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今欧州で起こっている事、これから起こる事(蟹瀬誠一)

「メルコランド」をご存じだろうか。遊園地ではない。新しく仏大統領に選出されたフランソワ・オランド(57)とメルケル独大統領の名前の一部を組み合わせた造語だ。

敗れたサルコジ大統領の時には独仏の密接な協力関係を象徴する言葉として「メルコジ」が登場したことはご記憶に新しいだろう。しかし今度はそううまくはいかないようである。単一通貨ユーロ圏を死守しようと「メルコジ」が放蕩息子ギリシャを攻め立てたため、その影響が南欧の信用不安となり、フランスまでもが緊縮財政を余儀なくされてしまったからだ。

その間、しっかり者のドイツはちゃっかり輸出を伸ばしてドイツ経済は絶好調である。フランスでは失業者が街に溢れているのに、ドイツの失業率は過去20年間で最低の水準になっている。これではフランス人が面白いわけがない。というわけで美人妻とバカンスを楽しむサルコジに代わって登場したのが「大きな政府」を支持する社会党のオランド氏である。

じつは選挙前までは彼の性格や人柄は、世界はおろか仏国民にもよく知られていなかった。そんな人物が一躍スポットライトを浴びることになったのは、社会党候補として本命視されていた前国際通貨基金(IMF)専務理事ストラスカーンが性的暴行疑惑で失脚してしまったことによるものだ。人の運命とは本当に分からない。

オランド氏は仏北部ルーアンで耳鼻咽喉科の父とソーシャルワーカーの母の間に生まれた。フランスのエリート養成最高学府「国立行政学院」(ENA)を卒業した後は社会党入りし、故ミッテラン大統領の経済担当補佐官などを務めた、いわゆる実務家タイプだ。1981年に国民議会選挙で後に大統領となるジャック・シラクと対決したが、大負けしている。

オランドはこれまでの緊縮型の財政再建に反対し、経済成長を促す政策を重視。成長を促すのはいいが、金融緩和によって公的債務が再び増加する危険が大きい。なぜなら経済成長を促すための財政・金融政策は財政規律を弱め、新たな借金を生み出すことに他ならないからだ。

ほぼ同じ時期に行われたギリシャ国民議会選挙でも緊縮財政に反対する極左政党が躍進し、政局は混乱の極みだ。別の見方をすれば、これまで公金を気前よく使ってきた経済がリーマンショックなどの影響でいきなり財布の紐を引き締めたため、ヨーロッパでは圧倒的に多い中小企業の経営が行き詰まって不満が爆発した結果ともいえる。財政赤字で苦しむイタリアでは近年、借金苦の中で中小企業経営者や失業者が自殺するケースが目立つ。

そこで重要になってくるのがヨーロッパ経済の牽引車であるドイツとフランスのがっちりとスクラムを組んでユーロ危機に対処できるかどうかだが、どうも望み薄のようだ。オランドが財政健全化の手を緩めれば独仏連合にひび割れが生じ、ユーロ圏全体の危機になるだろう。ギリシャもユーロを離脱せざるを得なくなる。そうなれば日本経済にとっても大打撃だ。

「安全への逃避」のため世界のお金が一時的に日本の債券に向かっているからといって、喜んでいる場合ではない。