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日朝協議再開で正念場を迎えた拉致問題(辺 真一)

日朝局長級協議で拉致問題は進展するのか!?

日朝政府間本協議が15日からモンゴルで始まる。北朝鮮が主張した課長クラスによる再協議でなく、日本がこだわっていたワンランク上の局長級による本協議の開始だ。課長級協議での「早期開催」合意から3か月以上時間を費やしたものの、結果としては日本としては待ったかいがあったようだ。

北朝鮮のメディアは、8月下旬の課長級協議の開催については一切言及しなかったが、今回は日本と歩調を合わせ、9日に同時発表した。北朝鮮もそれなりの期待と様々な打算があるのだろう。もしかすると、北朝鮮が最後まで相手にしなかった李明博政権への当て付けと、来月投票の韓国大統領選挙を前に北朝鮮との関係修復を公約に掲げる野党候補への「後方支援」も企図しているのかもしれない。

ただし、日本側が「日本政府の基本的立場に基づいて協議に臨む」(藤村修官房長官)と拉致問題を取り上げる意向なのに対して、北朝鮮側は議題に関する言及はなく「両国間の関係改善のための問題を協議する」とだけ報じていた。

玄葉光一郎外相は拉致問題については「粘り強く協議することが大事だ」と述べ、局長級協議の展望について「1回では終わらないだろう」と予想していた。「双方が関心を有する事項を議題に幅広く協議する」ならば、当然、一回では無理で、協議は複数回にわたって行われることになるだろう。

順当に考えるなら、協議は8月初旬の赤十字会談で合意した日本人戦没者の遺骨収集や引揚者の墓参問題が本題となり、拉致問題はその付随として議題として取り上げられることになるだろう。

北朝鮮側は遺骨収集や墓参問題での人道的措置に対して、それに見合った日本側の対応、例えば、棚上げになっている食糧や医療支援を担保すれば、信頼醸成措置の一環として、拉致問題の協議に入るだろう。北朝鮮は遺骨と墓参を交渉の入口にし、拉致問題の解決を出口にする作戦のようだ。

拉致問題の早期解決を目指す日本側が今回の協議で求めているのは、2008年の日朝公式協議(斎木隆昭外務省アジア太平洋州局長=当時、と宋日昊国交正常化交渉担当大使が出席)で交わした合意事項の再確認とその履行だ。

自民党の福田政権下の2008年、日朝は北京で6月7日、11日と2度局長級協議を行い、さらに8月11日に交渉場所を瀋陽に移し、安否不明者の再調査と制裁の一部緩和で合意している。

即ち両国は、北朝鮮の責任ある調査委員会による安否不明者に関する再調査の実施と引き換えに、日本が独自に課した制裁の一部である人的往来の規制解除及び航空チャーター便の規制解除の実施で合意している。

この合意は、合意から3週間後の9月1日、福田総理が突如辞意を表明したことで履行されなかったものの完全に白紙化には至ってない。

消息筋によると、北朝鮮は今回の局長協議で日本側が4年前の合意事項の履行を求めてきた場合、二つの規制解除の他に万景峰号の寄港、許宗満議長ら朝鮮総連幹部の北朝鮮への渡航、さらには北朝鮮への送金規制解除を新たに求めるとのことだ。

前回の合意では、人道支援物資輸送目的の北朝鮮籍船舶の寄港問題は「よど号事件」実行犯の引き渡し問題と同様に改めて協議することとなっていた。

核問題が進展しない状況下にあって、また韓国と北朝鮮の関係が断絶状態にある中で日本が米韓に先んじて、大幅な制裁の解除に踏み切り、北朝鮮との関係修復を図ることは、北朝鮮政策で日米韓の3国関係を重視している日本としては呑みにくい。仮に受け入れれば、日本が秘かに期待している知日派である朴槿惠与党大統領候補の選挙戦に不利に作用するかもしれない。

野田総理が長く続かないことを承知している北朝鮮側も野田政権の足下を見て、要求を釣り上げることはあっても、再調査などの「約束」は次の政権を想定しているようでもある。

となると、今回の本協議では2005年の政府間交渉で日本が提示した拉致、安全保障、国交正常化交渉の3部会を設置し、並行して協議することなどを話し合い、4年前の合意履行は韓国の新政権とオバマ政権の二期目がスタートする来年1月以降となる可能性が大だ。

拉致被害者家族会が「勝負の年」と定めた今年も残り50日を切ってしまったが、4年ぶりに開かれる局長級協議は拉致問題の大いなる進展が期待される来年に向けてレールを引けるかどうかが焦点となるだろう。

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