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武雄市が公立小中校に導入したICT利用教育の破綻した実態②〜「大人の事情」で採用されたAndroid〜(今西憲之)

前回記事はこちら→武雄市が公立小中校に導入したICT利用教育の破綻した実態①〜動かないタブレット型端末〜(今西憲之)

 

武雄市では、2014年春からすべての小中学生にタブレット型端末を配布した、ICT教育、スマイル学習をはじめる計画を打ち出した。そこで、どのようなタブレット型端末を選定するのか、樋渡啓祐市長(当時)は、外部の専門家を交えて、「武雄市ICT教育推進協議会」を設置。その会議を経て、KEIAN M716S-PSというAndroidがベースとなっている機種が導入された。

 

武雄市の内部資料では、東洋大学の松原聡教授が座長で、ICT教育に詳しいとされる有識者と武雄市の先生ら、総勢12人で構成されている。

会合は、武雄市と東京で数回、開催されている。

私が入手したその議事録によれば、この場では当初、iPadが有力視されていたのだ。

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〈写真:報告されたタブレット端末の一覧〉

 

2013年4月15日、第1回 武雄市ICT教育推進協議会。

iPadについて、「時間のロスがない」「アップルでいきたい」、先行して実証授業が行われている小学校でもiPadを使用していることもあり「切り替える理由をつけづらい」。

そして、KEIANのAndroidについては「Androidを推す理由があんまりない」。

 

2013年8月7日、第2回武雄市ICT教育推進協議会。

iPadについて、「使いやすさ、瞬間起動、授業を妨げない」と高く評価されて、小学生と中学生のどちらが使用しても二重丸だとされた。

 

一方、KEIANのAndroidは「いろいろ障害が発生することが考えられる」とされ、iPadよりランク落ちるような評価となっている。

 

だが、最終答申では、不思議なことに、機種を限定せず、OSやディスプレイのサイズ、カメラ付きなどと述べるにとどまった。それを受けて、武雄市の小中学校タブレット端末導入選定委員会が開催された。

 

一部の学校でテストケースとして導入されたKEIANの機種について「小学校では現行機での不具合の対応に苦慮している」と厳しい意見が出ている。

 

しかし、10月15日の選定委員会では、「KEIAN機がいいと思われる」「大幅な改善策が講じられた」として、KEIANのAndroidで武雄市教育委員会に答申されることが決まった。そして、なぜか直前に、KEIANの業者だけが、タブレット型端末の説明にやってくるという、奇妙なこともあった。

 

小学校が購入した、KEIANのタブレット型端末は1台税抜きで18000円だった。それをインターネットで検索して調べると、KEIANの同程度のものが8000円前後で販売されている。

 

ある業者に、武雄市が購入した時期に同じ機種がどれくらいの価格だったか聞いたところ、「2014年9月くらいで、マーケット価格で1万円するかしないか」という回答だった。

 

選定委員会の議事録についていたKEIANのパンフレットには、こんなキャッチコピーが入っていた。

「安価なAndroid端末お探しですか?」

性能より「安さ」が強調されているのだ。

 

一般的に同じ商品、たくさんの台数を買えば、安くなる。どうしてこんな価格になるのか、摩訶不思議だ。

 

一連の議事録を読んでいくと、児童生徒、先生の現場の目線がほどんど感じられない。

 

例えば、第1回 武雄市ICT教育推進協議会では、

「とにかく日本の中で一番輝くことをやりたいという話です。2015年までに荒川区、大阪市が全員に配布予定という情報もあり、早くやった方がよいということです」

「使わせないと話がはじまらない。使わせて効果をあげる」

となにがなんでも一番早く導入することが重視され、さも「手柄」を競うような話になっている。

 

先生の指導について意見が出ると「担当者を中心にということであればできるのではないかと思う」と不確かな話に終始する。

 

座長の松原氏の発言と議事録に記載があるところには「これまで非公開だよね」と断った上で「自民党がだいたいこの方針でいくということを固めたようで、逆にわれわれもこれを死守しますんで、たぶんこれで決まって行く可能性が高いんです」と述べている。

 

議事録から、松原氏は、与党の自民党が考えるICT教育の方向性に関する情報を知っていたようで、そのためにも、導入すべきと訴えている。

 

つまり「大人の事情」と「大人の目線」によって、税金でタブレット型端末を導入、ICT教育を推し進めようとしている様子が垣間見える。

 

実際、授業をするのは先生、受けるのは子供たちだ。

すべては子供たちのために。だが、武雄市では、すべては大人たちのために。

そう思わざるを得ないのである。

 

(続く)

 

〈文・写真:今西憲之〉