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【NLオリジナル】米では議員の身分をどう考えているか(大貫康雄)

大貫康雄 メディアと現代世界・第2回————「米下院議員の起訴事件」

「米では党議拘束で採決をすることはない」

小沢一郎氏らが結成した新党「国民の生活が第一」は(新党大地・真民主に続いて)党議拘束を設けない、という。

日本にもようやく議会民主主義、国民主権を理解した政党が誕生したのかな、という感じだ。

前回の繰り返しになるが、有権者の付託を受けた議員が政策を議論する場の国会は、憲法で定める通り、「国権の最高機関」。その一員となる議員は基本的に自立・独立した立場であり、国権の最高機関の運営をする責任と権限がある。

欧米では通常、いかなる法案であれ、議会で採決にかける前に徹底した議論をする。一般的には、その過程で多くの議員の賛同が得られる見通しがつけば採決にかける。反対が多く、説得が困難と見れば採決にかけない。

アメリカ議会では上院では民主党、下院では共和党などと多数派が異なることが多い(いわゆるネジレ)。例えば一つの問題で大統領が自分の政策実現にある法案を成立させてほしいと議会に要請しても、上院では賛成、下院は反対とかで簡単に成立しない。さらに上院と下院との間で法案が異なることが頻繁に起きる。その都度、両院協議会で論議して再調整を図る。最終的には尚、議員個々の判断で賛否が分かれる。

オバマ大統領の医療保険法の成立過程でも民主・共和、何人かの議員が党派を超えて判断している。議会民主主義は本来、議員一人ひとりが責任をもって党派を超えて議論を尽くす場なのだ。

野田政権のように最初に日程を決めて、議論を途中で打ち切り、嫌がる党所属議員に支持団体などを使って圧力をかけ、党議拘束をかけて採決を強行しようとするのは姑息で暴挙と言える。それも選挙で有権者に訴えたことと正反対の政策を掲げて強引に採決に持ち込む手法は、議会民主主義の破壊につながる。有権者の期待と信頼を裏切る行為だ。

「米では立法と行政は対立する」

前回、お伝えした、アメリカでの議員の身分、地位を理解するのに参考となる議員の汚職事件、これを紹介する。

ブッシュ(子)政権の2005年(以下20を省略05とする)、野党・民主党のルイジアナ州選出下院議員ウィリアム・ジェファーソンが、アフリカでのハイテク事業に関する収賄容疑で起訴され、後に実刑判決を受けた事件。

この事件の副産物として、アメリカの連邦議会(立法権)と司法省・FBI、それに大統領府・ホワイトハウス(行政権)との関係、議員の意識が日本に比べて如何に異なるか象徴的に表れている。

FBIは、ジェファーソン議員が夫人や子供の企業を通し、アフリカ・ナイジェリアで事業を進めようとするハイテク企業から合わせて40万ドルのわいろを受け取っている、との情報をもとに05年中頃から捜査を始める。

05年7月30日、FBIは議員がワシントン郊外のホテル・ロビーで10万ドルの現金を100ドル札の束で“投資家”から受け取り、更に“ナイジェリアの副大統領に渡す50万ドルが必要だ”、と現金を要求する場面を撮影・録音する。ほどなく8月3日、FBIはワシントン郊外の議員の自宅を家宅捜索する(この時点で新聞・テレビは、FBIが下院議員の自宅捜索を報じている)。

捜査が相当進んだ翌年06年5月20日の深夜、FBIはワシントンの連邦議会議員会館内のジェファーソン議員の事務所を家宅捜索する。ここから問題が大きくなる。

FBIはこれまでに、議員が受け取った札束をビニール袋に入れ、自宅の冷蔵庫の冷凍室に保管していたのを押収し、その証拠写真も撮影している。また札束に印刷されている通し番号が一致していることも確認しており、確実な証拠が十分に揃っている、として裁判所に家宅捜索令状を請求し、裁判所も認めている。

これに対し議員は直ちにFBIの家宅捜索の不当性を連邦地裁に訴える。

具体的な証拠が提示されており、大かたの議員はジェファーソン議員の汚職容疑は動かないものとみている。しかしFBIの議員会館内事務所捜索は前例のないもので、事件は単なる議員の汚職事件から、立法と行政の対立に発展する。

まず、議会内で黒人公民権運動を進める議員たち(black caucus)(超党派)がFBI批判に動き出す。

(一方で、証拠が明らかであることや同年11月選挙があるのを踏まえ、民主党のペロシ下院院内総務はジェファーソン議員に歳入・歳出委員会委員を辞任するよう要請する。証拠が明白なこと、11月に中間選挙を控えていること。それにABCなどの世論調査で国民大多数がジェファーソン議員に憤激していることが明白などを踏まえての要請だ。ジェファーソン議員は辞任を拒否するが、有力黒人議員2人がジェファーソン議員を説得)

6月15日、民主党が党内投票でジェファーソン議員の委員会除籍を内定、翌日、下院で正式に委員会からの除籍が決まる。あくまでも委員会からの排除を決めたもので、議員職そのものの辞任は要求していない。議員を辞めさせるか否かは有権者の判断に委ねられるからだ(まして議員の議会への証人喚問、などという声は誰からも出てこない。議会の役割、立法行為ではないからだ)。

時の与党、共和党のハスタート下院議長とペロシ民主党下院院内総務が、FBIは、議員会館内事務所での押収書類を議員に返還し、一方、議員は捜査に協力すべきだ、と異例の共同声明を出す。

FBIに批判的だったのは民主党より与党・共和党議員の方だった。特にハスタート議長は議会内で、ジェファーソン議員としばしば対立していたが、議員会館の捜索以降はFBIに対し厳しい姿勢を崩さず、捜査批判の最強硬議員となる。天敵が突然最大の味方となったように見えたのか、当時のメディアは“一つの皮肉な展開”と論じている。

繰り返すが、多くの議員は議員の汚職容疑の捜査自体には問題がないとみている。が、議員会館の家宅捜索を安易に認めれば、行政権力が立法府の権限を侵害し、三権分立の原則を崩壊に導く悪い前例となる、そのことを懸念した。

議員たちから、捜査を認めた司法省の予算見直しをする、との警告も出る。議会からの猛反発を受け、時のゴンザレス司法長官(日本の法務大臣にあたる)と司法副長官、それにモラーFBI長官は、司法省が押収書類の返還を求められた場合、それぞれの職を辞任する用意があること、などが報じられる。

ハスタート議長は、この問題を下院の委員会審議もかける、とブッシュ大統領に直接警告している。ブッシュ大統領は2006年5月25日、司法省に対し、議員事務所から押収した全ての書類を45日間封印し、全ての捜査関係者に接することを禁じる、異例の命令を出す(ひとつの指揮権発動である)。

一方、下院司法委員会は「思慮なき司法省:土曜の夜の議員会館捜索は憲法(の精神)を踏み躙ったか?」という公聴会を開いた。センセンブレナー委員長(共和党)は、司法省の行為は重大な侵害行為の疑念を生じさせる、と語る。

裁判は政治と関係なく進む

また議員会館内事務所の家宅捜索を認めた裁判所にも批判の声が上がっている。

アメリカ議会がこれまで強硬になった理由は、二つ。

FBIによる議員会館内事務所の家宅捜索が前例のない行為であったこと。もう一つは当時のブッシュ政権が行政府(大統領府)の権限を出来るだけ強大するよう憲法解釈を進める一方、立法府(議会)の権限を出来るだけ縮小しようとしてきた。この大統領府の議会無視の姿勢に対し、議会側が反発、反抗に立ち上がる機会となったことだ。

また大統領側が譲歩をせざるを得なくなった背景にはイラク戦争、アフガン戦争を続けるブッシュ政権への国民の支持率が低下しており、共和党の議員たちは大統領に距離を置き始めた。このため大統領府側も議会との関係改善の必要に迫られていたこともある(いずれにしても三権分立の原則と憲法重視の論理はアメリカ政界でことあるごとに取り上げられる)。

この間、もちろん“ジェファーソン議員は逮捕(自由を拘束)されていない”。日本のように検察が安易に議員を逮捕するようなことはない)。議員活動は続けており、予備選、本選とも接戦ではあったが、11月の中間選挙では再選を果たす。

裁判の方は政治活動とは関係なく続く。2007年6月、議員は連邦大陪審で汚職の罪で起訴され、議員活動を続けながら裁判に臨んでいる。2008年12月2日に予定された控訴審公判を、総選挙の直前であるとの理由で議員の日程延期要請を認める。

しかし議員は2008年12月6日、ルイジアナ州ニューオルリンズの選挙区で敗れ議員資格を失う。汚職関与が明らかで、多くの有権者が支持を辞めたことが敗因だが、皮肉なことにニューオルリンズ一帯を襲ったハリケーン・カトリーナの被害で黒人支持者の多くが選挙区外に転居したことも選挙で敗れる一因となった。

ジェファーソン前議員はルイジアナの農家の9人の兄弟・姉妹の一人として生まれ育つ。バトン・ルージュの南部大学を卒業後、司法界に入り、手腕を発揮。91年から下院議員に連続当選してきた南部黒人社会にとって立志伝中の人。進歩的民主党の一員で黒人社会から強い支持を受けてきた。それだけに汚職で有権者の信頼を大きく損ねたこともある。

日本とは裁判制度が異なるが、前議員となったジェファーソン被告はその後も無罪を主張しながら地方裁判所や控訴審裁判所で裁判が続く。2009年8月5日、ジェファーソン被告は16の罪状のうち11で有罪が確定。11月13日、懲役13年の実刑判決が出る。連邦議会議員の犯罪としては最長期間の懲役刑となり、12年3月26日、控訴審でも有罪判決が出る。

ジェファーソン被告が刑務所に収容され身柄を拘束されるのは、裁判闘争を断念した後、今年5月4日(金)となり、その日の昼前、家族らと共に刑務所に到着する。被告に懲役13年の判決を言い渡した判事はレーガン大統領の任命判事。ジェファーソン被告に、電子モニターで監視されるのを条件に刑務所に入るまでの間の自由を認めている。入所は懲役10年以上の受刑者が入るテキサス州ボーモント刑務所と決まる。刑期が10年以内となった時は、ニューオルリンズ近くの刑務所に移されることも可能だといわれる。

アメリカ議会と日本の国会のありよう、3権分立の原則に関する議員の意識が、如何に似て非なる部分があるか判って頂ければ幸いである。

 

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