台湾・李登輝元総統、中国・北京大学での講演依頼(相馬勝)
中国の次期最高指導者、習近平国家副主席に近い人物が要請か?
台湾の李登輝元総統が1日、「この2年間で、中国側から北京大学での講演について、複数回の誘いがあった」と発言し、中国政府がただちに否定するなど波紋を呼んでいる。
依頼されたという講演のテーマも「最高指導者の条件」という意味深なもので、胡錦濤中国国家主席ら中国最高指導部への当てつけともとれるだけに、李登輝氏に講演を依頼したとされる人物に関心が集まっている。
[caption id="attachment_2815" align="alignnone" width="620"] 筆者と李登輝総統。台湾総統府にて(撮影=筆者)[/caption]
この発言は、台湾でも風光明媚で自然が豊かな中南部・彰化市で休暇を楽しんでいる際、地元メディアの取材で飛び出した。
李登輝氏は日ごろから「中国政府が台湾と仲良くしたいのならば、与党の国民党ばかりでなく、野党の民主進歩党(民進党)の要人も大陸(中国)に招待して、両方から話を聞かなければならない」という趣旨の発言をしていた。
地元メディアの記者がスクープ狙いで、これにひっかけて、「大陸を訪問する予定はないのか」と質問。
報道によると、これに対して、李登輝氏は「この2年間で、ある人がしきりに大陸を訪問しないかと誘ってきている」などと答えて、「ある人」は北京大学での講演を持ち出し、「李登輝氏が国民党主席時代、なぜ台湾民主化を進めようとしたのか、どのようにして台湾の民主化を推進したのか、などについて講演してほしい」と頼んできたという事実を明らかにした。
李登輝氏は「中国は中国。台湾は台湾だ。現段階では行くことはできない」と答えたというのだ。
[caption id="attachment_2813" align="alignnone" width="620"] 中国大陸に近い、台湾の金門島の海岸(撮影=筆者)[/caption]
実は、李登輝氏は台湾が日本の統治下にあった18、19歳当時、中国・山東省の観光地として名高い青島市を訪問したことがあり、大陸訪問の経験がないということはない。
「では、大陸を再訪することはないのですか」との記者のしつこい質問について、李登輝氏は「中国が自由化して、私がそのとき生きていれば、私はすぐに(大陸に)行くよ」と答えたという。
とはいえ、李登輝氏は現在90歳という高齢で、さらに中国が今後数年で、共産党一党独裁体制を放棄して、民主化、政治的な自由化を成し遂げるというのは事実上、実現不可能とみられるだけに、李登輝氏の大陸再訪も実現できるかどうか……。
[caption id="attachment_2814" align="alignnone" width="620"] 中台間を結ぶ中国のフェリー。金門島にて(撮影=筆者)[/caption]
中国政府で台湾問題を担当する国務院台湾弁公室の楊毅スポークスマンは「李登輝がなぜ講演をしなければならないのか。はっきりとしないが、私が知る限り、このようなことは一切ない。北京大学で講演をしてくれと依頼するような人物はいない」と素っ気ない。
李登輝氏は中国政府にとって、「台湾独立派の頭目」であり「分裂主義者」である。それこそ台湾問題は武力を行使しても、中国の主権を守るという『核心的利益』に当たるだけに、その張本人である李登輝氏を、しかも中国で最高の大学である北京大学に招いて、さらに「最高指導者の条件」という中国指導部を刺激するのは必至なテーマで講演をさせるというのは考えられない。
とはいえ、台湾の最高指導者でもあった李登輝氏が口から出任せで、北京大学で講演しないかと誘われていると語るとは思えない。常識的に考えれば、北京大学にコネクションがあり、その許可もとれるだけの権限があり、財力も政治力もある人物が李登輝氏に依頼したと考えるのが妥当だ。
台湾というと、邪推だが、次期最高指導者の習近平国家副主席は、台湾と対岸にある福建省で17年間も幹部をしており、台湾の要人と近いという情報もあるだけに、習近平氏周辺の人物が中台統一を推進しようと李登輝氏に近づいたということも考えられる。そう考えると、中台統一は案外近いのかも知れない。いずれにせよ、李登輝氏が公言するのだから、事実と考えられるだけに、中国から何らかの力が働いている可能性も否定できない。今後の中台間の動きは要注意だろう。
【NLオリジナル】