中国共産党高官の子供や孫、90%以上が外国籍 富豪の6割も海外移住を検討(相馬勝)
中国では最高指導部入りをほぼ掌中にしながら突然失脚した薄熙来・前重慶市党委書記(党政治局員兼党中央委員)の息子、薄瓜瓜がハーバード大ケネディスクール(大学院)を修了し、このほど同大の卒業式で学位を授与された。ハーバード大大学院の学費は年間7万ドル(約570万円)だが、彼の場合、大学の近くに毎月家賃が20万円以上のワンルームマンションを借りていたので相当の出費になったのは間違いない。それ以前に、瓜瓜氏は12歳から英国に留学しオクスフォード大に進んで、さらに大学院はハーバードなので、この間の学費は膨大な額になる。
中国共産党機関誌「人民日報」によると、薄熙来氏の月給は約1万元と日本円で13万円なので、彼の収入だけでは、とてもではないが、息子を英国と米国に留学させることはできない。これだけでも、薄熙来が職権を利用して腐敗に手を染め、不正蓄財していたのは容易に想像できる。ちなみに、日本経済新聞は、彼の不正蓄財が1000億円以上だと報じている。
実は、このように息子や孫をハーバードなど米国の大学に留学させているのは薄熙来氏だけではない。米ワシントン・ポストによると、次期最高指導者と目される習近平・国家副主席の長女も現在、ハーバード大で学んでいる。江沢民・前主席と趙紫陽・元党総書記の孫もハーバード大で学んだことが分かっている。
(北京のマンション群=筆者撮影)
それでは、子息や孫を米国に留学させるのは最高幹部の特権かというと、そうでもないらしい。
香港誌「動向」最新号によると、今年3月末現在で、中国共産党員8000万人のプラミッドの頂点に立つ党中央委員(党政治局常務委員と政治局員を含む)204人の9割を占める187人の直系の家族が米国など西側諸国に居住し、その居住国の国籍を取得している。党中央候補委員167人の85%を占める142人も同様だ。
さらに、中国本土で1000万元(約1億3千万円)以上の資産を持つ富豪59万人のうち、14%はすでに海外での永住権を保有するか移民手続きの申請中、さらに46%が検討中と、将来的に海外移住者は全体の6割に上る可能性があるという統計も発表されている。これは中国の外為専門銀行である中国銀行などの調査結果だ。
米ニューヨーク・タイムズが報じたところでは、大臣級の高級幹部(引退した幹部を含む)の子息の約74.5%が米国に留学して米国籍を取得しているか、グリーンカード(永住権)を保有しているという。
(長春市内の新興住宅街=同)
なぜ、中国の党・政府の高級幹部、あるいは富豪が子息や親族を海外に移住させているのか。中国本土の専門家によると、その大きな理由は3つある。第一に子弟の教育問題、次に財産の安全確保、3番目が老後の生活の安定―である。これらに共通しているのは経済システムや政治システムの不安定さだ。北京在住の筆者の友人は「中国はいまだに共産党一党独裁体制で、89年の天安門事件やかつての文化大革命のように、いつ政治的な大混乱が起こるか分からない。その点、アメリカなど欧米諸国ならば安心だ」と語る。つまり、友人は「一党独裁下における中国では政治的な安定は望めない」と主張しているのである。
中国では秋の党大会を控えて、熾烈な権力闘争が展開されている。薄熙来氏の突然の失脚はその典型的なパターンだ。その党大会では最高指導部のほとんどが入れ替わることが予想される。しかし、中国ではようやく手に入れた権力も薄熙来氏のように一夜で失う可能性もある。そのときに備えて、いつでも外国に逃げることができるように、子息や親族を海外に移住させていると言うのは言い過ぎだろうか。いずれにしても、国民が住みやすい国を作るべく制度やシステムを変えていこうとせず、自分や一族だけが特権的に地位を享受するだけで自身が指導的な地位を占めている祖国を捨てて家族を海外に移住させているのは、一般の中国国民を愚弄しているとしか思えない。