イラクのラマディーは誰の物? ラマデイー住民を追い出す根拠は?真犯人は? (平田伊都子)
「イラクのラマディ奪還作戦にISが激しく抵抗」とは、NHKが5月28日4時19分に流したニュースのキャッチフレーズです。 BBCをはじめ欧米メデイアのラマディー特集はもう終わっています。 日本メデイアは欧米の貰いニュースで済ませるから、どうしても「三日おくれの~~」になってしまいます。
そして、「過激派組織ISとシーア派民兵の援助を受けたイラク政府軍のラマディーを巡る争奪戦、裏で糸引くアメリカとイラン」と、欧米メデイアがくくると、日本メデイアも安心して一応、区切りをつけてしまいます。
ラマディーの人々はどうなってるのさ?!
*イブラーヒーム虐殺:
2015年4月17日、イッザト・イブラーヒーム・アッドゥーリーがイラクのティクリートでシーア派民兵とイラク軍の有志連合軍に惨殺された。 ティクリートはフセイン元イラク大統領の生地。
2002年4月28日のフセイン誕生日に、フセイン大統領に会えると言うので筆者はティクリートにでかけたが、出てきたのはNO2のイブラーヒームだった。 イラク戦争でフセイン政権を倒したアメリカは、2003年11月、No2イッザト・イブラーヒームに1,000万ドルの賞金を賭けた。
同じ月に、アメリカ軍はイブラーヒームの妻と娘をサーマッラーで逮捕し、数人の親族や彼の主治医の息子などを拘束し拷問した。 その手口は、パレスチナ人の拘束者を追い詰めるイスラエルの情報機関と同じだ。
2003年12月25日、フセイン大統領が逮捕されると、イブラーヒームが、バアス党地域指導部書記長に任命される。
2006年12月30日にサッダーム・フセインが米軍に絞殺された後、<アル・バスラネット>などのイラク・バアス党系ウェブサイトが、「イッザト・イブラーヒームがイラクの合法的な大統領及びイラク軍最高司令官とバアス党地域指導部書記長に選出された」と、声明を出した。
その後、何度も死亡ニュースとまだ生きてるよという自らの声明映像が流される中、イラク共和国大統領兼イラク軍最高司令官は、アメリカ軍とその傀儡であるイラクのシーア派政権に刃向い続けた。
イブラーヒームイラク共和国大統領は、フセイン政権崩壊後に台頭した過激派組織・ISILに協力してイラク政権奪還を目指した。 2014年2月13日の軍事作戦ではキルクーク県やディヤーラー県を支配下に置き、ハムリーン山を拠点にした。
6月10日に行われたモースル占領作戦にも関与し、6月29日に樹立宣言をしたイスラム国(過激派組織IS)を、7月には称賛する声明を発表した。
しかし、汎アラブ主義を掲げるイブラーヒームは思想面で過激派組織ISと対立したため、すぐに離反し、11月には過激派組織ISに対し宣戦を布告した。 そして、ハムリーン山やティクリートやモースルでは過激派組織ISに攻して戦闘を行った。
*ティクリートを陥落させた俺たちにラマディーを落とせないわけがない!:
2015年5月18日、イラク軍は過激派組織ISによって、ラマディーから追い出された。
イラク軍を軍事援助するアメリカ国防省のカーター長官は、5月24日のCNNインタヴューで、「イラク軍には戦闘意欲がない」と、逃げたイラク軍を非難した。 反発したシーア派イラク現政権のアバーティ首相は、5月25日にBBCのインタヴューに応じ、薄ら笑いを浮かべて英語で、「数日中にラマディーを落として見せる」と、繰り返した。
スンニ派フセイン元大統領の拠点ティクリートでNo2のイブラーヒームを殺した実績を強調し、スンニ派第二の拠点ラマディーを奪還するのは時間の問題だと、シーア派アバーティ首相は豪語した。 彼の素振りや言葉から滲み出てくるのは、過激派組織ISに対する戦闘意欲ではなく、スンニ派に対する憎しみだ。
フセイン・イラク政権がアメリカ軍によって崩壊し、その後、政権を取ったシーア派は、間違いなくスンニ派の徹底殲滅を謀っている。 フセイン・イラク政権時代にはスンニ派もシーア派もお互いを意識することなく仲良く暮らしていた。 一緒にイラク中を取材して回った運転手サラームはシーア派だったし情報省の案内人サミールはキリスト教徒だった。
アルシャバーブTVの親分はスンニ派だった。 一体、誰が憎悪というバイ菌をまき散らしているのか? イラクが崩壊して内紛状態が続くと、一体、誰が得をするのか?
考えてみよう、、
*ラマディーの人々:
2015年5月22日、ユーフラテス川にかけられたブザブズ橋に、ラマディーの人々が殺到した。 ブザブズ橋を渡って約50キロ離れた首都バグダッドへ逃げようとする人々の中に友人がいないかと、BBCやロイターの映像に目を凝らした。 ラマディーから逃げる市民は数日で数万人に膨れ上がった。 ラマディーとバグダッドは100キロ離れている。
ラマディーはヨルダンとシリアに国境を接するアンバール州の州都だ。 ユーフラテス河畔の肥沃な土地は農作物に恵まれ、文化も発達し人々の教育水準も高く、住民の反抗心と独立心が旺盛だった。
1920年代にイギリス委任統治領だった頃に反英闘争を仕切ったスンニ派のドレイミ族は、フセイン政権を倒したアメリカ軍の奴隷になり下ろうとはしなかった。 ペトレイアス・イラク駐留米軍司令官が金で手なずけた末端部族長の裏切りがなかったら、今もアンバール地域の人々は正々堂々とアメリカ傀儡のシーア派政権に渡り合っていたに違いない。 いや、公正で透明な選挙を主張し続けているラマディーの有識者たちは、民主的に政権を取っていたかもしれない。
現代魔女裁判と言われる<フセイン大統領裁判>で アメリカやその傀儡イラク政府と互角に闘ったハリル・ドレイミ弁護士はその名の通り、ラマディーのドレイミ族だ。 2005年に来日し、イラクの惨状とイラク国民の真意を訴えたマジド・ドレイミも、ラマディーに本拠を置くドレイミ族の直系だ。
10日間、日本の各地でマジド・ドレイミと講演の旅をした筆者は、「我々スンニ派は、洗脳されたシーア派民兵の標的になっている。催眠術をかけられた奴らの残酷さは異常だ。もともと、イラクには、シーアとかスンニとかの区別などなかった」と、マジドから教えられた。 シーアとかスンニとかの差別を、誰が強調するのか? シーアとスンニが殺し合って誰が得をするのか?
2015年5月26日のホワイトハウス記者会見で、アーネスト報道官は、「アメリカと有志連合はイラク政府軍を支援する」と表明し、5月25日に武器供与したことを示唆しました。 アメリカは切れ目なく武器を提供するとイラク政府に約束しているそうです。
アメリカが支援するシーア派イラク政府はシーア派イランの強力な軍事援助を受けており、イラク政府軍の友軍であるシーア派民兵は完全にイラン軍下にあります。 ということは、敵対関係にあるとされるアメリカとイランは、イラクに置いてはお友達、実際上は有志連合なのでは!?
住民には見えないところで、各国政府の話し合いはついているのでしょうか?
アメリカ有志連合による空爆にさらされ、イラク軍の砲撃を浴びるラマディー住民は、どうすればいいのでしょう? どこへ逃げればいいのでしょう?
戦場は武器の消費市場です。 世界の武器輸出国ダントツNo1はアメリカ、そして欧州に続いて控えているのが、アメリカの親友イスラエルです。
文:平田伊都子 ジャーナリスト、 写真:川名生十 カメラマン