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武雄市が公立小中校に導入したICT利用教育の破綻した実態①〜動かないタブレット型端末〜(今西憲之)

佐賀県武雄市と言えば、市立図書館の運営をTSUTAYAに委託。

スターバックスの入る斬新なデザインで、これまでの公営の図書館のイメージを一新。

そして、市立小学校と中学校の全児童生徒にタブレット型端末を配布して、ICT利活用教育でも有名だ。

それらを実現させたのは、樋渡啓祐前市長。

全国的にも、改革の街としてその名をとどろかせた、武雄市。

 

だが、こんな話が聞こえてきた。

「武雄市のタブレット型端末を使った、ICTは破たんしています」

実際、この目で確認すると、まさに崩壊寸前だった。

武雄市のICT教育の実情を3度に渡り、リポートする。

 

 

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5月28日午後、武雄市の山間にある、市立東川登小学校にはネクタイ姿の男性ら、30人ほどがつめかけていた。

この日は、武雄市ご自慢の、タブレット型端末を使用した、公開授業が実施された。

「最新の授業がどう行われるのか、楽しみだ」

という期待する声の中、3年生と4年生の授業がスタートした。

 

だが、その内容は、黒板やプリントの一般的なもの。タブレット型端末も電子黒板も、なかなか出てこない。3年生の授業で終了まであと15分ほどという時間になって、ようやく、先生がタブレット型端末を出すようにと指示。

授業のアンケートをとるという。

 

「先生、動かんよ。暗い画面のまま」

「パスワードが入れられん」

とタブレット型端末の不具合を訴える児童が、複数いる。

そのたびに、支援員と呼ばれるサポート役と先生が、児童に駆け寄る。支援員は代替機を膝に置き、タブレット型端末を上下にしたり振ったりと大苦戦。

10分近く、完全に授業はストップしたままで、なし崩し的に終わってしまった。まったくの期待外れ。

 

「こんなのが、ICT教育なんだ」と落胆した表情の視察者もいた。

「公開授業なので、タブレット型端末を整備してきたが、やはりこうなりましたね。いつものことなのですが」と申し訳なさそうに話す、支援員。

 

授業の前、視察に来た人に説明があり、タブレット型端末に触れることができた。しかし、いくらアイコンを押しても進まない、ついにはフリーズ。

 

「タブレット型端末がよろしくない、性能がダメなのです」

そう武雄市の関係者は言った。

 

公開授業の3年生にクラスはたった9人。挙手やプリント配布すれば、アンケートは5分もかからないはず。10分のロスを1か月、1年で考えるとその時間は膨大だ。

 

公開授業後も説明会で、東川登小学校はタブレット型端末を使った「スマイル学習」について、「School Movies Innovate the Live Education classroomの略称で、学校の動画によって教室がより革新する授業という意味です。武雄市のスマイル学習は、予習と復習をひっくり返すもので、これまでは学校で教えて家で復習するということでしたが、自宅でどんな授業をやるのか予習をしてきて学校では、全体やグループで学ぶ時間を多くするというスタイルです。もちろん、家に帰って復習をするようにしています」と「反転教育」の有効性を説明した。

 

だが、肝心のタブレット型端末が動かないようでは、予習のしようがない。

また、使用されている動画も、静止画をつなぎあわせて動画風にしたようなもので、もっさりした動き。ある先生によれば「なんちゃって動画」と呼ばれているそうだ。

 

真子和久教務主任はタブレット型端末の問題を認めて、「率直に言いますと、もう少し動きが良いタブレットを市から配られていたらなと思うが、与えられているもので何とか対処するというのが現場の仕事」と苦しまぎれの話に終始した。

 

使われているタブレット型端末は、KEIAN M716S-PSという機種で、Androidがベースとなっている。

 

もともと、2010年から2つの小学校の実証授業で導入されていたのは、iPad。

独自に入手した資料では、機種の選定にかかわる会議でも、iPadが高く評価され、

「総合的にアップル」

「引き継ぐべき」

「メリットが大きい」

との意見が出されていた。

 

だが、なぜか2014年からの導入には、Androidの機種。

小学校3153台、中学校1550台が導入された。私が入手した、武雄市の内部資料によれば、全小学校に配布された3153台のうち、報告されたトラブルは287件。タブレット型端末を使い始めた直後の4月9日だけで23台もの初期不良が報告されている。毎月数十台もの不良の報告がずらりと並んでいる。まさに「欠陥」だらけ。タブレット型端末に投じられた税金は、2億1869万6236円。

 

それが、今、水泡に帰そうと化している。

なぜ、iPadではなく、Androidだったのか?

 

(続く)

 

〈文・写真:今西憲之〉