出されちゃうの?って子どもが泣くんです」。涙ながらに訴える母親の言葉を、彼らはひたずら手帳に書き写していた。

 

 途中から参加した山本太郎参院議員が「復興大臣や福島県知事に直接、お母さんたちの声を届ける場をつくれませんか?」と呼びかけたが、色よい返事は無し。「残されている時間があまりにも少なすぎる。打ち切られたら路頭に迷うんですよ。お願いします。直接、訴えるチャンスをつくってもらえませんか。力を貸してください」と山本議員が求めたが、誰一人、賛意は示さなかった。

 

 母親の一人が言った。「福島県の動きを待っていないで、国の方から『延長を認めるから早く書類を出せ』と言えばいいじゃないか」。返事は無かった。

 

 

【「福島県外に復興住宅を」】

 

 京都で避難者と支援者のネットワークづくりに奔走している「うつくしま☆ふくしまin京都」(奥森祥陽代表)は集会に参加した後、自民党本部を訪れ、同党の「東日本大地震復興加速化本部」宛てに要請書を提出した。

 「福島県民に放射線被ばくを強要する『居住制限区域』と『避難指示解除準備区域』の解除を求める『第5次提言案』の撤回を求める」と題した要請書では、自主避難者向けの住宅無償提供を延長するよう直接には触れていない。「放射能汚染地域への住民帰還を強要するという非人道的な提言を行ってはなりません」と被曝による健康被害の危険性について重点を置いている。奥森さんらには「避難指示の解除は賠償の打ち切りを視野に入れている。つまり、避難指示の解除に伴う帰還の促進には、今回の住宅無償提供問題も含まれているのです。根幹を攻めなければ何も解決しない」との考えがあったからだ。

 

 対応したのは党政務調査会の事務方。この日、公明党と連名で安倍晋三首相に提出した提言には2017年3月末までに避難指示を解除するよう盛り込まれたが、「除染できれいになったから帰りなさい、ではなく、帰っても良いですよという主旨。帰りたい人が帰れるようにするものです」と繰り返し説明。帰還促進ではないと強調した。

 

 母親らが「除染をしても震災前の状態には戻らない」、「健康被害が出た時、自民党は責任をとれるのか」、「福島県外の避難先に復興住宅を建設して欲しい」と迫ったが、「皆さんが何について心配されているのかは良く分かりました」と答えるにとどまった。提言での避難指示解除の時期が、報道された住宅無償提供打ち切りと一致していることについても、明言を避けた。

 

 原発事故直後から、府職員として京都に避難した母親らの苦労を見守り続けて来た奥森さん。「避難者は、これまでも支援を受けて来たと言う人もいるけど、住宅の無償提供くらいのもの。賠償金だって避難指示区域の人々と違ってごくわずか。ADRでようやく避難の実費を勝ち取っている状態ですよ。ここで打ち切られてしまったら、彼女たちは本当に路頭に迷ってしまうんです。これからも無償提供延長を働きかけていきたい」と話した。

 

(文・写真:鈴木博喜)